まずは抱いてください

茜菫

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本編

好きです、旦那様(3)

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(私が好きと言ったら、旦那様も好きと返してくださるかしら)

 それも、眉間に皺を寄せて。そうだといいと思いながら、アデリナは機嫌よく散歩道をゆっくりと歩いていた。

「ごきげんよう、ヴランゲル侯爵夫人」

「まあ。ごきげんよう、ローン伯爵夫人」

 アデリナは同じように散歩していた夫人と出会い、挨拶を交わす。柔和に笑んだ夫人は午後からお茶会を開催する予定で、彼女もそれにお誘いを受けていた。ローン伯爵夫人は彼女の母と交流があり、令嬢であった頃に何度か顔を合わせたことがあった。

(私も、ゆくゆくは…お茶会を開催しなくては)

 アデリナはヴランゲル侯爵夫人として、そういったこともこなしていかなければならない。ヴァルターに夢中になってしまっていたが、彼の妻としての務めは忘れてはいない。

 彼女は夫人と軽く談笑して別れ、そのまま散歩を終えて屋敷に戻る。すると、執事が彼女の元へ近づいてきた。アデリナが何事かと思いながら用件を聞くと、それはヴァルターから言付けだった。

「今日は遅くなられるそうです。ですが、明日お休みを取られたと」

「まあ、明日…」

 ヴァルターは行動が早く、昨日の今日で休暇を取ったらしい。今日遅くなるのは、そのせいなのかもしれない。

「それと、こちらを奥様に」

 アデリナは差し出された封筒を受け取り、そこにヴァルターの直筆でサインかあることを確認すると、その場で封を切る。中に収められている手紙に目を通すと、そこには執事が言った通り、今日は遅くなること、明日休みを取ったことが書かれていた。更に、遅くなるから先に眠ってくれ、けれども寝室の扉の鍵はかけないでおいてほしいとも。

(やっぱりこれは、脈あり…というものでは!)

 扉というのは勿論、彼女の寝室とヴァルターの寝室を隔てる扉だ。その扉に鍵をかけないということは、いつでもヴァルターが彼女の寝室に入れるということだ。先に眠っていても扉に鍵をかけないで欲しいということは、体を交えなくとも寝室へ訪れたい、その意が含まれている。

(どうしましょう、嬉しい…!)

 アデリナは頬が熱くなり、思わずにやけてしまい、慌てて両手で覆い隠す。そんな彼女の様子を執事は不審がらず、むしろ、目元が緩んで微笑ましそうに見つめていた。彼女は少し恥ずかしいと思いながら、軽く咳払いをしてわかりましたと答える。手紙を両手で抱えて急いで部屋に戻ると、明日の出かける計画を立てた。

(先ずは…ああ、どうしましょう!そうね…ここは、外せないわ)

 いつ、どこで、何をするか。紙に予定を書き出し、予約が必要なものはその手配を家令に指示する。そうしている内にあっという間に昼になったので、アデリナは食事を軽く済ませ、着替えて招待されていたお茶会へと向かった。
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