まずは抱いてください

茜菫

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本編

少し寂しかったのです(1)

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 オペラ鑑賞に出かけた夜から、アデリナとヴァルターとの関係は格段に良くなっていた。

 あの夜の翌日、ヴァルターはアデリナに赤い花束を贈った。彼は相変わらず手渡す際には眉間に皺が寄っていたが、アデリナにはその姿が何故か可愛く見えてしまう。冷静に考えれば、精悍で整った顔立ちの目力が強い男が険しい顔をしているのだから、可愛いからは程遠い。

 アデリナのヴァルターを見る目は、出会った頃から随分と変わっていた。彼女は緊張して眉間に皺を寄せているヴァルターを可愛いと思い、軍服に身を包みきびきびと仕事へ向かうさまを格好良いと思う。同じ人物なのに、可愛く見えたり格好よく見えたりと、アデリナは自分が不思議であっだ。

 あれから三日、毎夜続けて体を重ねて、アデリナは子を孕む可能性は高くなると喜んでいた。けれど、世の中、何もかもが上手くいくということはなかった。

「はぁ…」

 アデリナは自室で窓の外を眺めながら、憂鬱な気持ちで大きく息を吐く。すると、控えていた侍女が彼女を気遣って、リラックス効果のあるハーブティーを用意した。彼女はそれを一口口に含み、その香りを楽しんで心を落ち着かせる。

(ここで落ち込んでいても仕方がないわ。次の機会こそ…)

 今朝、アデリナはヴァルターを見送った後、誘われていたお茶会に参加した。その後、戻って部屋でくつろいでいるところで、非常に残念なことに月のものがきてしまった。

「奥様、窓を開けましょうか」

「…ええ、お願い」

 アデリナは月のものが予定より早くにきてしまったことに驚き、子が成せなかったことに落胆してしまった。落ち込む彼女をはらはらしながら見守ってくれている侍女たちにも、申し訳なさでいっぱいであった。

(中に注いでもらえば、必ず子が成せる…訳ではないとは、わかってはいるけれど)

 彼女はわかっていても、自分自身期待していたし、周りも、何よりヴァルターも期待していたと思うと、情けなかった。ヴァルターが自分を娶ったのは侯爵家の血を繋げるため、彼の子を産む妻を得るためだというのに、自分はそれが成せなかった、と。

(子を産み血を繋げ、関係を繋ぐ。それが私の、何よりも大切な務め…)

 二人がまだ夫婦となって一ヶ月程。焦る必要はないとアデリナは思うようにしているが、中々、気持ちが切り替えられずにいた。

(…でも、暫くはお預けね)

 それに、次の機会は暫く後だ。これから暫くは寝室が別になり、体を重ねることもない。ベッドで微睡みながら会話することもなくなる。アデリナはそのことを考えると更に憂鬱になってしまって、深く息を吐いた。
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