9 / 93
宰相補佐官への同情③
しおりを挟むセシリアはマクシミリアンに答えながら、脳内にある一つの可能性が浮かび不安がよぎった。
見つからなかったライトグリーンのドレス、そしてさっき自分にあったというマクシミリアン。
その可能性をセシリアは自身で否定した。いや、否定したかったのだ。
(いやいやいや、いくらあのライナス兄さんでも…さすがにこのタイミングでそんなことしないわよね。それに髪が違うし。)
いつも服装を交換して周囲の人たちを騙したことが思い浮かんだが、その時にはお互い同じ長さの黒のウィッグを付けていたのだ。
髪の色も長さも違うこの状況では入れ替わりなどできないはずだ。
そう思っても不安が頭をよぎり、考えれば考えるほどその案しか浮かばなかった。内心冷や汗をかきながらセシリアは自分を言い聞かせるように「ありえない」と繰り返した。
しかし、そんなセシリアの悪い予感は、メイドの一言で確定となってしまった。
「旦那様!ライナス様が見当たりません!!荷物もありません!」
「なんだって!?」
ヴァンディアが驚きのあまり音を立てて立ち上がると同時に、セシリアは頭を抱えながら進言した。
「義父様、たぶん兄さんは私に変装して出ていったんだと思うわ…。」
「はぁ!?一体どういうことだい!?」
「とりあえず兄さんの確保が先よ。…アイゼルネ様、兄さんと会ったのはいつくらいですか?」
「ついさっきです。セシリア様が食堂に入ってくる20分くらい前だと思います」
「だとすると、あの荷物を持って遠くまではいけないからまだ間に合うかもしれないわ」
「そうか!!じゃあ早馬を出して探そう!!」
ヴァンディアは焦りながらも使用人に言いつけてライナスを総出で探すよう命じると同時に、自らも馬を出して探しに行ってしまった。
一気に屋敷内がバタバタと慌ただしくなり、食堂に残されたセシリアは頭を抱えた。
こんなので王子として…そして将来は国王として兄は国をまとめて行けるのか一抹の不安が心に浮かぶ。視線をマクシミリアンに移せば彼も同じことを考えているようで蒼白になりながら呆然としている。
それから1時間ほど経った頃、義父がライナスの首根っこを押さえて引きずるようにして屋敷に戻ってきた。
ライナスはいつ作ったのか分からないが、セシリアと同じ金色のロングヘア―のウィッグに、ライトグリーンのワンピースで戻ってきた。
それを見たマクシミリアンは「本当に…そっくりですね」とぽつりと呟いていた。
「ライナス…ちょっと部屋に来なさい…」
「…お義父様…これには訳が…」
「いいから来なさい…」
「ひいいいいいい」
普段温厚な義父が無表情でライナスを部屋へと呼んだが、その雰囲気は絶対零度の怒りがひしひしと伝わってきたので、セシリアは自分は絶対にヴァンディアを敵にはしないようにしようと心に決めたのだった。
ヴァンディアにこってり絞られた後、ライナスはマクシミリアンに王都へと連行されていった。
こうしてなんだかんだありながらもセシリアは兄と離れて暮らすこととなった。
(兄さん、元気で暮らしてね。そして宰相補佐殿…頑張れ…)
ライナスが乗った馬車を見送りながら、セシリアは心の中でマクシミリアンに同情とエールを送ったのだった。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
Knight―― 純白の堕天使 ――
星蘭
ファンタジー
イリュジア王国を守るディアロ城騎士団に所属する勇ましい騎士、フィア。
容姿端麗、勇猛果敢なディアロ城城勤騎士。
彼にはある、秘密があって……――
そんな彼と仲間の絆の物語。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる