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番外編
一緒なら構いません(9)
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アデリナが侯爵領に戻ってきてから数日が経ち、彼女がいつもと同じようにガゼボでティータイムを楽しんでいた日のこと。
「奥様」
「あら、どうしたの?」
青い空に雲が浮かぶ麗らかな昼下り、使用人の一人がアデリナの元へとやってきた。首を傾げ、ティーカップをおいた彼女に、彼は恭しく頭を下げる。
「旦那様がお戻りになられました」
「まあ!」
アデリナは彼の言葉に目をかがやかせた。彼女は勢いよく立ち上がりそうになったのをなんとかこらえると、静かに席を立って一つ咳払いをする。
「…すぐにお出迎えに向かうわ。旦那様はどちらに?」
「本邸前の庭園入口にいらっしゃいます」
何故そんなところにとアデリナは不思議に思ったが、それよりも早く会いたいという気持ちが彼女を急かし、足を進めた。アデリナが入り口へと向かうと、使用人が言ったとおりにヴァルターが佇んでいるのが見える。
「ヴァルター!」
遠目からアデリナが名を呼ぶと、ヴァルターは一歩、足を前に進めた。彼はそれ以上は進まなかったが、アデリナは全く気にせず、走らないように我慢しながら歩み寄る。だがそれか続いた少しの間のみで、彼女は辛抱ならずに彼の元へと駆け寄った。
「アデリナ」
「っ、おかえりなさいませ!お待ちしていましたわ」
「…ああ」
嬉しそうに微笑むアデリナに、ヴァルターは頷いて両腕を伸ばした。彼は彼女の背に腕を回して体を抱き寄せ、彼女は嬉しそうにその胸に擦り寄る。そんな二人の、というよりはヴァルターの様子に近くにいた使用人らは驚いていたが、二人は眼中になかった。少し身をかがめて妻の唇に口づけた主人の姿は、彼がここで過ごしていた日々を知る者は、特に驚きであった。
「ヴァルター、先程庭園を眺めていましたけれど…よく、こちらに?」
「いや…私はあまりここには近づかなかった。私は、剣の訓練と兵法を学んでばかりだったから」
「あら、そうでしたの」
ヴァルターは顔を上げ、再び中庭に目を向けた。美しく整えられた庭だが、幼少期の彼には恐ろしく見えていた。それ故に近寄りたくないと思っていたし、成長してからは恐ろしく思わなくなったものの、興味がなかった。
「そうだわ!ヴァルター、これからガゼボでお茶をいたしません?」
「ガゼボ?…ああ、あったな」
ヴァルターの脳裏に、幼い頃の過ぎた日々の出来事が浮かぶ。曖昧になっている記憶の中の風景でも、母の姿ははっきりと映し出させれた。
記憶の中の母は目尻が吊り上がり、眉は潜められ、ヴァルターを見るその表情は怒りに満ちていた。彼女が顔を横に振る度にたおやかな金の髪が蛇の揺れ、彼女の口が開かれる度に音が消えた。
「奥様」
「あら、どうしたの?」
青い空に雲が浮かぶ麗らかな昼下り、使用人の一人がアデリナの元へとやってきた。首を傾げ、ティーカップをおいた彼女に、彼は恭しく頭を下げる。
「旦那様がお戻りになられました」
「まあ!」
アデリナは彼の言葉に目をかがやかせた。彼女は勢いよく立ち上がりそうになったのをなんとかこらえると、静かに席を立って一つ咳払いをする。
「…すぐにお出迎えに向かうわ。旦那様はどちらに?」
「本邸前の庭園入口にいらっしゃいます」
何故そんなところにとアデリナは不思議に思ったが、それよりも早く会いたいという気持ちが彼女を急かし、足を進めた。アデリナが入り口へと向かうと、使用人が言ったとおりにヴァルターが佇んでいるのが見える。
「ヴァルター!」
遠目からアデリナが名を呼ぶと、ヴァルターは一歩、足を前に進めた。彼はそれ以上は進まなかったが、アデリナは全く気にせず、走らないように我慢しながら歩み寄る。だがそれか続いた少しの間のみで、彼女は辛抱ならずに彼の元へと駆け寄った。
「アデリナ」
「っ、おかえりなさいませ!お待ちしていましたわ」
「…ああ」
嬉しそうに微笑むアデリナに、ヴァルターは頷いて両腕を伸ばした。彼は彼女の背に腕を回して体を抱き寄せ、彼女は嬉しそうにその胸に擦り寄る。そんな二人の、というよりはヴァルターの様子に近くにいた使用人らは驚いていたが、二人は眼中になかった。少し身をかがめて妻の唇に口づけた主人の姿は、彼がここで過ごしていた日々を知る者は、特に驚きであった。
「ヴァルター、先程庭園を眺めていましたけれど…よく、こちらに?」
「いや…私はあまりここには近づかなかった。私は、剣の訓練と兵法を学んでばかりだったから」
「あら、そうでしたの」
ヴァルターは顔を上げ、再び中庭に目を向けた。美しく整えられた庭だが、幼少期の彼には恐ろしく見えていた。それ故に近寄りたくないと思っていたし、成長してからは恐ろしく思わなくなったものの、興味がなかった。
「そうだわ!ヴァルター、これからガゼボでお茶をいたしません?」
「ガゼボ?…ああ、あったな」
ヴァルターの脳裏に、幼い頃の過ぎた日々の出来事が浮かぶ。曖昧になっている記憶の中の風景でも、母の姿ははっきりと映し出させれた。
記憶の中の母は目尻が吊り上がり、眉は潜められ、ヴァルターを見るその表情は怒りに満ちていた。彼女が顔を横に振る度にたおやかな金の髪が蛇の揺れ、彼女の口が開かれる度に音が消えた。
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