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本編
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「これ、すごくおいしいね。なんていう名前なの?」
「これは葡萄だ」
「ブドウ……うん、覚えたよ。騎士さま、私、もっとブドウを食べたいな」
口をぱくぱくと開いてねだるヴィヴィアンヌに、オリヴィエは笑ってまた一粒葡萄を摘む。オリヴィエが皮を剥き、葡萄を差し出したところで部屋の扉が開かれた。
「あっ」
オリヴィエは扉の音に気づいて手を引っ込めようとしたが、ヴィヴィアンヌはさらに身を乗り出してそれを追いかけ、葡萄を彼の指ごとぱくりと咥える。その光景を目にしたエマニュエルは言葉を失い、目を丸くした。
「補佐官! あっ、これは……その……」
顔を真っ赤にしたオリヴィエと目を丸くして驚いているエマニュエル、二人のことなど我関せず葡萄を味わい笑顔のヴィヴィアンヌ。
「……ふふ」
そんな三人の様子を眺め、笑う者がいた。オリヴィエはエマニュエルの後ろに隠れるように立つ者の存在に気づき、焦った声を上げる。
「陛下!?」
「きちゃった」
エマニュエルの後ろからひょっこりと現れたのは、色白の小柄な男だ。彼こそがこの国の王、ヴィルジール。不遇で過酷な幼少期を過ごした彼は体の成長を阻害されて背が低く、また体の線も細かった。
「オリヴィエ」
ヴィルジールが身にまとう服はすべて上質なものだ。その背に白に近い金色の長い髪を緩く三つ編んで流している。ヴィルジールの薄い紅色の目は楽しそうに三日月型に細められ、三人を映していた。
「このような格好で、失礼を……」
「いいよいいよ、気にしないで。正式な手順を踏まずにやってきたのは、私の方だからね」
慌てて立ち上がったオリヴィエが膝をついて礼を取ろうとすると、ヴィルジールはそれを手で制した。ヴィルジールはオリヴィエの前まで歩いて近づくと、頭を下げるオリヴィエの肩にそっと手を置く。
「よく、無事に戻ってくれた」
「……もったいないお言葉です」
「なにを言う。君になにかあったら、私はジャンヌに顔向けできないよ」
オリヴィエは未だ意識の戻らない王妃を想い、目を伏せた。もし王妃の意識があれば、望みは薄く命の危険のあるオリヴィエの行動を止めていただろう。
「ほら。顔を上げて、立つといい」
ヴィルジールはオリヴィエの肩を軽く叩き、笑って手を差し出した。顔を上げたオリヴィエは眉尻を下げながら小さく笑い、その手を取って立ち上がる。
(……だれだろう? 邪魔しない方がいいよね)
ヴィヴィアンヌは二人のやり取りを眺めながら、大人しく葡萄を手に取った。エマニュエルがちらりとヴィヴィアンヌの様子を確認していたが、ヴィヴィアンヌは気にせずに葡萄を食べ進めている。
「……それで、君が戻り彼女を連れてきたということは、彼女がそう……希望なのかな?」
「……はい」
ヴィルジールの言葉にオリヴィエはうなずいた。だれもが望み薄だと思っていた魔女の森で見つけた希望、それがヴィヴィアンヌだ。ヴィルジールはヴィヴィアンヌに目を向け、エマニュエルも目を向け、オリヴィエも同じように目を向ける。
(おいしい。へへ、ブドウ、もっとないかな……あっ!?)
