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月下の出会い①

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白壁に金の文様。シャンデリアはまぶしく輝き、オーケストラが優雅な音楽を奏でている。
中央ではクルリクルリと男女が踊り、華やかなドレスが花弁のように咲く。
今回、トーランド王太子は非公式訪問ということで、公爵以上の名家だけが参加する舞踏会が行われてた。
少年王ライナスは案の定欠席…なのだが、セシリアはモスグリーンのドレスを着て壁際に立っていた。化粧もばっちりしているがそばかすなども付けて少しやぼったくしている。
だれもこれが少年王であるとは思わないだろう。

「セシリア、おまたせ」
「あ、グレイス」

淡い黄色のドレスを着た少女がセシリアの元にやってきた。
セシリアの飾り気のないくすんだ色のドレスとは違い、胸元にビーズの花があしらわれ、裾にフリルのついたそのドレスは、清楚な雰囲気のあるグレイスに似合っている。
グレイス=オーランドはセシリアのランドールからの親友である。セシリアが王都に来てまもなく、タイミングよくグレイスも王都に来ることになったのだ。
普段マクシミリアンやフェイルスなど男ばかりに囲まれて過ごしているセシリアにとっては気心の知っている同性の友人はありがたい存在だ。

「あのね、セシリアに頼まれた件だけど」
「うん」
「どうやらラバール伯爵は羽振りがいいという話を聞いたわ。ほら、あの娘さんの付けている髪飾りもネックレスも最新作でかなり高価なのよ。」

グレイスが指した方を見ると確かに、豪華な宝飾品を付けた女性がいる。
その隣にいるのはラバール伯爵だ。伯爵と歓談しているテオノクス侯爵はセシリアが王であることを快く思っていないのは知っている。

「まぁラバール伯爵もアレクセイ叔父さんの派閥よね。羽振りがいいか…。」
「それとラバール伯爵はセジリ商会とも度々接触してるの。ちょっと気になってるからそこも調べるわね。」
「いつもありがとう。」
「ううん、私たちは影の狼だから」

グレイスはほんわりと笑った。
色素の薄い髪と抜けるような白い肌、アクアマリンのような透き通った水色の瞳の彼女は一見すると薄幸の美少女のように見えるが、実は情報を引き出す手腕と探るための人脈がある。元々オーランド家は裏では別名"影の狼"と呼ばれマスティリア王家のため秘密裏に情報を探る独立部隊を有している。
それゆえ、グレイスも外見に似合わず冷静に人を見る。

「それとこれは要らない情報かもしれないんだけど…」

広場に視線を映したグレイスが思い出したように切り出した。

「ん?なに?」
「トーランドの社交界についても聞こえてきた話なんだけど、トーランドの王子様って社交界では"青薔薇の貴公子"って呼ばれてるんですって。」
「ん?薔薇のように見目麗しいとかっていう意味?」
「ううん。違うの。鉄仮面で冷静沈着な青と、どんな女性に対しても靡かず冷たいのに容姿が美しいから薔薇のように棘のあるという意味での通称で青薔薇の貴公子っていうんですって」

広場の中央で踊っているトーランドの王子はどう見ても青薔薇の貴公子という名前には見えない。
女性に対しても物腰が柔らかく、その微笑みで女性達の視線を釘付けにしている。
それに不愛想といったら彼の騎士とかいう従者の方ではないか。

「あの従者、意外に切れ者だったのよねぇ。それに…なんかどこかで見た顔なような…」

謁見時の、セシリアのカマかけの真意にいち早く気づいた男。
ただ彼が気になったのはその機転の速さだけではなく、どこかであったような既視感を覚えたからだ。
ただ、トーランドには知り合いなど居るはずもなく。

「気のせいかな。」
「あ、次のダンスはフェイルス様に誘われているんだった」
「いってらっしゃい」

グレイスからの情報も手に入れたし、そろそろ戻ろう。そう思ってホールから離れるようとすると、背後からうめき声がした。

「セーシーリーアー様ぁ!!」
「ご、ごめん!マックス!!これには訳が…」

振り向くと予想通りの人物―マクシミリアンが青筋を立てて立っていた。
セシリアはいつもマクシミリアンを振り回してはいるが、一応罪悪感はある。だから後ろめたさもあって怒られるのは苦手だ。

「ちょっと貴族達のパワーバランスを見に…」
「ああグレイス嬢にもなにか探らせてましたね。まぁその話はあとでゆっくり…」
「そ、それよりマックスの方はいいの?トーランド一行は?」

夜会不在の王の代わりに宰相であるマクシミリアンがトーランド王子の対応をしてたのだ。

「あぁ、お部屋にお帰りになりましたよ」
「そう。じゃあ、私もバレないうちに帰るから!あとはよろしくね」
「はぁ…本当に気をつけてくださいよ」
「分かってる。じゃあね」

背後で胃薬がなんちゃらと言っているマクシミリアンの声を聞きつつも、セシリアはそう言って自室へと戻るべくその場を離れた。
女性もののドレスを纏ったままでは自室に戻れないので着替えるための隠れ家に向かう。
そのためには庭を突き抜けていかねばならない。月明りを頼りにひっそりとした庭を歩く。このルートならば人は滅多にいない。
庭園は今、バラの季節で、月明かりに照らされた白いバラは芳しい香りを放ちながら咲いている。
このバラ園の先には忘れ去られた小さな温室があり、そこでセシリアはライナスの格好に戻るのだ。
足早に温室に向かっていると珍しく人がベンチに座っている。どうしてもその人物の前を通らざるを得ないのだが、彼は項垂れていて具合が悪そうだ。無視するわけにもいかず、セシリアは声をかけた。

「あの、大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫だよ。慣れないことをして少し疲れてしまってね」
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