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番外編
私の妻は勤勉だ(1)
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アデリナとヴァルターが思いを通じ合わせ、自他ともに認める仲睦まじい夫婦となって、早一ヶ月。彼女にまだ懐妊の兆しは無いが、二人はほぼ毎夜のように体を重ねていた。
「今夜は全て、私に身を任せてくださいませ」
夜、薄黄色のネグリジェに身を包んだアデリナは今夜も美しいと見惚れていたヴァルターは、ベッドで向けられた妻の言葉に、ただ驚くしかなかった。
彼女の白くて細い肩は無防備に晒され、胸元から谷間がのぞいている。ヴァルターは自分と彼女を隔てるその布切れを奪い捨て、その柔らかな体を掻き抱き、彼女の中に自身をねじ込み、快楽に酔う表情を間近で見ながら可愛く鳴く声を延々と聞いていたい、等と考えながら、それをおくびにも出さずに一言彼女に問う。
「…どういうことだ」
「そのままの意味です。今夜は、旦那様から手を出してはいけませんからね」
アデリナはそう言って、なにやら張り切った様子を見せた。対して、ヴァルターは手を出してはいけないというのも言葉通りなら、彼女に触れることすら許されないのだろうかと不満を覚える。
「…それは承服しかねる」
「だめです。これも、夫婦円満のための策なのですから」
妻にそう言われると、ヴァルターは押し黙るしかなった。彼も夫婦円満でいたいと思っているし、そのためのことなら自分よりもアデリナのほうが詳しいと理解していた。
せめてその詳細は知っておきたいと、ヴァルターは彼女をじっと見つめて説明を催促する。すると、その内心を読み取ったかのように、アデリナは彼に微笑んだ。
「倦怠化対策です」
「倦怠化対策」
「いつも同じ手順だと、新鮮さが無くなって飽きてしまうかもしれないでしょう?」
ヴァルターは今のところ全く飽きる気がしないが、彼女の言うことも一理あると思い直す。訓練でも毎日おなじ内容を続けると身の入りが緩んでくる、それと同じことだろうと。
「私…ヴァルターに飽きられたくありませんもの…」
ヴァルターが一人納得していると、アデリナは頬を染めて小さくそう呟いた。その様子といじらしい言葉に、彼は今すぐにでも抱きしめて口付け押し倒したい気持ちが湧き上がってきたが、ぐっと堪える。
「…私も、アデリナに飽きられたくない」
同意するようにヴァルターがそう言えば、アデリナは顔を上げ、ぱっと満面の笑みを浮かべて何度も頷いた。
「でしたら、協力してくださいますよね?」
「…………」
彼はここで頷くべきだとわかっていながら、なかなか首を縦に振れずにいた。手を出さないというのは、非常に辛い。美味しそうな料理が前にあるのに、涎を垂らしながら待てをしろというのと等しい。そんな拷問のような状況に、彼は耐えられるのか。
「旦那様?」
アデリナの不安げに揺れる目が、ヴァルターをじっと見つめている。彼にとって、世界で一番可愛くて美しい妻が、自分だけの妻が、夫婦の関係のために努力してくれているのだ。
「…………わかった」
アデリナがそれで笑ってくれるのなら何にでも耐えようと、ヴァルターは覚悟を決めた。
「今夜は全て、私に身を任せてくださいませ」
夜、薄黄色のネグリジェに身を包んだアデリナは今夜も美しいと見惚れていたヴァルターは、ベッドで向けられた妻の言葉に、ただ驚くしかなかった。
彼女の白くて細い肩は無防備に晒され、胸元から谷間がのぞいている。ヴァルターは自分と彼女を隔てるその布切れを奪い捨て、その柔らかな体を掻き抱き、彼女の中に自身をねじ込み、快楽に酔う表情を間近で見ながら可愛く鳴く声を延々と聞いていたい、等と考えながら、それをおくびにも出さずに一言彼女に問う。
「…どういうことだ」
「そのままの意味です。今夜は、旦那様から手を出してはいけませんからね」
アデリナはそう言って、なにやら張り切った様子を見せた。対して、ヴァルターは手を出してはいけないというのも言葉通りなら、彼女に触れることすら許されないのだろうかと不満を覚える。
「…それは承服しかねる」
「だめです。これも、夫婦円満のための策なのですから」
妻にそう言われると、ヴァルターは押し黙るしかなった。彼も夫婦円満でいたいと思っているし、そのためのことなら自分よりもアデリナのほうが詳しいと理解していた。
せめてその詳細は知っておきたいと、ヴァルターは彼女をじっと見つめて説明を催促する。すると、その内心を読み取ったかのように、アデリナは彼に微笑んだ。
「倦怠化対策です」
「倦怠化対策」
「いつも同じ手順だと、新鮮さが無くなって飽きてしまうかもしれないでしょう?」
ヴァルターは今のところ全く飽きる気がしないが、彼女の言うことも一理あると思い直す。訓練でも毎日おなじ内容を続けると身の入りが緩んでくる、それと同じことだろうと。
「私…ヴァルターに飽きられたくありませんもの…」
ヴァルターが一人納得していると、アデリナは頬を染めて小さくそう呟いた。その様子といじらしい言葉に、彼は今すぐにでも抱きしめて口付け押し倒したい気持ちが湧き上がってきたが、ぐっと堪える。
「…私も、アデリナに飽きられたくない」
同意するようにヴァルターがそう言えば、アデリナは顔を上げ、ぱっと満面の笑みを浮かべて何度も頷いた。
「でしたら、協力してくださいますよね?」
「…………」
彼はここで頷くべきだとわかっていながら、なかなか首を縦に振れずにいた。手を出さないというのは、非常に辛い。美味しそうな料理が前にあるのに、涎を垂らしながら待てをしろというのと等しい。そんな拷問のような状況に、彼は耐えられるのか。
「旦那様?」
アデリナの不安げに揺れる目が、ヴァルターをじっと見つめている。彼にとって、世界で一番可愛くて美しい妻が、自分だけの妻が、夫婦の関係のために努力してくれているのだ。
「…………わかった」
アデリナがそれで笑ってくれるのなら何にでも耐えようと、ヴァルターは覚悟を決めた。
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