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本編
少し寂しかったのです(10)
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(えっ、女性の口説き方?旦那様が、どうしてそんなことを知りたいの?…誰かを口説きたいの…?)
緊張すると眉間に皺が寄り、ドレスの色を褒めるヴァルターが、女性を口説く。そのやり方がわからないと言ったということは、少なくともその意思があるということだ。
(…できるわけがないわ!)
アデリナは首を横に振り、否定する。彼女は動揺しすぎて失礼なことを考えてしまったが、重要なのはそこではなかった。ヴァルターが女性を口説きたいと思っていて、その相手は微かに聞こえた執事の言葉からして、恐らく自分以外だと彼女は判断した。
(まさか、旦那様に愛人にしたい女性が…?!)
アデリナは息をのみ、片手で口元を覆う。彼女の手は震え、嫌な予想ばかりが頭の中を埋めつくしていた。ヴァルターには想い人がいるのだろうか、いるなら何時からなのか、最近なのか、それとも夫婦になる前からなのか。
アデリナは深く息を吸って、どくどくと高鳴る鼓動を落ち着かせようとする。どちらにせよ、幸い、口説くというからには相手はヴァルターに靡いていないはずだと自分に言い聞かせた。
(けれど…どうしましょう…っ)
夫婦の仲が良好なのと、恋愛は別だ。寧ろ、婚姻に恋愛を求められないから、皆、愛人に恋愛を求めるものだ。表情と会話に難があるものの、ヴァルターは見た目も性格も地位も良い。そんな彼に口説かれたら、多くの女性はときめいて靡いてしまうとアデリナは思う。自分自身も、もしヴァルターに口説かればときめいてしまうだろうから。
「…いえ、駄目よ」
アデリナはぽつりと呟き、片手を握りしめる。彼女はヴァルターに、自分以外の誰かを口説かせたくなどなかった。
(…旦那様が誰かを口説く前に、私が旦那様を口説かないと…!)
ヴァルターの目が他に向いているのなら、なんとかしてこちらに向けさせてみせる。ヴァルターをまだ見ぬ愛人には、決して譲らない。彼女はそう決意した。
アデリナはもう一度、大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。ぐっと腹に力を込めると、足音を立てながら玄関ホールへ向かった。彼女がホールに続く大きな階段にたどり着くと、下からヴァルターが目を見開いて彼女を見上げる。
「アデリナ?起きていたのか」
「はい。音が聞こえたので、旦那様が戻ってこられたのかと思って…来てしまいました」
アデリナは階段を降り、ヴァルターの前に立つ。彼は一時的に戻っただけで、また直ぐに出なければならないらしい。
「暫く、戻れない」
「…はい、承知しています」
アデリナは二人きりになりたいと思いながら、ちらりと執事に目を向ける。彼はそれだけで全て察したようで、小さく頷いた。
「旦那様、奥様を寝室へお送りしては」
「そうだな」
流石はヴランゲル侯爵家の執事、とても優秀だ。彼が奥様がいらっしゃるのにと言ったということは、ヴァルターに少なからず非難の意思があるとアデリナは考えていた。
(旦那様、使用人たちは私の味方なのですよ…!)
彼女は作ってもらった機会をものにしてみせると意気込んで、ヴァルターの隣に立った。そのまま階段を昇り、静かな廊下を二人並んで歩く。ヴァルターは歩幅が違うアデリナにあわせて、ゆっくりと歩いていた。
緊張すると眉間に皺が寄り、ドレスの色を褒めるヴァルターが、女性を口説く。そのやり方がわからないと言ったということは、少なくともその意思があるということだ。
(…できるわけがないわ!)
アデリナは首を横に振り、否定する。彼女は動揺しすぎて失礼なことを考えてしまったが、重要なのはそこではなかった。ヴァルターが女性を口説きたいと思っていて、その相手は微かに聞こえた執事の言葉からして、恐らく自分以外だと彼女は判断した。
(まさか、旦那様に愛人にしたい女性が…?!)
アデリナは息をのみ、片手で口元を覆う。彼女の手は震え、嫌な予想ばかりが頭の中を埋めつくしていた。ヴァルターには想い人がいるのだろうか、いるなら何時からなのか、最近なのか、それとも夫婦になる前からなのか。
アデリナは深く息を吸って、どくどくと高鳴る鼓動を落ち着かせようとする。どちらにせよ、幸い、口説くというからには相手はヴァルターに靡いていないはずだと自分に言い聞かせた。
(けれど…どうしましょう…っ)
夫婦の仲が良好なのと、恋愛は別だ。寧ろ、婚姻に恋愛を求められないから、皆、愛人に恋愛を求めるものだ。表情と会話に難があるものの、ヴァルターは見た目も性格も地位も良い。そんな彼に口説かれたら、多くの女性はときめいて靡いてしまうとアデリナは思う。自分自身も、もしヴァルターに口説かればときめいてしまうだろうから。
「…いえ、駄目よ」
アデリナはぽつりと呟き、片手を握りしめる。彼女はヴァルターに、自分以外の誰かを口説かせたくなどなかった。
(…旦那様が誰かを口説く前に、私が旦那様を口説かないと…!)
ヴァルターの目が他に向いているのなら、なんとかしてこちらに向けさせてみせる。ヴァルターをまだ見ぬ愛人には、決して譲らない。彼女はそう決意した。
アデリナはもう一度、大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。ぐっと腹に力を込めると、足音を立てながら玄関ホールへ向かった。彼女がホールに続く大きな階段にたどり着くと、下からヴァルターが目を見開いて彼女を見上げる。
「アデリナ?起きていたのか」
「はい。音が聞こえたので、旦那様が戻ってこられたのかと思って…来てしまいました」
アデリナは階段を降り、ヴァルターの前に立つ。彼は一時的に戻っただけで、また直ぐに出なければならないらしい。
「暫く、戻れない」
「…はい、承知しています」
アデリナは二人きりになりたいと思いながら、ちらりと執事に目を向ける。彼はそれだけで全て察したようで、小さく頷いた。
「旦那様、奥様を寝室へお送りしては」
「そうだな」
流石はヴランゲル侯爵家の執事、とても優秀だ。彼が奥様がいらっしゃるのにと言ったということは、ヴァルターに少なからず非難の意思があるとアデリナは考えていた。
(旦那様、使用人たちは私の味方なのですよ…!)
彼女は作ってもらった機会をものにしてみせると意気込んで、ヴァルターの隣に立った。そのまま階段を昇り、静かな廊下を二人並んで歩く。ヴァルターは歩幅が違うアデリナにあわせて、ゆっくりと歩いていた。
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