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第一部
夢だったのなら(7)
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レイモンドはマシュマロという菓子をエレノーラに渡そうと思い立ち、残った食事を平らげて、直ぐに彼女の部屋へ向かう。人気の無い通路を歩いて部屋にたどり着き、その扉をノックしたところで、はっとした。
(あっ、今何時だ?!)
こんな時間に女性の部屋を訪れるのはまずいのではないかと気づいたが、既に扉を叩いた後だ。中からは、部屋の主が扉に向かってきている足音がする。彼はこのまま立ち去る訳にもいかず、どうしたらと焦っていると、内開きに扉が少し開いた。
「あ、やっぱりレイモンドだった」
現れたエレノーラはゆったりとした部屋着に着替え、いつもは後ろに流している長い髪を緩く束ねている。レイモンドの姿を確認すると、にこりと笑って扉を大きく開いた。
「…何故、私だと」
「だって、私の部屋に護衛以外の理由で訪ねてくるのは、レイモンドくらいだもの。…でも、どうしたの?こんな時間に」
(うっ、…やっぱり、こんな時間に訪れたのは失敗だった…)
しかし、既に扉が開かれてしまったのだから開き直るしかない。レイモンドが手にしていた小さな袋を差し出すと、エレノーラは首を傾げる。
「えっ…私に?」
「…先程、いただいたものですが」
レイモンドは気恥しさにエレノーラを直視できず、目を逸らしながら手渡す。彼女は彼の態度から、益々不思議に思ったようだ。
「ここで開けてみてもいい?」
「…ご自由に」
エレノーラは袋を受け取って、断りを入れてその場で袋の紐をといた。
「あら、マシュマロ?」
レイモンドにはなにかさっぱりわからなかったが、エレノーラは知っていたらようで、歌詞の名前を言い当てる。
「一つだけ食べましたが…美味しかったと思います」
「これを態々、私に持ってきてくれたの?」
「か…っ」
レイモンドはまた、先程言わなければよかったと思った言葉を言いそうになって、ぐっと堪えた。同じ轍は踏んでなるものかと、逸らしていた目を彼女に向ける。
「…レイモンド?」
エレノーラはマシュマロから視線を外し、目を大きく見開いて彼を見ていた。レイモンドは顔を見てしまうと恥ずかしさに目を逸らしたくなってしまうが、次こそは彼女を励まさなければと、踏ん張る。
「…そう、です。今日は色々ありましたから…その、甘いものでも食べれば、少しは元気になると…」
「…レイモンド…」
エレノーラは彼の言葉に更に目を大きく見開き、みるみる間に笑顔になっていく。レイモンドは彼女の笑顔に心臓がばくばくと高鳴るが、必死で表に出ないように堪えた。
「やだ、もう、すごく…すっごく嬉しい!ありがとう、レイモンド!」
「…元気が出たのなら、よかったです」
「すごく出たわ!レイモンド、一緒に食べよう?ね、入って!」
「えっ」
レイモンドはそう言って扉から少し身を引いたエレノーラを、三度程見返した。
(あっ、今何時だ?!)
こんな時間に女性の部屋を訪れるのはまずいのではないかと気づいたが、既に扉を叩いた後だ。中からは、部屋の主が扉に向かってきている足音がする。彼はこのまま立ち去る訳にもいかず、どうしたらと焦っていると、内開きに扉が少し開いた。
「あ、やっぱりレイモンドだった」
現れたエレノーラはゆったりとした部屋着に着替え、いつもは後ろに流している長い髪を緩く束ねている。レイモンドの姿を確認すると、にこりと笑って扉を大きく開いた。
「…何故、私だと」
「だって、私の部屋に護衛以外の理由で訪ねてくるのは、レイモンドくらいだもの。…でも、どうしたの?こんな時間に」
(うっ、…やっぱり、こんな時間に訪れたのは失敗だった…)
しかし、既に扉が開かれてしまったのだから開き直るしかない。レイモンドが手にしていた小さな袋を差し出すと、エレノーラは首を傾げる。
「えっ…私に?」
「…先程、いただいたものですが」
レイモンドは気恥しさにエレノーラを直視できず、目を逸らしながら手渡す。彼女は彼の態度から、益々不思議に思ったようだ。
「ここで開けてみてもいい?」
「…ご自由に」
エレノーラは袋を受け取って、断りを入れてその場で袋の紐をといた。
「あら、マシュマロ?」
レイモンドにはなにかさっぱりわからなかったが、エレノーラは知っていたらようで、歌詞の名前を言い当てる。
「一つだけ食べましたが…美味しかったと思います」
「これを態々、私に持ってきてくれたの?」
「か…っ」
レイモンドはまた、先程言わなければよかったと思った言葉を言いそうになって、ぐっと堪えた。同じ轍は踏んでなるものかと、逸らしていた目を彼女に向ける。
「…レイモンド?」
エレノーラはマシュマロから視線を外し、目を大きく見開いて彼を見ていた。レイモンドは顔を見てしまうと恥ずかしさに目を逸らしたくなってしまうが、次こそは彼女を励まさなければと、踏ん張る。
「…そう、です。今日は色々ありましたから…その、甘いものでも食べれば、少しは元気になると…」
「…レイモンド…」
エレノーラは彼の言葉に更に目を大きく見開き、みるみる間に笑顔になっていく。レイモンドは彼女の笑顔に心臓がばくばくと高鳴るが、必死で表に出ないように堪えた。
「やだ、もう、すごく…すっごく嬉しい!ありがとう、レイモンド!」
「…元気が出たのなら、よかったです」
「すごく出たわ!レイモンド、一緒に食べよう?ね、入って!」
「えっ」
レイモンドはそう言って扉から少し身を引いたエレノーラを、三度程見返した。
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