治療と称していただきます

茜菫

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第二部

見た目も大事よね(6)

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(でも、憧れていたなあ…)

 エレノーラは幼い頃に彼女の母が聞かせてくれた童話を思い出し、小さく笑った。悪い魔女に拐われ、魔法をかけられたお姫様を王子様が助け出してくれる、そんな童話が好きだった。

「…ふふ」

「どうしたんた?」

「小さい頃は、童話のお姫様に憧れていたなあって、思い出しちゃった」

 お姫様はきっと、綺麗なドレスを身にまとい、頭の上には綺麗なティアラが、胸元は綺麗なネックレスがきらきらと輝いているに違いない。そして、助けてくれた素敵な王子様と素敵なキスをして、末永く幸せに暮らしたのだ。幼いエレノーラはいつか、彼女の王子様が迎えにきてお姫様になれる、そんなことを疑うことなく信じていた。

(…お姫様にはなれなかったけれど、私の王子様は、ちゃんと迎えに来てくれたのよね)

 たかが童話、されど童話、この話が後に彼女の心の支えとなった。

(レイモンドは、私を悪い魔女から助け出してくれた、私の王子様)

 エレノーラはその王子様と結婚して幸せに暮らしているのだから、夢は殆どが叶ったと言っても過言ではない。

「どんな童話なんだ?」

「よくある話よ。悪い魔女に拐われたお姫様を、王子様が助け出す話。あら、レイモンドは私の王子様ね」

「かっ…からかうなよ…」

 彼女がくすりと笑いながらそう言うと、レイモンドは目を丸め、直ぐに顔を赤くした。顔の赤みを誤魔化すようにぱたぱたと手で仰いでいる。

(私には、綺麗なドレスや綺麗なティアラは無いけれど…)

 エレノーラが胸元に手を伸ばすと、そこにはレイモンドが贈った、結婚記念のネックレスがある。彼女はこのネックレスで、ほんの少しだけお姫様になれた気がした。

「…じゃあ、エレノーラは…」

「うん?」

 エレノーラがレイモンドの声に顔を上げると、先程よりも顔を赤くした彼の顔が目に映る。彼は口を魚のようにぱくぱくと開いているが、そこから音は出ない。彼女がその様子に首を傾げると、彼は漸く、勢い任せのように言葉を発した。

「僕の、お、お姫様、だ…って、うぇ、あっ…なんでもない!」

 緊張していたのか、最後の方は噛んでしまったようだ。レイモンドは顔から湯気でも出そうなくらいに真っ赤になって、そのまま俯いてしまう。

(おひめ、さま…!)

 エレノーラは彼が俯いてくれてよかったと思う。彼女も同じくらい、いやそれ以上に真っ赤になっていた。彼女は嬉しくて、顔を赤くしたままにやける。馬車の中には顔を真っ赤にした男女が向かい合って俯いているという、不思議な光景になった。
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