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出会いは受難の始まり④

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セシリアは自分に言い聞かせるようにして歩く。男は何か言いたげな顔をしていたが、深くは追及しないでセシリアが導くままに並んで歩いた。
街の中心部はガーネルトとの戦いで被害を受けた状態から復興して来てはいた。だが少し離れるとまだ完全に復興をしているとは言えず、半壊した家などもある。
今日も街外れに向かうにつれて大工達の威勢の良い声と、作業に伴う爆音が鳴り響いている。

「親方ー!!いる?」

セシリアは崩れた教会の前で足を止めた。修復作業をしている手を止めて、親方がのっそりと出てきた。
引き締まった筋肉が隆々としている大男で、不精に伸ばしたひげと黒い髪と黒い瞳は男の風貌をより恐ろしく見せていた。
だがセシリアは親方とは度々顔を合わせているため怖いとは思わない。無駄なことは喋らないが作業員への指示は的確で、仕事もきっちりしている。

足元を見て高額な作業代を吹っ掛ける業者もいるが、この親方の所属するギルドは賃金以上の働きをしてくれる。セシリアの屋敷も戦いで被害を受けたときに彼に修復してもらったのだ。
その時、作業の合間に話をするうちに親方とはすっかり打ち解けてしまっていた。

「セシリアか。今日はどうした?」
「この間人手が欲しいって言ってたでしょ?」
「あぁ、そんなことも言ったなぁ」
「だから連れてきたわよ。大工仕事は素人だけど、たぶん体力はあると思うから雑用なんかやらせるといいかも。…ほら、スライブも挨拶して!」
「はっ?…どういうことだ?」

突然話を振られたスライブの顔には明らかな動揺と戸惑いが見て取れた。状況が掴めないのだろう。
それはそうだ。急に連れられて街中を走らされ、急に飯を食えと言われ、今度は働けと言われているのだから。

「スライブ、マイナス思考になった時には何をするのが良いと思う?」
「…さぁ。分からないが。」

首をかしげるスライブにセシリアは詰め寄って人差し指を立てて言った。

「一つ!!健康的な食事!!ちゃんと食べて満腹になること!!」

驚いて声が出ていないスライブにセシリアは更に詰め寄り、今度は中指も追加した。

「二つ!!運動すること!!体を動かしまくると余計なことは考えなくていいし、疲れるとぐっすり眠れるわ。だから今は貴方がやることは死ぬことじゃなくて働いてご飯を食べてゆっくり寝ること!!」
「いや、そんな突然…無茶苦茶な…」
「つべこべ言わない!!どうせ行く場所もないんだし。ほら、衣食住の面倒は見てあげるって言ったじゃない!」
「確かにそうは言ったが…」

なおも言いよどむ男にセシリアは更に相手を落とすための言葉を口にする。
理詰めで説得するのもありだが、こういう決断力も行動力もない男には押し切るのが効果的だ。

「それに…さっき助けてあげたし、ご飯も食べたわよね。」
「あ、あぁ」
「そのお金は誰が出した?」
「セシリア…だよな」
「そう。まさかタダ飯食うわけじゃないわよね。それに私は命の恩人だし。お願いを聞くくらいいいわよね。それとも助けてもらって恩返しもしないってのは人としてどうかしら?男のプライドはないわけ!?」
「わ…分かった」

セシリアは先ほど男を観察して、貴族もしくはそれに準じる騎士の家の人間ではないかと推測していた。だから「人として」と「男のプライド」を強調したのだ。
案の定スライブは唸るようにそう言って、セシリアの言うことに従ってくれるようだった。
スライブの言葉を聞いて満足したセシリアは2人のやり取りを見ていた親方に向き直った。

「親方、彼はスライブ。当面の間、雇ってあげれないかしら?」
「セシリアが言うように人では足りない。ウチで良かったら働いてもらえるとありがたいぜ」
「じゃあ、スライブ。頑張って働いて!!」
「…よ、よろしく頼む。」
「じゃあ一通り案内するぜ。」
「親方、私はそろそろ帰るわ。スライブも頑張って!明日また来るわね!!」

腹を括ったのかスライブは大人しく親方の後について行った。
それを見送ってセシリアは帰路に着いた。
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