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本編
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ヴィヴィアンヌに用意された食事は、果物ばかりだ。元々森の中での食生活にかなり偏りがあったヴィヴィアンヌはすぐにお腹を下すため、食べられるものが極端に少ない。
「騎士さま、これ!」
「林檎だな」
ヴィヴィアンヌは用意された果物たちの中から林檎を選ぶ。オリヴィエは小さなナイフで林檎を切り、芯を抜いて食べやすくすると、一切れつまんで差し出した。それをぱくりとひとくちで食べたヴィヴィアンヌは両頬を押さえて幸せそうに笑う。
「騎士さま、林檎をもっとちょうだい!」
「はい、どうぞ」
オリヴィエは笑いながらもう一切れつまみ、差し出す。それを続け、あっという間に林檎はすべてヴィヴィアンヌの胃におさめられた。まだ少し物足りないヴィヴィアンヌは次を選ぼうと果物に目を向ける。
「騎士さま、その黄色いのはなに?」
「これは……バナナだな」
「バナナ? 初めて見た。……騎士さま、私、バナナが食べたいな!」
「はいはい」
オリヴィエが皮を剥いてバナナを差し出すと、ヴィヴィアンヌは果実に顔を近づけてすんすんと匂いを嗅いだ。甘そうな香りにつられ、まずは先端をぺろりとなめる。それを間近で眺めていたオリヴィエはごくりと生唾を飲み込んだ。
(…………いやいや、いやいや)
オリヴィエの脳内によこしまな妄想が広がった。首を横に振ってそれを霧散させ、無理やり笑顔を作ってヴィヴィアンヌに優しく声をかける。
「……ヴィヴィ、これはなめるものじゃないよ」
「へへ、先にどんな味なのかなって。ちょっとだけ、気になっちゃったの」
「……そっか。でもこれは、そのまま咥えて……」
自分で自分の言葉が恥ずかしくなったオリヴィエは途中で言葉を切ったが、ヴィヴィアンヌはその言葉のとおりに先端を咥えた。その瞬間を目撃したオリヴィエは、慌てて片手で顔を覆う。
(……これは……いや、うん。…………結構、いいな……)
自分に正直になったオリヴィエはバナナを自分の大事なものにすりかえ、それをなめたり咥えたりするヴィヴィアンヌを妄想する。その妄想に彼の大事なものが少し反応していたが。
「……どうしたの、騎士さま?」
「……あっ、いや……なんでもない」
ヴィヴィアンヌの不思議そうな声に現実に引き戻され、かじりとられて先がなくなったバナナを見たオリヴィエはひゅっと熱が収まる。
(……いや、よくはないな……)
そのまま食べ進められてどんどん短くなっていくバナナとよろこんでいるヴィヴィアンヌを交互に眺めながら、オリヴィエはなんとも言いがたい気分になった。
「お腹いっぱい」
林檎を一つ、バナナを一本食べ終わったヴィヴィアンヌは満足そうにお腹を擦った。満腹になったところで元の欲求を思い出したらしく、ヴィヴィアンヌは少し恥ずかしそうにうつむきながらさきほどの続きをねだる。
「……私、騎士さまの大事なものが気になるな」
それはヴィヴィアンヌの常套の誘い文句となりつつあった。オリヴィエもさきほどの口づけやヴィヴィアンヌの食事姿を眺めてそれなりの気分になっているが、彼女が寝込んでいたことを考えると躊躇われる。
「…………ヴィヴィ、それより、先にお湯で汗を流したほうがいいんじゃないかな?」
「あっ、うん! 水浴び……じゃない、お湯浴び? したい!」
(よしっ)
うまく話をそらしたオリヴィエはほっと胸をなでおろした。ヴィヴィアンヌは入浴に目がない。森の中で暮らしている間は川で水を浴びるだけだったが、湯で身体を温めて洗うことを覚え、それをとても好んでいるようだ。
「じゃあ、お湯を用意してもらってくるよ」
「うん。……あっ」
それを聞いてはっとしたヴィヴィアンヌは数日前に城内で経験したことを思い出し、唇をとがらせた。ヴィヴィアンヌにとって記憶に新しい、もっとも恐ろしい経験だ。
「……私、知らない人に洗われるのは、もういやだよ……」
「え? ……ああ、大丈夫だよ、ヴィヴィ。ここではそんなことしないから」
