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第一部
他の誰にも渡さない(3)
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アグネスはエレノーラと同じように、レイモンドに心を寄せていた女性だ。彼女に対して、彼と結ばれるのは自分だと宣戦布告したこともある。言うなれば二人は恋敵同士、彼女がレイモンドと結ばれたエレノーラを憎らしく思ってしまうのは仕方がないだろう。
(…私だって、自分は相応しくないってわかっていても…レイモンドが誰かと結ばれたら、その人のことを憎らしく思っちゃうかもしれないもの)
エレノーラはアグネスが自分に嫌がらせをしてしまう気持ちは、わからなくはなかった。アグネスがレイモンドと結ばれるのは自分だと言った時、彼女は多少なりとも彼女を恨めしく思った気持ちもあったのだから。
「魔女殿に何か用があるのですか、アグネス。貴女は、魔女殿には近づかぬよう言われているでしょう」
ニコラスがエレノーラの前に出て、二人の間を遮る。これは、アグネスが嫌がらせの一環で、エレノーラの護衛魔道士としての任務中にそばを離れたことがあり、その間に彼女がメイドの一人に嫌がらせで水を引っ掛けられそうになるといった事件があったからだ。その処罰として、アグネスはエレノーラの護衛から永久的に外され、減給処分にもなり、接近禁止となった。エレノーラとしてはそこまでしなくてもとは思ったものの、彼女は自分の責務を放棄してしまったのだから、処罰を受けるのは致し方ない。
ニコラスの言葉に眉根を寄せたアグネスは、エレノーラを更に睨みつける。彼女はその後ろで困ったように眉尻を下げるしかなく、口を出さない方がいいだろうと黙るしかなかった。
「あるわけないじゃない、そんな女。こんなところを歩いているそっちが悪いのよ!」
ふんっとそっぽを向いたアグネスの言葉も、確かにそうだとエレノーラは納得した。
(私の立場からして、不用意に彷徨くのは良くなかったわね…次からは大人しく待っていようかしら…)
エレノーラは反省しつつ、自分が口を出せば火に油を注いでしまうだろうと、事の成り行きをただ見守るしかなかった。
「アグネス、行ってください。貴女が立ち去ったのを確認してから、私たちは移動します」
「…ふん!」
ニコラスに指示されても、彼女はその場を動こうとしなかった。その上、一歩だけエレノーラに近づく。
「まだ何かあるのですか、アグネス」
ニコラスが怪訝そうにアグネスに目を向けるが、彼女はその存在を無視してひたすらエレノーラを睨みつけていた。彼女は更に一歩こちらに近付き、ニコラスが少し警戒する。しかし、アグネスはそれ以上近づく様子はなく、ただエレノーラを睨みつけるだけだ。
「…あの、アグネスさん?」
「ばーーーか!!」
エレノーラがどうしたら良いのかわからず声をかけた途端、アグネスから罵声がとんで、彼女は思わず目を丸くした。
(…私だって、自分は相応しくないってわかっていても…レイモンドが誰かと結ばれたら、その人のことを憎らしく思っちゃうかもしれないもの)
エレノーラはアグネスが自分に嫌がらせをしてしまう気持ちは、わからなくはなかった。アグネスがレイモンドと結ばれるのは自分だと言った時、彼女は多少なりとも彼女を恨めしく思った気持ちもあったのだから。
「魔女殿に何か用があるのですか、アグネス。貴女は、魔女殿には近づかぬよう言われているでしょう」
ニコラスがエレノーラの前に出て、二人の間を遮る。これは、アグネスが嫌がらせの一環で、エレノーラの護衛魔道士としての任務中にそばを離れたことがあり、その間に彼女がメイドの一人に嫌がらせで水を引っ掛けられそうになるといった事件があったからだ。その処罰として、アグネスはエレノーラの護衛から永久的に外され、減給処分にもなり、接近禁止となった。エレノーラとしてはそこまでしなくてもとは思ったものの、彼女は自分の責務を放棄してしまったのだから、処罰を受けるのは致し方ない。
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「あるわけないじゃない、そんな女。こんなところを歩いているそっちが悪いのよ!」
ふんっとそっぽを向いたアグネスの言葉も、確かにそうだとエレノーラは納得した。
(私の立場からして、不用意に彷徨くのは良くなかったわね…次からは大人しく待っていようかしら…)
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「…あの、アグネスさん?」
「ばーーーか!!」
エレノーラがどうしたら良いのかわからず声をかけた途端、アグネスから罵声がとんで、彼女は思わず目を丸くした。
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