まずは抱いてください

本編

期待してもいいだろうか(7)

「次にお休みをとられたら、私に旦那様のお時間を頂けませんか」

　アデリナは手にしたティーカップを見つめながら、小さな声で言った。ヴァルターはどういった意味だろうと、考えを巡らせる。改まって話がしたい、という意味なのかもしれない。

（…詳細を語らず、一週間も戻らなかったことか？）

　ヴァルターの立場からして、こういったことは今後も有り得るし、彼女もそれを承知の上だと言っていた。だが、今回のことで耐えられないと言われてしまったら、どうすればいいのだろう。

「…どういうことだ」

　ヴァルターは悶々と悩んでしまったが、考えたところでわからず、その真意を問うしかなかった。

「旦那様と、どこかにお出かけできたらと思いまして…」

「直ぐに休みを取ろう」

　何の心配も要らなかった。聞いてよかったと、ヴァルターは心底思う。

「えっ…直ぐでなくとも、旦那様の都合の良い時で大丈夫ですから」

「今、都合がいい」

　これは本当のことだ。ヴァルターは今回の件が片付いたことで、ゆっくり休みを取ったらどうだと言われていた。彼は休みを取っても特に何もすることもないと思っていたが、アデリナと一緒に過ごすという何よりも大事なことができることに、今更気づく。

「休みが取れたら、アデリナに付き合おう」

「ありがとうございます、旦那様」

　アデリナはヴァルターに顔を向けて微笑んだ。彼はそれに胸がくすぐったい様な気持ちになって、誤魔化すように手にしていたティーカップの中身を飲み干す。すると、彼女はティーポットに手を伸ばしかけたが、彼は一杯で十分だと止めた。

「アデリナ」

「ふふ。こうして、旦那様とお話できるのは楽しいですわ」

「…………そうか」

　ヴァルターは今、アデリナの持っているティーカップを奪ってベッドに引きずり込もうと思っていたが、堪えた。彼はひとまずティーカップをサイドテーブルに置いて、彼女に問いかける。

「どこにいきたい」

「旦那様と一緒なら、どこでも嬉しいですわ」

　ヴァルターはその答えと笑顔が、最高に可愛いかった。この会話からして、やはり期待してもいいのではないかと、胸を高鳴らせつつ、彼は彼女の頬に触れる。すると、アデリナは微笑んで、彼に顔を向けた。

「少しは、疲れが取れましたか？」

「ああ」

「よかった」

　ヴァルターの意を汲んでか、彼女はティーカップをサイドテーブルに置く。彼女は、彼の頬に触れた手に、小さな手を重ねた。

「次こそは、務めを果たしてみせますわ」

　そう言って意気込んだ彼女に、ヴァルターは少し気持ちが落ち込んだ。まだ、彼女にとっては務めの意が強いのだと改めて感じてしまう。