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宰相補佐官への同情①
しおりを挟むセシリアは養父であるヴァンディアから宰相補佐のマクシミリアン=アイゼルネが来る前に彼の目的が兄ライナスが王都に連れていくことが目的であろうことは聞いていた。
セシリアもライナスもそれを特になんの感慨もなく受けてとめ、ライナスは嫌々王都へ向かう準備をしていた。
セシリアに至っては他人事なのでむしろ王都から来る人物であるマクシミリアン=アイゼルネがどのような人間なのかに興味があった。
「ライナス兄さんがお世話になる人なのよね。悪い人じゃないといいんだけどなぁ」
養父が心配しているように、セシリアもライナスが王都で、しかも王族としてやっていけるのかを心配していた。
性格の似ている自分が言えることではないが、ライナスも自分も貴族らしくはないとヴァンディアと家庭教師のラーナに散々心配されている。
がさつで自由人で自分勝手に生きる傍若無人を絵にかいたような人間である兄が王子になるとは柄ではなくて笑ってしまう。
それでも、妹としては兄が王都で辛い目には合ってほしくはない。一番面倒を見てくれるという宰相補佐のマクシミリアンがライナスと上手くやれる人物なのかが気になっていた。
そして、マクシミリアンが来る日は、穏やかに晴れた日だった。前の日に雨が降ったせいか空気が澄んでいて、思いっきり空気を吸うと肺から取り入れた新鮮な空気が全身にいきわたるような感覚さえあった。
セシリアはいつものように庭の大木に登り王都の方向を目を凝らして見ていた。
一台の馬車がやってくるのが見え、やがてその馬車は屋敷の前で止まると一人の男が下りてくる。
背は高い。たぶんヴァンディアよりも10センチは高いと思われる。黒髪く艶のある長い髪が揺れている。服装は黒を基調にした詰襟の礼装だったが、襟元に銀糸で刺繍があり、華やかさも忘れていないようなデザインだった。その礼服の上からは長いローブを羽織っているがそれも黒だったので、威圧感が凄かった。
「あれがマクシミリアン様ね…。真っ黒な人だわ」
顔はどんな顔?瞳の色は?優しそう?年取ってる?
マクシミリアンがセシリアのいる大樹にやってきたのをチャンスと捉えセシリアは彼をよく見ようと目を凝らして前のめりに見た瞬間、視界がぐらりと動いた。
落ちると思った瞬間にはもう空中に居て、ぎゅっと目を閉じると柔らかい感触がセシリアを包んだ。
うっすらと目を開けて上を見えげた顔を見てセシリアは嬉しくなった。
家庭教師のラーナより怖い顔ではなく、かといって優しいというのは合わない。瞳は琥珀で黒髪と相まって凛とした雰囲気を増長させてる。
歳は23歳と聞いていたが、12歳のセシリアにとってはもう大人の男性にしか感じられないので若いかどうかは判別ができなかった。
ただ、一つ言えることはある。
(可哀そうに…この人、ライナスに悩まされるタイプの人だわ…)
マクシミリアンの目は鋭く、理知的な目だと思う。たぶん宰相補佐として働いているということだから、きっと真面目な性格で責任感も強いのだと思う。
そして落下した自分を抱き留めたのに動揺もしていない上に、瞬時に正式な礼を取って挨拶をしようとした。
王家に忠誠を誓う真面目さと、誠実さ。そして理性的に判断する思考。
補佐官としては優秀だが、きっとそれ故に兄のあの奇想天外な行動についてはいけないだろう。
この男の先々の苦労を思いセシリアは同情の目を向けてしまった。
「なにか?」
「いいえ…。これから兄をよろしくお願いします」
「???」
マクシミリアンは怪訝そうな顔をしていたが、もうセシリアには関係のないことだ。
養母であるセザンヌからは兄と自分は性格が似ていると言われるが、自分の方が常識人だとは思っている。それは外を駆けまわったり剣術の練習をしたりするのが好きで、女性らしいと言われればNOだが、兄は突拍子もないことをやって周りを振り回すことが多いのだ。
入れ替わって召使や家庭教師のラーナを困らせてみようなどという提案をしたのは兄であったし、さすらいの旅人になると言って街に来た行商について行ってしまったこともあった。
でもそんな突拍子もない行動のおかげで実の両親が居なくても寂しいと思ったことはなかったし、むしろうるさいくらいの家庭になっていたと思う。
そんな兄もいなくなる…。
一抹の寂しさが心をよぎるかと思ったが、これまでの兄の行動のせいで連帯責任を取らされたり尻ぬぐいをさせられたことの数々を思い出してしまった。
(うーん、やっぱりいなくてもいいや。これで穏やかな生活が出来るわ)
ため息をついて心の中で頷き、マクシミリアンの今後の健闘をひっそりと祈って部屋に戻った。
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