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第一部
夢だったのなら(4)
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すれ違う人に何事かという表情で見られながら、レイモンドとエレノーラの二人は共に通路を歩き、彼女の部屋までたどり着く。中庭からここまで終始無言であったからか、エレノーラが恐る恐る彼の顔を覗き込んだ。
「…レイモンド、怒っているの?」
しまったと後悔しても、時すでに遅しだ。レイモンドは最悪な状況を想像してしまい、上手く自分の感情がコントロールできなかった。
今回は、ただの嫌がらせだった。しかし、あの場にエレノーラに強い殺意を抱いている者や、その力を利用しようとする享楽の魔女のような者がいたら、どうなっていたか。彼女が享楽の魔女に囚われていた頃の姿を思い出すと、レイモンドは腸が煮えくり返る思いだった。
「怒っていますが…エレノーラに対してではありません。アグネスについて、彼女の態度は深刻な問題だと、もっと強く申し出ていればよかった」
レイモンドはぐっと手を握りしめて、怒りを消化させようとする。深く息を吸い、吐き出して心を落ち着かせた。起きてしまったことを嘆いても仕方がないが、今後のことを考えることは出来る。
(このことはきちんと報告して、然るべき対応をとってもらおう)
このような馬鹿な真似をしでかしたアグネスとメイド、あの状況からしてメイドはアグネスに唆された可能性はあるが、何にしても二人には処罰があるはずだ。
「…エレノーラにはどうしようもなかったでしょうが、できる限りひとりにはならないように気をつけてください」
「うん、わかったわ」
レイモンドが声をかけると、エレノーラは少しだけ嬉しそうに笑った。
「…レイモンド」
「なんですか」
「ありがとう」
彼女は彼に小さく微笑みかけて、感謝の言葉を口に。レイモンドはそのエレノーラに、見惚れてしまう。ぽかんと口を開いて間抜けな面を晒した彼は、咄嗟に顔を背けた。どくどくと高鳴る鼓動を落ち着かせようと、息を吐き出す。
「…か、勘違いしないで下さい。別に、貴女のためという訳では…」
レイモンドは言いかけて、まずいと口を噤んだが、吐き出してしまった言葉は取り消すことができず、視界の端でエレノーラが眉尻を下げて困ったように笑ったのが見えた。
「うん、わかっているわ。でも…ありがとう」
レイモンドは彼女の少しだけ寂しげな表情に胸が痛み、後悔の念が押し寄せる。彼は上手く言葉が出せずに、それじゃあと笑って部屋の中に入っていくエレノーラを、ただ見送ることしかできなかった。
「…くそ…あぁ…僕は…!…また、やってしまった…」
恥ずかしくなって、咄嗟に出してしまう言葉でエレノーラに悲しい顔をさせてしまう。レイモンドは大人になろうと必死で振舞っているのに、自分がまだ子供みたいで、情けなかった。彼は自分に腹が立って、自分の顔を軽く殴り付けた。
「…レイモンド、怒っているの?」
しまったと後悔しても、時すでに遅しだ。レイモンドは最悪な状況を想像してしまい、上手く自分の感情がコントロールできなかった。
今回は、ただの嫌がらせだった。しかし、あの場にエレノーラに強い殺意を抱いている者や、その力を利用しようとする享楽の魔女のような者がいたら、どうなっていたか。彼女が享楽の魔女に囚われていた頃の姿を思い出すと、レイモンドは腸が煮えくり返る思いだった。
「怒っていますが…エレノーラに対してではありません。アグネスについて、彼女の態度は深刻な問題だと、もっと強く申し出ていればよかった」
レイモンドはぐっと手を握りしめて、怒りを消化させようとする。深く息を吸い、吐き出して心を落ち着かせた。起きてしまったことを嘆いても仕方がないが、今後のことを考えることは出来る。
(このことはきちんと報告して、然るべき対応をとってもらおう)
このような馬鹿な真似をしでかしたアグネスとメイド、あの状況からしてメイドはアグネスに唆された可能性はあるが、何にしても二人には処罰があるはずだ。
「…エレノーラにはどうしようもなかったでしょうが、できる限りひとりにはならないように気をつけてください」
「うん、わかったわ」
レイモンドが声をかけると、エレノーラは少しだけ嬉しそうに笑った。
「…レイモンド」
「なんですか」
「ありがとう」
彼女は彼に小さく微笑みかけて、感謝の言葉を口に。レイモンドはそのエレノーラに、見惚れてしまう。ぽかんと口を開いて間抜けな面を晒した彼は、咄嗟に顔を背けた。どくどくと高鳴る鼓動を落ち着かせようと、息を吐き出す。
「…か、勘違いしないで下さい。別に、貴女のためという訳では…」
レイモンドは言いかけて、まずいと口を噤んだが、吐き出してしまった言葉は取り消すことができず、視界の端でエレノーラが眉尻を下げて困ったように笑ったのが見えた。
「うん、わかっているわ。でも…ありがとう」
レイモンドは彼女の少しだけ寂しげな表情に胸が痛み、後悔の念が押し寄せる。彼は上手く言葉が出せずに、それじゃあと笑って部屋の中に入っていくエレノーラを、ただ見送ることしかできなかった。
「…くそ…あぁ…僕は…!…また、やってしまった…」
恥ずかしくなって、咄嗟に出してしまう言葉でエレノーラに悲しい顔をさせてしまう。レイモンドは大人になろうと必死で振舞っているのに、自分がまだ子供みたいで、情けなかった。彼は自分に腹が立って、自分の顔を軽く殴り付けた。
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