王族や上級貴族は入浴時の世話を使用人らに任せる。オリヴィエは先の反乱での功労として男爵位を賜り、王都に小さな屋敷を構えているものの、元は平民だ。雇っているメイドもバルテルミ侯爵、エマニュエルのことだが、一時期彼の元に滞在していた頃に世話になった信頼の置ける者一人しかいない。
「よかったぁ……」
オリヴィエの言葉に安心したヴィヴィアンヌは、ほっと胸をなで下ろした。しかしすぐさま別のことを思いついたようで、ヴィヴィアンヌは笑顔で言葉を続ける。
「じゃあ、騎士さま、一緒にお湯浴びしようよ!」
「えっ!?」
残っていた林檎を齧っていたオリヴィエはヴィヴィアンヌの提案に吹き出しそうになった。なんとか堪えると、どう応えるべきかと悩んで目をさまよわせる。
「……っ、いや、それは……まずいんじゃ……」
「……だめなの?」
ヴィヴィアンヌは少し悲しげな表情で上目遣いに問う。オリヴィエはヴィヴィアンヌのこの表情に、どうしても勝てないのだ。
「…………だめじゃない」
「じゃあ騎士さま、一緒に入ろうね!」
残念ながら、ヴィヴィアンヌの方が一枚上手だったようだ。ヴィヴィアンヌも、なかなか強かになったものだ。
この屋敷の唯一のメイド、マリーは初老の女性だ。マリーはオリヴィエがヴィヴィアンヌと一緒に入浴すると聞いて常と変わらずほほ笑んでうなずいただけだったが、内心では仲がよろしいことでとほほ笑ましく思っていた。マリーは素早く準備を終え、しばらく部屋で控えていると下がる。
「ふふん。お湯浴び、気持ちいいね」
「これはお湯浴びじゃなくて……入浴、かな」
「ニュウヨク? うーん。よしっ、覚えたよ」
浴室にどんと鎮座する木製の浴槽、その中でヴィヴィアンヌは鼻歌を歌いながら、オリヴィエの胸に背を預けて湯に浸かっていた。オリヴィエは少し落ち着かなかったが、楽しそうなヴィヴィアンヌの邪魔はしないようにと色々なことを堪える。そんなオリヴィエの努力を知ってか知らないでか、ヴィヴィアンヌはとても楽しそうだ。
「……そうだ、ヴィヴィ。マリーに君のことを少し話してもいいかな? これから世話になるだろうし」
気を紛らわすためも目的もあり、オリヴィエはマリーのことを話した。今後ヴィヴィアンヌがこの屋敷で暮らしていくとなると、マリーと接する機会は多くなる。人の社会から隔離されて生きてきたヴィヴィアンヌにはわからないことが多く、故に接する間にマリーが戸惑うこともあるだろう。だが事前に説明しておけば余計な混乱を避けることができるはずだ。
「話? なにを話すの?」
「森の中で一人で暮らしていたこととか」
「あっ、そっか。うん、わかった」
ヴィヴィアンヌも森の中で一人暮らしていたことで知識は偏り、豊富ではない自覚があった。自覚できたのは、オリヴィエの存在があったからだ。
「ありがとう。マリーにはまだ、僕が結婚を考えている人だとしか紹介していないんだ」
「ケッコン……」
ヴィヴィアンヌはその言葉に思わずにやけてしまう。オリヴィエと恋人となり、森を出てからいくつか問題が発生しつつも無事に王都までたどり着き、王妃の呪いも展望が見えた。これから二人はずっと一緒、いずれは結婚して夫婦となるのだ。
「騎士さま、全部、うまくいっているよね?」
「……そうだな、ヴィヴィのおかげだよ」
オリヴィエが頭をなでると、ヴィヴィアンヌはくるりと体を反転させて胸に寄り添った。ヴィヴィアンヌはオリヴィエを見上げながらうれしそうに笑い、目を閉じて唇を差し出す。
「ヴィヴィ……」
オリヴィエがその唇に口づけると、ヴィヴィアンヌはもっとせがんだ。ヴィヴィアンヌは何度かそれを繰り返しているうちにあることに気づいたようで、目を開いていたずらっぽく笑う。
「騎士さま、大事なものちょっと硬くなった?」
「……ヴィヴィ、わざとだろう?」
「へへっ」
苦笑いしつつも、オリヴィエも満更ではない。ヴィヴィアンヌの背に腕を回して抱き寄せると、舌を絡めて口づけた。おたがいに求め合い、深く口づけ合う。唇が離れ、いつもよりも惚けているヴィヴィアンヌは物欲しさに自身の下半身がうずくのを感じ、甘い声でねだった。
「……騎士さま、オリヴィエ……」
「……その前に、体、洗おうか」
