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本編
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「……でも、僕……私を見て、胸がどきどきすることがあったんですね」
「うん、まだ一回だけだけど」
一回でも十分だと、オリヴィエは内心おおよろこびだった。少なくともヴィヴィアンヌの中で自分の存在が変化しつつある、それを知れただけでもオリヴィエはこれからもがんばれる気がした。
「……僕も、ヴィヴィアンヌを見て胸がどきどきすることがあるんです」
「そうなんだ? ……これってもしかして、病気?」
「……いえ、病気ではないですよ」
「そっか。病気じゃないなら、まあ、いいか。よかったね、騎士さま!」
「……えっと、病気じゃないから……まあ、いいですけど……はぁ……」
ヴィヴィアンヌはオリヴィエの言葉を適当に流しオリヴィエは衝撃を受けて打ちのめされる。だがいまは自分の本来の目的を先に片づけなければと気を取り直した。
「騎士さまは、洞窟を調べに行くの?」
「……はい。といってもこの足と腕ですから、まずは位置の確認のみに留めます」
「そっか……」
オリヴィエは洞窟を調査し終えるまでの間はここに留まる予定だ。いますぐにいなくなってしまうわけではないと知り、ヴィヴィアンヌはほっと胸をなで下ろす。
「方向を教えていただければ、十分です」
「えっと、あっちの方だけど……」
指を指しながら、ヴィヴィアンヌの胸に別の不安がよぎった。オリヴィエはまだ左腕が動かせず、足も完治とは言いがたい。この状態で一人森を歩くことも、洞窟へ向かうことも心配でならない。そもそも一人で森に入り、洞窟に向かった結果があの大けがだ。
「……私も、一緒に行っていい?」
「それは……いえ、森は危険です」
「騎士さま、私がここ住んでいること忘れていない? 私、案内できるよ。それに、私よりいまの騎士さまのほうが危ないと思う」
「うっ」
オリヴィエは痛いところを突かれて押し黙る。けがした足と腕でむやみに歩き回るよりは、森に慣れたヴィヴィアンヌの案内がある方がいい。
「……君に、迷惑をかけてばかりで」
「騎士さま、そんなこと言わないでよ! 私が一緒に行きたいんだから」
「ヴィヴィアンヌ……」
それはヴィヴィアンヌの本心だ。オリヴィエが目的を果たすまで、できるだけ多くの時間を一緒に過ごしたい。いまのヴィヴィアンヌにはオリヴィエを引き止めるつもりも、自身が外に出ていくつもりもなかった。
「わかりました。では、お願いします」
「うん!」
オリヴィエが去れば、森の中でまた一人で過ごすだけ。そうなればおそらく、二度とオリヴィエと会うことはないだろう。
(……なんだろう。胸が、変な感じ)
ヴィヴィアンヌは再び感じた締めつけられる感覚に胸を抑え、首をかしげた。けれどもすぐに首を横に振ると、立ち上がって裾を払う。
「あっ、それじゃあ先に魔法で治療したほうがいいよね」
「……なにからなにまで、ありがとう」
「へへ、どういたしまして」
オリヴィエが目を細め、ヴィヴィアンヌに礼をする。ヴィヴィアンヌは感謝されることが、ありがとうと言葉をかけてもらえることがうれしかった。それは一人では知れなかったよろこびだ。
早速ヴィヴィアンヌはオリヴィエの足を治療する。これまでの治療により、オリヴィエは走るといった激しい動作はまだできないものの、歩くには十分に回復していた。治療を終えたヴィヴィアンヌは少し疲れてしまったが、気づかれないように振る舞い編みかごを片手に取る。
「ヴィヴィアンヌ、そのかごは?」
「これ? ついでに木の実を拾おうと思って」
オリヴィエはその言葉に表情を曇らせた。貯蓄してある食料を消費している身で、それに見合うほどの、いやそれどころかこれといってヴィヴィアンヌの役に立てた覚えがないからだ。ヴィヴィアンヌの望みどおりに森の外についてさまざまなことを話しているが、対価としてはあまりにも価値がないとオリヴィエは思っている。
(……ううん、見せるくらいなら礼として……いやいや、やっぱりだめだろう。ただの変態じゃないか、僕……)
オリヴィエはヴィヴィアンヌの渇望するあれの観覧くらい許すべきかと考えたが、冷静に考えて恋人や夫婦ないし近い関係でもない女の子に見せるのはさすがにまずすぎると思い直した。
「騎士さま?」
