まずは抱いてください

茜菫

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番外編

私の妻は勤勉だ(7)

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「…ああ」

 アデリナがその噂で肩身の狭い想いをしている、ヴァルターはそれを思うと、自分が情けなかった。どうにも社交界には疎く、足も進まず放置した結果、悪い噂が流れてしまった。今後、このような噂が立たないためにも、徹底的に不仲説を覆し、自分たちがどれほど仲睦まじいかを知らしめ、適度に参加していくつもりだった。

「支援はするが、頑張れよ」

「ああ、ありがとう。…では、帰還する」

 友人の応援を受けてしっかりと頷いたヴァルターは、時間になったためそそくさと家路につこうとしていた。これも結婚する前なら、何かと理由をつけて一向に帰ろうとしなかった彼からは想像ができない姿だと、エドゥアルトはアデリナの影響力に慄く。そして、その選択ができるほどに平和であることを噛み締めた。

「いやあ、いいねえ。そんなに嫁さんに会いたいのか」

「いや、今日は本屋に寄って、帰る」

「えっ、本屋に?…お前なら、手配するか屋敷に呼び寄せるかなりできるだろうに」

「…それだと、買ったものが知られてしまうだろう」

「ふーん?」

 つまり、知られたくないものを買いたいということかと、エドゥアルトは納得した。男が本で、他人に買ったことを知られたくないもの、それはひとつしかない。そこまで考えたところで、以前にも似たようなことがあったと彼は思い出した。

(あー…あれって、そういうことだったの…)

 それは、ヴァルターが婚姻を控えた数週間前のことだ。珍しく時間通りに帰ろうとしていた彼が、本屋に寄ると言っていた。今思えば、それも知られたくないものを欲していたのだろう。エドゥアルトは、ヴァルターに女の影が一切なかったことを、彼はよくよく知っている。

(成程なぁ…)

 そこから導き出された答えに、エドゥアルトはこれ以上は何も言うまいと、家路につくヴァルターの背を生温かい目で見送った。

 その日のヴランゲル侯爵家邸では、手ぶらで心做しかがっかりとしていたヴァルターを、不思議そうに首を傾げたアデリナが出迎え、夜は精一杯に励ましたのだという。
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