オリヴィエはヴィヴィアンヌの求める視線に気づいていたが、それを受け流す。ヴィヴィアンヌは少し不満そうに唇を尖らせたが、うなずいて従った。
「騎士さま、これ!」
「林檎だな」
ヴィヴィアンヌは用意された果物たちの中から林檎を選ぶ。オリヴィエは小さなナイフで林檎を切り、芯を抜いて食べやすくすると、一切れつまんで差し出した。それをぱくりとひとくちで食べたヴィヴィアンヌは両頬を押さえて幸せそうに笑う。
「騎士さま、林檎をもっとちょうだい!」
「はい、どうぞ」
オリヴィエは笑いながらもう一切れつまみ、差し出す。それを続け、あっという間に林檎はすべてヴィヴィアンヌの胃におさめられた。まだ少し物足りないヴィヴィアンヌは次を選ぼうと果物に目を向ける。
「騎士さま、その黄色いのはなに?」
「これは……バナナだな」
「バナナ? 初めて見た。……騎士さま、私、バナナが食べたいな!」
「はいはい」
オリヴィエが皮を剥いてバナナを差し出すと、ヴィヴィアンヌは果実に顔を近づけてすんすんと匂いを嗅いだ。甘そうな香りにつられ、まずは先端をぺろりとなめる。それを間近で眺めていたオリヴィエはごくりと生唾を飲み込んだ。
(…………いやいや、いやいや)
オリヴィエの脳内によこしまな妄想が広がった。首を横に振ってそれを霧散させ、無理やり笑顔を作ってヴィヴィアンヌに優しく声をかける。
「……ヴィヴィ、これはなめるものじゃないよ」
「へへ、先にどんな味なのかなって。ちょっとだけ、気になっちゃったの」
「……そっか。でもこれは、そのまま咥えて……」
自分で自分の言葉が恥ずかしくなったオリヴィエは途中で言葉を切ったが、ヴィヴィアンヌはその言葉のとおりに先端を咥えた。その瞬間を目撃したオリヴィエは、慌てて片手で顔を覆う。
(……これは……いや、うん。…………結構、いいな……)
自分に正直になったオリヴィエはバナナを自分の大事なものにすりかえ、それをなめたり咥えたりするヴィヴィアンヌを妄想する。その妄想に彼の大事なものが少し反応していたが。
「……どうしたの、騎士さま?」
「……あっ、いや……なんでもない」
ヴィヴィアンヌの不思議そうな声に現実に引き戻され、かじりとられて先がなくなったバナナを見たオリヴィエはひゅっと熱が収まる。
(……いや、よくはないな……)
そのまま食べ進められてどんどん短くなっていくバナナとよろこんでいるヴィヴィアンヌを交互に眺めながら、オリヴィエはなんとも言いがたい気分になった。
「お腹いっぱい」
林檎を一つ、バナナを一本食べ終わったヴィヴィアンヌは満足そうにお腹を擦った。満腹になったところで元の欲求を思い出したらしく、ヴィヴィアンヌは少し恥ずかしそうにうつむきながらさきほどの続きをねだる。
「……私、騎士さまの大事なものが気になるな」
それはヴィヴィアンヌの常套の誘い文句となりつつあった。オリヴィエもさきほどの口づけやヴィヴィアンヌの食事姿を眺めてそれなりの気分になっているが、彼女が寝込んでいたことを考えると躊躇われる。
「…………ヴィヴィ、それより、先にお湯で汗を流したほうがいいんじゃないかな?」
「あっ、うん! 水浴び……じゃない、お湯浴び? したい!」
(よしっ)
うまく話をそらしたオリヴィエはほっと胸をなでおろした。ヴィヴィアンヌは入浴に目がない。森の中で暮らしている間は川で水を浴びるだけだったが、湯で身体を温めて洗うことを覚え、それをとても好んでいるようだ。
「じゃあ、お湯を用意してもらってくるよ」
「うん。……あっ」
それを聞いてはっとしたヴィヴィアンヌは数日前に城内で経験したことを思い出し、唇をとがらせた。ヴィヴィアンヌにとって記憶に新しい、もっとも恐ろしい経験だ。
「……私、知らない人に洗われるのは、もういやだよ……」
「え? ……ああ、大丈夫だよ、ヴィヴィ。ここではそんなことしないから」
王族や上級貴族は入浴時の世話を使用人らに任せる。オリヴィエは先の反乱での功労として男爵位を賜り、王都に小さな屋敷を構えているものの、元は平民だ。雇っているメイドもバルテルミ侯爵、エマニュエルのことだが、一時期彼の元に滞在していた頃に世話になった信頼の置ける者一人しかいない。
