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宰相補佐官への同情③

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セシリアはマクシミリアンに答えながら、脳内にある一つの可能性が浮かび不安がよぎった。
見つからなかったライトグリーンのドレス、そしてさっき自分にあったというマクシミリアン。
その可能性をセシリアは自身で否定した。いや、否定したかったのだ。

(いやいやいや、いくらあのライナス兄さんでも…さすがにこのタイミングでそんなことしないわよね。それに髪が違うし。)

いつも服装を交換して周囲の人たちを騙したことが思い浮かんだが、その時にはお互い同じ長さの黒のウィッグを付けていたのだ。
髪の色も長さも違うこの状況では入れ替わりなどできないはずだ。
そう思っても不安が頭をよぎり、考えれば考えるほどその案しか浮かばなかった。内心冷や汗をかきながらセシリアは自分を言い聞かせるように「ありえない」と繰り返した。
しかし、そんなセシリアの悪い予感は、メイドの一言で確定となってしまった。

「旦那様!ライナス様が見当たりません!!荷物もありません!」
「なんだって!?」

ヴァンディアが驚きのあまり音を立てて立ち上がると同時に、セシリアは頭を抱えながら進言した。

「義父様、たぶん兄さんは私に変装して出ていったんだと思うわ…。」
「はぁ!?一体どういうことだい!?」
「とりあえず兄さんの確保が先よ。…アイゼルネ様、兄さんと会ったのはいつくらいですか?」
「ついさっきです。セシリア様が食堂に入ってくる20分くらい前だと思います」
「だとすると、あの荷物を持って遠くまではいけないからまだ間に合うかもしれないわ」
「そうか!!じゃあ早馬を出して探そう!!」

ヴァンディアは焦りながらも使用人に言いつけてライナスを総出で探すよう命じると同時に、自らも馬を出して探しに行ってしまった。
一気に屋敷内がバタバタと慌ただしくなり、食堂に残されたセシリアは頭を抱えた。

こんなので王子として…そして将来は国王として兄は国をまとめて行けるのか一抹の不安が心に浮かぶ。視線をマクシミリアンに移せば彼も同じことを考えているようで蒼白になりながら呆然としている。
それから1時間ほど経った頃、義父がライナスの首根っこを押さえて引きずるようにして屋敷に戻ってきた。
ライナスはいつ作ったのか分からないが、セシリアと同じ金色のロングヘア―のウィッグに、ライトグリーンのワンピースで戻ってきた。
それを見たマクシミリアンは「本当に…そっくりですね」とぽつりと呟いていた。

「ライナス…ちょっと部屋に来なさい…」
「…お義父様…これには訳が…」
「いいから来なさい…」
「ひいいいいいい」

普段温厚な義父が無表情でライナスを部屋へと呼んだが、その雰囲気は絶対零度の怒りがひしひしと伝わってきたので、セシリアは自分は絶対にヴァンディアを敵にはしないようにしようと心に決めたのだった。

ヴァンディアにこってり絞られた後、ライナスはマクシミリアンに王都へと連行されていった。
こうしてなんだかんだありながらもセシリアは兄と離れて暮らすこととなった。

(兄さん、元気で暮らしてね。そして宰相補佐殿…頑張れ…)

ライナスが乗った馬車を見送りながら、セシリアは心の中でマクシミリアンに同情とエールを送ったのだった。
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