「い、いや……なんでもない」
考え込んだオリヴィエを不思議に思い、ヴィヴィアンヌが声をかける。オリヴィエはごまかして別の話題を振り、二人はたわいのない会話をしながら崖の近くまでたどりついた。
「ここだよ。騎士さまが倒れていたのは、あのへん」
「……よく生きていたな、僕……」
オリヴィエは自分の背丈の五倍ほどはある崖を眺めながらぽつりとつぶやく。断崖絶壁とまでは言わずともずいぶんと険しく、登るのは難しそうだ。少なくともいまのオリヴィエの状態では不可能だろう。
「上に行くには、迂回するしかないか……?」
オリヴィエは迂回できる道がないかと辺りを見回す。その様子を眺めながら、ヴィヴィアンヌは口を開く。だが躊躇し、思いついた言葉は音にならずに飲み込まれていった。
(私……でも……ううん、だって……)
ヴィヴィアンヌの中で黒い染みがじわじわと広がっていく。それをどう扱えばよいのかわからず、ヴィヴィアンヌはうつむいて編みかごを持つ手にぎゅっと力を込めた。
ヴィヴィアンヌはこの森に幼い頃から住んでおり、曾祖母の洞窟に入ったことは何度もあった。当然、ヴィヴィアンヌには崖の上にたどりつく手立てがある。崖の上に、いや、洞窟の調査をしたいというオリヴィエの願いを叶える手助けを十分にできる。
だが、ヴィヴィアンヌは躊躇した。洞窟の調査が進めば進んだ分、オリヴィエとの別れが近づく。それを拒むヴィヴィアンヌの心が彼女の言葉を奪ってしまった。
(どうしたら……)
元々、ヴィヴィアンヌにはオリヴィエを手伝う義務も責任も一切ない。オリヴィエを手伝わなくても、彼がヴィヴィアンヌを責めることはないだろう。
「……ヴィヴィアンヌ?」
オリヴィエは暗い感情に飲まれているヴィヴィアンヌに心配そうに声をかけた。ヴィヴィアンヌはその声にはっとして顔を上げる。ヴィヴィアンヌの目に真っ先に映ったのは、心配そうに顔をのぞき込むオリヴィエの姿だ。
「あ……っ」
ヴィヴィアンヌは慌ててなにかを言おうとしたが、慌てすぎて手に持った編みかごを落としてしまった。中にはまだなにも入っておらず、ただ編みかごだけが転がり落ちる。ヴィヴィアンヌはそれを拾おうとしたが、先にオリヴィエが編みかごを拾い上げて彼女に差し出した。
「はい、どうぞ」
「……騎士さま、ありがとう」
ヴィヴィアンヌは編みかごを受取り、それをじっと眺める。オリヴィエに拾ってもらい、手渡された。それだけでヴィヴィアンヌはうれしかった。いままで編みかごを落とそうが、中にはいっているものを落とそうが、だれも反応しなかった。周りにだれもいなかったのだから、当然だ。
「どういたしまして。ようやく、役に立てたかな?」
「え?」
ヴィヴィアンヌは目を丸くし、まばたきながらオリヴィエを見る。オリヴィエはその視線を受けると、少し照れくさそうに笑った。
「いつもヴィヴィアンヌに助けられてばかりだから……私も、君の役に立てたのならうれしい」
「私の……」
ヴィヴィアンヌは少し考え込んだ後、頬を赤らめながら笑みを浮かべた。それを直視したオリヴィエは胸に手を当て、小さくうめいてうつむく。
「へへ、うれしいな。……あれ、騎士さま?」
「かわいい…………えっ、あ、あぁ。私もうれしいよ」
役に立てると相手はよろこぶ、役に立ててよろこんでもらえたら自分もうれしい。ヴィヴィアンヌはそれを知り、さきほど飲み込んだ言葉をしっかりと言葉に出した。
「うん、まだ一回だけだけど」
一回でも十分だと、オリヴィエは内心おおよろこびだった。少なくともヴィヴィアンヌの中で自分の存在が変化しつつある、それを知れただけでもオリヴィエはこれからもがんばれる気がした。
「……僕も、ヴィヴィアンヌを見て胸がどきどきすることがあるんです」
「そうなんだ? ……これってもしかして、病気?」
「……いえ、病気ではないですよ」
「そっか。病気じゃないなら、まあ、いいか。よかったね、騎士さま!」
「……えっと、病気じゃないから……まあ、いいですけど……はぁ……」
ヴィヴィアンヌはオリヴィエの言葉を適当に流しオリヴィエは衝撃を受けて打ちのめされる。だがいまは自分の本来の目的を先に片づけなければと気を取り直した。
「騎士さまは、洞窟を調べに行くの?」
「……はい。といってもこの足と腕ですから、まずは位置の確認のみに留めます」
「そっか……」
オリヴィエは洞窟を調査し終えるまでの間はここに留まる予定だ。いますