治療と称していただきます

茜菫

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第一部

そばにいるから(25)

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 二人はアイギスの背に乗って、王宮へと戻った。レイモンドはアイギスを厩に預けると、エレノーラを抱き上げて部屋へと運ぶ。

「レイモンド。マシューさんに報告したけれど…魔道士長にも報告しないと」

「…エレノーラは、足を痛めただろう?」

 そう言いながら、レイモンドは部屋に入ってエレノーラをベッドに下ろす。そのまま一度、エレの唇にキスをして、彼女は少し期待した、が。

「私が報告してくる。終わったら、戻ってくるから」

「…うん、ありがとう」

 残念ながら本日二度目のお預けを食らった。当然と言えば当然だ。エレノーラは部屋を出ていくレイモンドを見送り、枕に顔を埋めて唸りながら、枕をぽこぽこと殴りつけて身悶える。

(今のは、すっごく期待したじゃない!…わかっているわよ。報告、連絡、相談は大事だもののね!)

 エレノーラは少しやさぐれた気持ちになりつつ、仕方がないとため息をついてベッドから下りた。

(足は…大丈夫そうね)

 薬草の魔女を名乗っている身だけあり、薬と魔法の効果か、足の痛みはなく、腫れてもいなかった。

(レイモンドが戻ってきたら、直ぐにいただいちゃうんだから!)

 エレノーラは今のうちに体を磨いておこうと、浴室へ向かう。彼女の部屋には、専用の浴室が備え付けられていた。要は、むやみに外に出るなということだが、彼女自身は出る気がないため、最高の待遇だ。

 エレノーラは服を脱ぎ、足に巻いてあるレイモンドのハンカチを取り丁寧に折り畳むと、彼が手当してくれた時のことを思い出してにやけた。彼女はいそいそと体を磨き、先日メイドに頼んで買った、おろしたての透け感の強い白のレースの下着を身につける。

(今夜は頑張っちゃうんだから)

 メイドには頑張って下さいねといい笑顔で手渡されたことを思い出して、エレノーラは一人ほくそ笑んだ。

 そのメイドは、何年か前にエレノーラにバケツの水を引っ掛けようとして、庇ってくれたレイモンドに顔面から水をぶちまけた子だった。彼女は両親を享楽の魔女が原因で亡くし、エレノーラ対して複雑な想いがあったのだろう。辞めさせられてもおかしくない状況だったが、エレノーラが寛大な処分をと嘆願したからか、数ヶ月の減給処分で済んだ。そのおかげか、二人は和解し、仲良くなっていた。

(何がきっかけになるか、わからないものよね)

 今では、誰もやりたがらないこの部屋の担当も彼女であり、エレノーラの頼みを聞いて私物を買ってくるのも彼女だ。

 エレノーラが浴室から部屋に戻ると、丁度レイモンドが戻ってきていたようだ。彼女の気配に気づいて振り返り、その姿を見るなり少し顔を赤くする。
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