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王家の双子④
しおりを挟むセシリアに導かれて玄関まで行くと、その玄関先の階段に座って一心不乱に何かしている少年がいる。
柔らかな亜麻色の髪を揺らしているところを見ると、双子の兄であるライナスだろう。
「ライナス様…ですか?」
「そうですけど。」
ライナスはマクシミリアンに目もくれず、作業を続けている。
どうしようかと思ったが、やはり子供でも王家の血筋のもの。きちんと礼をしなくてはと思い口を開こうとしたが、セシリアの時と同様に言葉を遮られた。
「私は…」
「マクシミリアン=アイゼルネ様ですね。僕はライナスです。ご足労おかけして申し訳ありません。ご存じの通りこのランドールには王都にあるような高価なものはありませんが、心より歓迎させていただきます」
ライナスも完璧な礼をした。とても12歳の子供とは思えないような。そして先ほどのぶっきらぼうな応答の人物とは思えない優雅な礼と微笑み。
夢を見ているようでマクシミリアンは言葉を失っていると、ライナスはお役目ごめんというように再び仏頂面をして作業に戻った。
「何をなさっているのですか?」
「…レース編み」
「は?」
「レース編みをしているだよ!!」
見ればそれはそれは見事なレースができている。王都でもこれほどの作り手は珍しいのではと思うほどだった。
同時にマクシミリアンは頭を抱えた。
(なぜ、王女が木登りで王子がレース編みなんだ?普通逆じゃないのか?)
呆然としていると中から慌てた様子でヴァンディアが出てきてマクシミリアンを迎える。
普通の対応だったが、先ほどの双子のことが衝撃すぎて、その普通さにマクシミリアンの心は慰められた。
「アイゼルネ様。ようこそおいでくださいました。中にどうぞ」
「ありがとうございます。」
どっと疲れを感じつつも屋敷へと足を踏み入れる。
通された貴賓室は王室までとはいかないまでも、その辺の貴族よりは遙かに豪華だったが、ランドール伯であるヴァンディア自体が好まないためなのか、装飾品は質素なものだった。
席を進められて座り、改めてヴァンディアを見ると温厚そうな笑顔を向けてくれる。金の癖毛がくるくると巻いており、40代という年より若く見えるかもしれない。
噂によると「ランドールの黒い軍神」と恐れられているらしいが、黒くもないし軍神らしい雄々しさもない。確かに服の上からも精悍な体をしていることが察せられたが、だからと言って軍神と言われるほどの威圧感は感じられたなかった。
そんな風にヴァンディアを見ていると丁寧に声をかけられる。
いくつか社交辞令と挨拶をしたのちに、マクシミリアンが来訪した目的を告げると、ヴァンディアは分かっていたというかのように黙ってその話を聞いていた。
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