話についていけなかったヴィヴィアンヌは自分で葡萄の皮を剝いて食べていた。もう一房食べようと顔を上げてバスケット手を伸ばしたヴィヴィアンヌは自身に三人の目が向けられていることに気づき、驚いてびくりと体を震わせる。
「えっ……えっと……」
不安になったヴィヴィアンヌは立ち上がり、オリヴィエの元に駆け寄りその後ろに隠れた。オリヴィエの服の裾を握りながら恐る恐る小声で問いかける。
「騎士さま……私、ブドウ食べすぎた? だめだった?」
「……いや。大丈夫だよ、ヴィヴィ。陛下、こちらはヴィヴィアンヌ。魔女の森にて出会い……協力の承諾を得て、お連れしました」
ヴィルジールはまじまじとヴィヴィアンヌを見つめる。オリヴィエが王妃の呪いを解く手立てとして、連れ帰ってきた人物だ。彼女の鮮やかな赤い髪と瞳は、ヴィルジールの記憶に刻まれた色とあまりにも酷似していた。
(よく似ている……彼女は、魔女の血縁か)
魔女の森に向かったオリヴィエが連れ帰ったという事実がヴィルジールに容易に想像をつかせた。孫娘を殺された魔女は狂王を殺そうとした。魔女の襲撃は一度や二度ではなく、その度に大きな被害がもたらされ、そして最後の襲撃はこの王城で起きた。ヴィルジールもその襲撃に居合わせ、どのような惨状だったのか、魔女がどのように殺されたのかをその目と耳で見聞きしていた。
赤子の泣く声とそれを抱きしめる女性のすすり泣く声。魔女の罵声と憎悪に燃える赤い瞳、それらをにやけた表情で眺めている父王。魔女は自身の魔力のすべてを使い果たして赤子らを逃がし、殺された。
(……あの子が生きていれば、ちょうど彼女くらいか)
ヴィルジールはあの日父王に、いや、自分にも向けられた魔女の怨嗟の言葉と目を忘れられなかった。呪いは狂王から子であるヴィルジールに引き継がれてしまったと言われているが、魔女は父王の狂行を止められなかった、止めようともせずに息を潜め隠れ、ただことが過ぎることを望んでいた自分のことも呪ったのではないかと思っている。
「……まさか、ここで再びあの色を見ることになるとはね」
ヴィルジールがぼそりとつぶやいて自嘲し、ヴィヴィアンヌはそれに不思議そうに首をかしげる。ヴィヴィアンヌはまだヴィルジールが何者かをよくわかっていないようだ。オリヴィエが見かね、ヴィヴィアンヌにそっと耳打ちする。
「ヴィヴィ、この方が国王陛下だ」
「えっ、王さまなの? すごい、本物!」
耳打ちなど無意味なくらいに大きな声を上げ、ヴィヴィアンヌは目を輝かせてヴィルジールを見つめた。ヴィルジールはその無垢な目に困惑し、戸惑う。あの日の魔女のようにとまでは言わなくとも、少なからず怒りなり憎しみなりの感情を向けられると思っていたからだ。
「王さま、私が王妃さまの呪いを解けるかもしれないよ!」
「ちょっ、ヴィヴィ、いきなり……!」
「いいよ、オリヴィエ。……続けてくれるかな、ヴィヴィアンヌ」
「うん!」
ヴィヴィアンヌは拙い言葉選びながらも、自分の魔質が魔女の魔質と似ているかもしれないこと、魔質が似ている魔力は干渉しやすいこと、故に魔力を用いる呪いも彼女なら干渉しやすく解けるのではないかということを必死に説明した。オリヴィエは途中で顔を赤くしたり青くしたりはらはらしながら見守っていたが、ヴィルジールは口を挟むことなく最後まで耳を傾ける。
「魔力の干渉について、似たような研究報告がございます」
「そう……」
エマニュエルの補足にヴィルジールは顎に手を当て、うなずきながら考え込む。ヴィヴィアンヌが本当に魔女の血縁なのかは現段階では定かではないが、彼女の容姿が非常に魔女と似ていることや彼女自身の持つ魔力量が途方もない量であることが魔法使いでもあるヴィルジールにはよくわかった。
(……どんな手段でも……そこにわずかでも希望があるのなら……)
ヴィルジールは王妃を目覚めさせたいと強く願っている。王妃を愛しているからだが、それだけが理由ではない。
戦乙女と呼ばれた王妃は狂王に蹂躙され続けた民らにとって、希望の光だった。狂王が討たれたいまも、戦乙女の民からの人気は高い。ヴィルジールが王として在れるのも王妃の存在が大きいだろう。このまま意識が戻らない、最悪命を落とすことになれば再びこの国は混乱に陥る。
故にヴィルジールはどんな手段を使ってでも王妃の呪いを解かなければならなかった。それが父王が苦しめた魔女の血縁の力を借りることであっても。膝をつき、頭を垂れ、額を地に擦りつけることになってでも、その力を借りなければならなかった。
「これは葡萄だ」
「ブドウ……うん、覚えたよ。騎士さま、私、もっとブドウを食べたいな」
口をぱくぱくと開いてねだるヴィヴィアンヌに、オリヴィエは笑ってまた一粒葡萄を摘む。オリヴィエが皮を剥き、葡萄を差し出したところで部屋の扉が開かれた。
「あっ」
オリヴィエは扉の音に気づいて手を引っ込めようとしたが、ヴィヴィアンヌはさらに身を乗り出してそれを追いかけ、葡萄を彼の指ごとぱくりと咥える。その光景を目にしたエマニュエルは言葉を失い、目を丸くした。
「補佐官! あっ、これは……その……」
顔を真っ赤にしたオリヴィエと目を丸くして驚いているエマニュエル、二人のことなど我関せず葡萄を味わい笑顔のヴィヴィアンヌ。
「……ふふ」
そんな三人の様子を眺め、笑う者がいた。オリヴィエはエマニュエルの後ろに隠れるように立つ者の存在に気づき、焦った声を上げる。
「陛下!?」
「きちゃった」
エマニュエルの後ろからひょっこりと現れたのは、色白の小柄な男だ。彼こそがこの国の王、ヴィルジール。不遇で過酷な幼少期を過ごした彼は体の成長を阻害されて背が低く、また体の線も細かった。
「オリヴィエ」
ヴィルジールが身にまとう服はすべて上質なものだ。その背に白に近い金色の長い髪を緩く三つ編んで流している。ヴィルジールの薄い紅色の目は楽しそうに三日月型に細められ、三人を映していた。
「このような格好で、失礼を……」
「いいよいいよ、気にしないで。正式な手順を踏まずにやってきたのは、私の方だからね」
慌てて立ち上がったオリヴィエが膝をついて礼を取ろうとすると、ヴィルジールはそれを手で制した。ヴィルジールはオリヴィエの前まで歩いて近づくと、頭を下げるオリヴィエの肩にそっと手を置く。
「よく、無事に戻ってくれた」
「……もったいないお言葉です」
「なにを言う。君になにかあったら、私はジャンヌに顔向けできないよ」
オリヴィエは未だ意識の戻らない王妃を想い、目を伏せた。もし王妃の意識があれば、望みは薄く命の危険のあるオリヴィエの行動を止めていただろう。
「ほら。顔を上げて、立つといい」
ヴィルジールはオリヴィエの肩を軽く叩き、笑って手を差し出した。顔を上げたオリヴィエは眉尻を下げながら小さく笑い、その手を取って立ち上がる。
(……だれだろう? 邪魔しない方がいいよね)
ヴィヴィアンヌは二人のやり取りを眺めながら、大人しく葡萄を手に取った。エマニュエルがちらりとヴィヴィアンヌの様子を確認していたが、ヴィヴィアンヌは気にせずに葡萄を食べ進めている。
「……それで、君が戻り彼女を連れてきたということは、彼女がそう……希望なのかな?」
「……はい」
ヴィルジールの言葉にオリヴィエはうなずいた。だれもが望み薄だと思っていた魔女の森で見つけた希望、それがヴィヴィアンヌだ。ヴィルジールはヴィヴィアンヌに目を向け、エマニュエルも目を向け、オリヴィエも同じように目を向ける。
(おいしい。へへ、ブドウ、もっとないかな……あっ!?)
話についていけなかったヴィヴィアンヌは自分で葡萄の皮を剝いて食べていた。もう一房食べようと顔を上げてバスケット手を伸ばしたヴィヴィアンヌは自身に三人の目が向けられていることに気づき、驚いてびくりと体を震わせる。
「えっ……えっと……」
不安になったヴィヴィアンヌは立ち上がり、オリヴィエの元に駆け寄りその後ろに隠れた。オリヴィエの服の裾を握りながら恐る恐る小声で問いかける。
「騎士さま……私、ブドウ食べすぎた? だめだった?」
「……いや。大丈夫だよ、ヴィヴィ。陛下、こちらはヴィヴィアンヌ。魔女の森にて出会い……協力の承諾を得て、お連れしました」
ヴィルジールはまじまじとヴィヴィアンヌを見つめる。オリヴィエが王妃の呪いを解く手立てとして、連れ帰ってきた人物だ。彼女の鮮やかな赤い髪と瞳は、ヴィルジールの記憶に刻まれた色とあまりにも酷似していた。
(よく似ている……彼女は、魔女の血縁か)
魔女の森に向かったオリヴィエが連れ帰ったという事実がヴィルジールに容易に想像をつかせた。孫娘を殺された魔女は狂王を殺そうとした。魔女の襲撃は一度や二度ではなく、その度に大きな被害がもたらされ、そして最後の襲撃はこの王城で起きた。ヴィルジールもその襲撃に居合わせ、どのような惨状だったのか、魔女がどのように殺されたのかをその目と耳で見聞きしていた。
赤子の泣く声とそれを抱きしめる女性のすすり泣く声。魔女の罵声と憎悪に燃える赤い瞳、それらをにやけた表情で眺めている父王。魔女は自身の魔力のすべてを使い果たして赤子らを逃がし、殺された。
(……あの子が生きていれば、ちょうど彼女くらいか)
ヴィルジールはあの日父王に、いや、自分にも向けられた魔女の怨嗟の言葉と目を忘れられなかった。呪いは狂王から子であるヴィルジールに引き継がれてしまったと言われているが、魔女は父王の狂行を止められなかった、止めようともせずに息を潜め隠れ、ただことが過ぎることを望んでいた自分のことも呪ったのではないかと思っている。
「……まさか、ここで再びあの色を見ることになるとはね」
ヴィルジールがぼそりとつぶやいて自嘲し、ヴィヴィアンヌはそれに不思議そうに首をかしげる。ヴィヴィアンヌはまだヴィルジールが何者かをよくわかっていないようだ。オリヴィエが見かね、ヴィヴィアンヌにそっと耳打ちする。
「ヴィヴィ、この方が国王陛下だ」
「えっ、王さまなの? すごい、本物!」
耳打ちなど無意味なくらいに大きな声を上げ、ヴィヴィアンヌは目を輝かせてヴィルジールを見つめた。ヴィルジールはその無垢な目に困惑し、戸惑う。あの日の魔女のようにとまでは言わなくとも、少なからず怒りなり憎しみなりの感情を向けられると思っていたからだ。
「王さま、私が王妃さまの呪いを解けるかもしれないよ!」
「ちょっ、ヴィヴィ、いきなり……!」
「いいよ、オリヴィエ。……続けてくれるかな、ヴィヴィアンヌ」
「うん!」
ヴィヴィアンヌは拙い言葉選びながらも、自分の魔質が魔女の魔質と似ているかもしれないこと、魔質が似ている魔力は干渉しやすいこと、故に魔力を用いる呪いも彼女なら干渉しやすく解けるのではないかということを必死に説明した。オリヴィエは途中で顔を赤くしたり青くしたりはらはらしながら見守っていたが、ヴィルジールは口を挟むことなく最後まで耳を傾ける。
「魔力の干渉について、似たような研究報告がございます」
「そう……」
エマニュエルの補足にヴィルジールは顎に手を当て、うなずきながら考え込む。ヴィヴィアンヌが本当に魔女の血縁なのかは現段階では定かではないが、彼女の容姿が非常に魔女と似ていることや彼女自身の持つ魔力量が途方もない量であることが魔法使いでもあるヴィルジールにはよくわかった。
(……どんな手段でも……そこにわずかでも希望があるのなら……)
ヴィルジールは王妃を目覚めさせたいと強く願っている。王妃を愛しているからだが、それだけが理由ではない。
戦乙女と呼ばれた王妃は狂王に蹂躙され続けた民らにとって、希望の光だった。狂王が討たれたいまも、戦乙女の民からの人気は高い。ヴィルジールが王として在れるのも王妃の存在が大きいだろう。このまま意識が戻らない、最悪命を落とすことになれば再びこの国は混乱に陥る。
故にヴィルジールはどんな手段を使ってでも王妃の呪いを解かなければならなかった。それが父王が苦しめた魔女の血縁の力を借りることであっても。膝をつき、頭を垂れ、額を地に擦りつけることになってでも、その力を借りなければならなかった。
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