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出会いは受難の始まり③

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「これは…?」
「さぁ、遠慮なく食べて!あ、お代は"とりあえず"いいから!!」
「食べてって…俺が?」
「当たり前でしょ?だいたいそんな青い顔してまともに食べてるの?お腹が空くから暗い考えしか浮かばないのよ」

面食らったようにして戸惑う男の態度にセシリアはため息をついてフォークにニンニクがたっぷり入った特性ソースのかかった肉をグサリと刺して男の口に持っていった。

「ほら!!」
「…」
「ほら口を開けて!!」

男は一瞬何かを言いかけたが、セシリアから乱暴にフォークを奪うと一気に食べた。
口に含み租借すると男は目を見開き、次の瞬間には無言で黙々と食べ始めた。それはもういい食べっぷりで、セシリアは嬉しくなる。

食事に夢中になる男のことをゆっくりと見た。
がつがつと勢いよく食べているが、その所作は綺麗でがっついているという印象は持たない。
着ている服は質素に見えるが実は上等な布を使っているようだった。泥だらけのままだということはここまで来るまでに何かあったか強行軍で来たのだろう。
身長はセシリアより頭一つ分くらい大きい。セシリアも一般女性より少し身長がある方だから結構な長身だと思われる。
服の下からは見えないが先ほど手を引いた時にはごつごつとした手であったから剣など武器を日常的に扱っているのだろう。ということはたぶん体も鍛えられているのではないかと思う。

(うんうん…これは使えるな)

セシリアはそう思いながら男の食べっぷりを見ていると、大盛にあった食事があれよあれよという間になくなり惚れ惚れするほどの食べっぷりだった。
完食すると男は大きく息を吐いた。それまで張りつめていた肩の筋肉が緩められ、満足そうな様子にセシリアは嬉しくなる。

「どう?美味しかったでしょ?」
「あぁ…そうだな。美味かった。」
「良かった!ふふふ、お腹が膨れると少し幸せな気分になるでしょ?」
「そう…言われれば、そうだな。」

じっと男の顔を見つめると青白い顔は少し血色が良くなったような気がする。目はまだ覇気はないが陰りの色は薄まったようだ。少なくとも絶望どん底と悲嘆に暮れている先ほどの様子からは復活しているように見えた。

「ご飯食べてなかったの?」
「確かに、ここ数日はまともに食べていないかもしれないな。食べたいとも思わなかった」
「なるほど。じゃあ満足できたかしら」
「まぁな。」
「それは良かったわ!じゃあ、少し腹ごなししながら行きましょう。…ライナ、お勘定ここに置いてくね!おじちゃんもご馳走様!」
「おう!!また来な!」

セシリアは再び男の腕を引き上げ、店の外に出た。
後ろからライナと店主の気さくな見送りの言葉を受けながら、今度は町の外れの方に足を向けた。
2人で歩き出した時にセシリアは重要なことを想い出した。

「あ、そう言えば名前聞いてなかったわよね。私はセシリアよ。貴方は?」
「…スライブ」
「貴方死にたいって言ってたけど、この先時間ある?どこかに行く用事とかは?」
「ないな。」
「じゃあしばらくこ町に居なさいよ。衣食住の面倒は見てあげるわよ」
「それは…さすがに申し訳ない。」
「いいのよ。気にしないで」

セシリアはにっこりと笑った。もちろん先ほどの食事代も今後の衣食住の面倒も"セシリアが"見るわけではない。
セシリアにはある考えがあった。スライブの有効活用を。

(いやいや、これはwin-winの関係よ。全然悪いことじゃないわ)

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