まずは抱いてください

茜菫

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本編

好きです、旦那様(2)

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「奥様、ハーブティーはいかがでしょうか」

「まあ、ありがとう。いただくわ」

 アデリナは気の利いた侍女が用意してくれた、疲労回復の効果があるハーブティーを一口口に含んで、ほっと一息ついた。喉が枯れていたが、おかげで潤って話しやすくなる。

「…旦那様は、出られる際、何かおっしゃっていた?」

「奥様を起こさないように、と」

「他には?」

「いえ、なにも」

「そう…ありがとう、もう下げてくれていいわ」

「かしこまりました」

 侍女が食器を下げ、退出してから、アデリナは再びベッドに横になる。今朝のヴァルターがどんな様子だったのか、今の話だけではわかりそうになかった。

(…振り向いてもらえたのか、まだわからないわね)

 アデリナは人と話したことで、少し冷静になれた。振り向いてもらえた可能性はあるが、彼の口から決定的な言葉は何一つなかった。

(好きとか…愛している、とか…聞いたことがないし…私も、言っていないわ)

 アデリナは自分もその言葉を口にしたことがないことに気づく。この想いを自覚したのはつい最近のことだからと言い訳するが、このままではいけないとはわかっていた。

「…口にしなければ、ちゃんと伝わらないわよね」

 口にしても正確に伝わらない可能性もあるのだから、しなければもっと伝わらない。アデリナは刺繍したハンカチをしまっている引き出しを眺めて、その想いをヴァルターに伝えなければと、決意を新たにした。

「必ず、旦那様を口説き落としてみせるわ…!」

 彼女がヴァルターに休みにどこかに出かけたいとお願いしたのは、ハンカチを手渡すためだ。それと共に、自分の想いをヴァルターに伝えようと、アデリナは決めていた。

(…勝算は、きっとあるわ)

 彼女は拒絶されたらと不安を感じていたが、昨夜の彼の様子からして、可能性は十分にあると感じていた。少なくとも、嫌われてはいないはずだ。

(旦那様…ヴァルター…)

 アデリナはベッドの上であれこれと考え悩み、昨夜のことを色々と思い出して悶えた。彼女は気分を変えようと、着替えて公園へと散歩に向かう。空は雲が覆ってどんよりとしていたが、彼女の心は快晴のように幸せな気持ちでいっぱいだった。

(…旦那様とお出かけ、どこがいいかしら)

 どういった場面でハンカチを手渡そう、ヴァルターはどういった反応をするのだろう。アデリナは少し前は不安に思っていたのに、今では楽しみでならなかった。彼女自身でも楽観的だと思っていたが、決して悪い方向にはならないと思っているからだ。
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