「よかったぁ……」
オリヴィエの言葉に安心したヴィヴィアンヌは、ほっと胸をなで下ろした。しかしすぐさま別のことを思いついたようで、ヴィヴィアンヌは笑顔で言葉を続ける。
「じゃあ、騎士さま、一緒にお湯浴びしようよ!」
「えっ!?」
残っていた林檎を齧っていたオリヴィエはヴィヴィアンヌの提案に吹き出しそうになった。なんとか堪えると、どう応えるべきかと悩んで目をさまよわせる。
「……っ、いや、それは……まずいんじゃ……」
「……だめなの?」
ヴィヴィアンヌは少し悲しげな表情で上目遣いに問う。オリヴィエはヴィヴィアンヌのこの表情に、どうしても勝てないのだ。
「…………だめじゃない」
「じゃあ騎士さま、一緒に入ろうね!」
残念ながら、ヴィヴィアンヌの方が一枚上手だったようだ。ヴィヴィアンヌも、なかなか強かになったものだ。
この屋敷の唯一のメイド、マリーは初老の女性だ。マリーはオリヴィエがヴィヴィアンヌと一緒に入浴すると聞いて常と変わらずほほ笑んでうなずいただけだったが、内心では仲がよろしいことでとほほ笑ましく思っていた。マリーは素早く準備を終え、しばらく部屋で控えていると下がる。
「ふふん。お湯浴び、気持ちいいね」
「これはお湯浴びじゃなくて……入浴、かな」
「ニュウヨク? うーん。よしっ、覚えたよ」
浴室にどんと鎮座する木製の浴槽、その中でヴィヴィアンヌは鼻歌を歌いながら、オリヴィエの胸に背を預けて湯に浸かっていた。オリヴィエは少し落ち着かなかったが、楽しそうなヴィヴィアンヌの邪魔はしないようにと色々なことを堪える。そんなオリヴィエの努力を知ってか知らないでか、ヴィヴィアンヌはとても楽しそうだ。
「……そうだ、ヴィヴィ。マリーに君のことを少し話してもいいかな? これから世話になるだろうし」
気を紛らわすためも目的もあり、オリヴィエはマリーのことを話した。今後ヴィヴィアンヌがこの屋敷で暮らしていくとなると、マリーと接する機会は多くなる。人の社会から隔離されて生きてきたヴィヴィアンヌにはわからないことが多く、故に接する間にマリーが戸惑うこともあるだろう。だが事前に説明しておけば余計な混乱を避けることができるはずだ。
「話? なにを話すの?」
「森の中で一人で暮らしていたこととか」
「あっ、そっか。うん、わかった」
ヴィヴィアンヌも森の中で一人暮らしていたことで知識は偏り、豊富ではない自覚があった。自覚できたのは、オリヴィエの存在があったからだ。
「ありがとう。マリーにはまだ、僕が結婚を考えている人だとしか紹介していないんだ」
「ケッコン……」
ヴィヴィアンヌはその言葉に思わずにやけてしまう。オリヴィエと恋人となり、森を出てからいくつか問題が発生しつつも無事に王都までたどり着き、王妃の呪いも展望が見えた。これから二人はずっと一緒、いずれは結婚して夫婦となるのだ。
「騎士さま、全部、うまくいっているよね?」
「……そうだな、ヴィヴィのおかげだよ」
オリヴィエが頭をなでると、ヴィヴィアンヌはくるりと体を反転させて胸に寄り添った。ヴィヴィアンヌはオリヴィエを見上げながらうれしそうに笑い、目を閉じて唇を差し出す。
「ヴィヴィ……」
オリヴィエがその唇に口づけると、ヴィヴィアンヌはもっとせがんだ。ヴィヴィアンヌは何度かそれを繰り返しているうちにあることに気づいたようで、目を開いていたずらっぽく笑う。
「騎士さま、大事なものちょっと硬くなった?」
「……ヴィヴィ、わざとだろう?」
「へへっ」
苦笑いしつつも、オリヴィエも満更ではない。ヴィヴィアンヌの背に腕を回して抱き寄せると、舌を絡めて口づけた。おたがいに求め合い、深く口づけ合う。唇が離れ、いつもよりも惚けているヴィヴィアンヌは物欲しさに自身の下半身がうずくのを感じ、甘い声でねだった。
「……騎士さま、オリヴィエ……」
「……その前に、体、洗おうか」
オリヴィエはヴィヴィアンヌの求める視線に気づいていたが、それを受け流す。ヴィヴィアンヌは少し不満そうに唇を尖らせたが、うなずいて従った。
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