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腹の探り合い①

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空は高く澄んでいる。
白亜の王城が光を反射してか輝いているようだった。
その王城の一室でセシリアは目を覚ました。

「はーあ。いい天気だなぁ…」

一つ伸びをして思いっきり深呼吸。脳に酸素を行き渡らせた。
コンコン
扉をノックされて返事をすると、侍女のアンナがワゴンに食事を乗せてやってきた。

「アンナ、おはよう」
「おはようございます、お嬢様。今朝の朝食はチキンスープとサンドイッチ、フルーツヨーグルトですよ。」
「頼んだ通りだわ。ありがとう。」
「頼んだ通りって…私は頼まれてはいませんけど」

少しアンナがむっとしながら紅茶を淹れてくれる。
セシリアが勝手に料理長に朝食のリクエストをしていたことが気に障ったのだろう。

「お嬢様、いくら料理長が貴方の正体を知らないとしても厨房にいって気軽にリクエストするのは止めてくださいって言ってるじゃないですか!」
「でも、ほら女中の格好をして、陛下付きの女中だって言えばばれないし。アンナに頼まれたっていえばすぐ用意してくれるんだよ。なんなら賄いも食べさせてもらってるんだ。だからばれてないって!」
「そういう問題じゃありません!!」

アンナはランドールから付いてくれている侍女だ。セシリアの身の回りは全部彼女に任せている。
気心が知れているのはいいが、本人はセシリアの姉とも母とも思っているようできちんと教育しなくてはと密かに闘志を燃やしているようだ。
マクシミリアンとタッグを組んではよく説教をするセシリアの中の二大ボスだ。

前王弟のアレクセイ派の貴族を相手にするよりも敵に回すとタチが悪いと思う。
だがアンナの言い分ももっともではある。セシリアはよく身分を隠して城をうろつくこともしばしばだ。セシルと名乗り小姓に化けて政務官を視察してたり、今回のようにシリィという名で侍女の姿で厨房に行っていたり。
しかも性質が悪いことにセシリアの正体を知らないはずなのに、みんなに可愛がられているのだ。

城内に味方が増えるのはいいのだが、やはり何かあるのではとアンナもマクシミリアンも心が休まる時がない。

「食事のご用意ができました」
「ありがとう」

セシリアはウィッグはせずに、金の髪を流したままだが黒いスラックスパンツを履き、首元を緩くしたシャツを着ている。
アンナに促されてセンターテーブルに用意された食事を前にソファーに身を沈める。

「どうぞ。宰相様からお預かりしていた書類です」
「ありがとう」

アンナから書類を左手で受け取ると右手でブドウを一つつまんで口に放り投げた。本来ならば行儀が悪いかもしれないが、如何せん今日のセシリアは忙しい。
トーランド王太子の来訪というイベントがあるからだ。そしてその前に確認しなくてならないことがある。
この書類もそうだ。謁見前に目を通した方が良いだろう。そこには基本的なトーランドの情報他に、他国では知りえない極秘の内容もあった。

「トーランド王太子は3年前に一度政権を奪われている、か。それを立て直したのだから結構切れ者よね。他国も世界情勢的に3年前は色々あったのね。」
「我が国も色々ありましたから」
「確かに、3年前はあっちあからもこっちからも無理難題を押し付けれた時期だったもの。まだ今の方がマシって、だいぶヤバかったわよね」

セシリアはくすりと笑いながら冗談っぽく言った。
コンコンとドアをノックする音がする。入室を許可すると、マクシミリアンが入ってきた。いつものように黒い服に身を包んでおり、首元まできっちり締めた着こなしはマクシミリアンの真面目な性格を表していると思う。

「また、そんな格好で報告書を読まれているのですね」
「仕方ないでしょ?時間がないしラスティが集めてくれた資料も昨日届いたみたいだし。」
「あぁ、ラスティは間に合ったのですね」

ラスティはセシリアの影だ。元々はセシリアを狙う暗殺者だったのだが色々なことがあって、現在はセシリアの間者として様々な情報を持ってきてくれる。セシリアが信頼する優秀な人材の一人だ。

今回もトーランドのことを調べてくれた。今回の目的は基本的には王太子の人となりの報告。それと可能ならば国の懐事情と何を中心に政策が進められているのか、あたりの調査を依頼してたのだ。


「なにか、気になる点はありましたか?」
「まずは基本的なところは分かったわ。気になるところと言えば…最近起こった大規模な山の地滑りかしら。あとはそこの地形かしら、ねぇ」
「それがどうしたのですか?」
「ねぇ、マックス。一つお願いがあるんだけど…」
「なんでしょうか?王都へのお忍びならダメですよ。」
「えー。今日は大人しくするから!!」
「今日"も"大人しくしててください!」

このようにいちいちセシリアの言葉に軽妙に返してくれるのが嬉しい。
まぁ…本人はそう思っているかは疑問ではあるが。
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