治療と称していただきます

茜菫

文字の大きさ
上 下
28 / 174
第一部

夢だったのなら(7)

しおりを挟む
 レイモンドはマシュマロという菓子をエレノーラに渡そうと思い立ち、残った食事を平らげて、直ぐに彼女の部屋へ向かう。人気の無い通路を歩いて部屋にたどり着き、その扉をノックしたところで、はっとした。

(あっ、今何時だ?!)

 こんな時間に女性の部屋を訪れるのはまずいのではないかと気づいたが、既に扉を叩いた後だ。中からは、部屋の主が扉に向かってきている足音がする。彼はこのまま立ち去る訳にもいかず、どうしたらと焦っていると、内開きに扉が少し開いた。

「あ、やっぱりレイモンドだった」

 現れたエレノーラはゆったりとした部屋着に着替え、いつもは後ろに流している長い髪を緩く束ねている。レイモンドの姿を確認すると、にこりと笑って扉を大きく開いた。

「…何故、私だと」

「だって、私の部屋に護衛以外の理由で訪ねてくるのは、レイモンドくらいだもの。…でも、どうしたの?こんな時間に」

(うっ、…やっぱり、こんな時間に訪れたのは失敗だった…)

 しかし、既に扉が開かれてしまったのだから開き直るしかない。レイモンドが手にしていた小さな袋を差し出すと、エレノーラは首を傾げる。

「えっ…私に?」

「…先程、いただいたものですが」

 レイモンドは気恥しさにエレノーラを直視できず、目を逸らしながら手渡す。彼女は彼の態度から、益々不思議に思ったようだ。

「ここで開けてみてもいい?」

「…ご自由に」

 エレノーラは袋を受け取って、断りを入れてその場で袋の紐をといた。

「あら、マシュマロ?」

 レイモンドにはなにかさっぱりわからなかったが、エレノーラは知っていたらようで、歌詞の名前を言い当てる。

「一つだけ食べましたが…美味しかったと思います」

「これを態々、私に持ってきてくれたの?」

「か…っ」

 レイモンドはまた、先程言わなければよかったと思った言葉を言いそうになって、ぐっと堪えた。同じ轍は踏んでなるものかと、逸らしていた目を彼女に向ける。

「…レイモンド?」

 エレノーラはマシュマロから視線を外し、目を大きく見開いて彼を見ていた。レイモンドは顔を見てしまうと恥ずかしさに目を逸らしたくなってしまうが、次こそは彼女を励まさなければと、踏ん張る。

「…そう、です。今日は色々ありましたから…その、甘いものでも食べれば、少しは元気になると…」

「…レイモンド…」

 エレノーラは彼の言葉に更に目を大きく見開き、みるみる間に笑顔になっていく。レイモンドは彼女の笑顔に心臓がばくばくと高鳴るが、必死で表に出ないように堪えた。

「やだ、もう、すごく…すっごく嬉しい!ありがとう、レイモンド!」

「…元気が出たのなら、よかったです」

「すごく出たわ!レイモンド、一緒に食べよう?ね、入って!」

「えっ」

 レイモンドはそう言って扉から少し身を引いたエレノーラを、三度程見返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

水樹風
恋愛
 とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。  十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。  だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。  白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。 「エルシャ、いいかい?」 「はい、レイ様……」  それは堪らなく、甘い夜──。 * 世界観はあくまで創作です。 * 全12話

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

処理中です...