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スライブの回想③
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だが、その強制労働は意外にもいいものだった。気の置けない仲間はスライブを傀儡の王子ではなく一人の人間として扱ってくれたし、慣れない肉体労働は夜熟睡するという効果もあった。
単純作業は頭を空っぽに出来る効果もあって良かったが、如何せん同じ作業をするのも疲れる。
周りを見ても作業効率が落ちているのも明らかだったし、場所によって工事が進んでいるところと遅れているところなどのばらつきもあった。
(これは…もう少し工事のやり方を改善した方がいいな)
そんなことを自然と思い始めていた。最初は出過ぎたことをいいのはいかがなものかとか、自分の意見など言っても無意味だと傍観を決めていた。そんなスライブを動かす事件が起きた。
スライブと同じ作業をする同僚が怪我をしてしまった。その男は面倒見がよく、いつもスライブを気にかけてくれた男だったが、生真面目な性格で、今回の怪我で周囲に迷惑をかけることを非常に悔やんでいた。
だったら、自分が彼の力になれることはないか。
「事前準備ができていれば、作業効率も上がる。分担できる作業は分担してしまった方が良いだろう。工事日程の管理もすれば、どこのチームがいつ終わるかの目途も立つことが可能だ」
ダメ元で提案したところ親方がその案を喜んで導入してくれることになった。
作業だけだったのが、工期日程の管理やチームの進捗確認などリーダー的采配も任されていった。
(ここは自分を必要としてくれている。生きているという実感がある)
トーランドでは考えられないような生活を体験して、スライブは徐々に自分が変わっていくのを感じていた。
それでもやはりトーランドから逃げてきたことに対する罪悪感があった。あと1ピースあれば自分は変われるのではないか。だがその一手が分からなかった。
セシリアはスライブの様子を見に毎日通ってくれた。
彼女の太陽のような微笑はスライブの心の支えにもなってくれていて、スライブは彼女に惹かれていることを何となくは自覚していた。
だが、今の自分には真実を告げることも、その資格も勇気もない。やはり異母兄のようになれる自信がない自分にセシリアへ想いを告げることはできない。
そんな悶々とした気持ちを抱えながら過ごしていたある日、セシリアは自分のとっておきの場所だと言ってランドールを一望できる丘に連れて行ってくれた。
その時彼女は言ったのだ。
「あなたはその人じゃないんだから。その人の真似をする必要もないし、自分がしたいようにすれば?」
したいようにする。自分の主体性を問われた。今までは自分の立場を甘受していただけだった。目が覚めた思いがした。
自分は何をしたいのだろう。
不意にセシリア自身はそれを持っているのか疑念を持った。所詮年端もいかない少女の戯言。実体験もない癖にそんな綺麗ごとを言っているのだと、捻くれたスレイブは思い彼女を試した。
その回答にまた息をのんだ。
「貴賤問わず最低限の衣食住が保証されて、教育や医療が受けれるようになること」
そんな壮大な回答が来るとは思わず驚いていた。無謀だと思った。だがセシリアの未来を語る瞳―その紫の瞳に捕らわれた。
そこには確固たる信念と、それを実現するだけの手法を既に考えていることが見て取れたからだ。
(セシリアなら、トーランドを変えられるかもしれない。王妃として共にいてほしい。俺自身がセシリアと離れたくない。)
そう素直に思うと後はそれを言葉にするだけだった。
『俺はトーランド王家に縁りがある。一緒に行ってくれないか?一生幸せにする』
なのに、その一言が言えない。女性に甘い言葉を言ったこともないし、言いたいとも思わない。告白なんてもってのほかだった。
だから去っていくセシリアを見送ってスライブは決心した。
(明日は、ちゃんと言おう。)
今思うと、何故あの時に言わなかったのか。だがあの時のスライブはもうセシリアに会えないとは予想だにしなかったのだ。
明日も会える、そう信じて疑わなかった。
単純作業は頭を空っぽに出来る効果もあって良かったが、如何せん同じ作業をするのも疲れる。
周りを見ても作業効率が落ちているのも明らかだったし、場所によって工事が進んでいるところと遅れているところなどのばらつきもあった。
(これは…もう少し工事のやり方を改善した方がいいな)
そんなことを自然と思い始めていた。最初は出過ぎたことをいいのはいかがなものかとか、自分の意見など言っても無意味だと傍観を決めていた。そんなスライブを動かす事件が起きた。
スライブと同じ作業をする同僚が怪我をしてしまった。その男は面倒見がよく、いつもスライブを気にかけてくれた男だったが、生真面目な性格で、今回の怪我で周囲に迷惑をかけることを非常に悔やんでいた。
だったら、自分が彼の力になれることはないか。
「事前準備ができていれば、作業効率も上がる。分担できる作業は分担してしまった方が良いだろう。工事日程の管理もすれば、どこのチームがいつ終わるかの目途も立つことが可能だ」
ダメ元で提案したところ親方がその案を喜んで導入してくれることになった。
作業だけだったのが、工期日程の管理やチームの進捗確認などリーダー的采配も任されていった。
(ここは自分を必要としてくれている。生きているという実感がある)
トーランドでは考えられないような生活を体験して、スライブは徐々に自分が変わっていくのを感じていた。
それでもやはりトーランドから逃げてきたことに対する罪悪感があった。あと1ピースあれば自分は変われるのではないか。だがその一手が分からなかった。
セシリアはスライブの様子を見に毎日通ってくれた。
彼女の太陽のような微笑はスライブの心の支えにもなってくれていて、スライブは彼女に惹かれていることを何となくは自覚していた。
だが、今の自分には真実を告げることも、その資格も勇気もない。やはり異母兄のようになれる自信がない自分にセシリアへ想いを告げることはできない。
そんな悶々とした気持ちを抱えながら過ごしていたある日、セシリアは自分のとっておきの場所だと言ってランドールを一望できる丘に連れて行ってくれた。
その時彼女は言ったのだ。
「あなたはその人じゃないんだから。その人の真似をする必要もないし、自分がしたいようにすれば?」
したいようにする。自分の主体性を問われた。今までは自分の立場を甘受していただけだった。目が覚めた思いがした。
自分は何をしたいのだろう。
不意にセシリア自身はそれを持っているのか疑念を持った。所詮年端もいかない少女の戯言。実体験もない癖にそんな綺麗ごとを言っているのだと、捻くれたスレイブは思い彼女を試した。
その回答にまた息をのんだ。
「貴賤問わず最低限の衣食住が保証されて、教育や医療が受けれるようになること」
そんな壮大な回答が来るとは思わず驚いていた。無謀だと思った。だがセシリアの未来を語る瞳―その紫の瞳に捕らわれた。
そこには確固たる信念と、それを実現するだけの手法を既に考えていることが見て取れたからだ。
(セシリアなら、トーランドを変えられるかもしれない。王妃として共にいてほしい。俺自身がセシリアと離れたくない。)
そう素直に思うと後はそれを言葉にするだけだった。
『俺はトーランド王家に縁りがある。一緒に行ってくれないか?一生幸せにする』
なのに、その一言が言えない。女性に甘い言葉を言ったこともないし、言いたいとも思わない。告白なんてもってのほかだった。
だから去っていくセシリアを見送ってスライブは決心した。
(明日は、ちゃんと言おう。)
今思うと、何故あの時に言わなかったのか。だがあの時のスライブはもうセシリアに会えないとは予想だにしなかったのだ。
明日も会える、そう信じて疑わなかった。
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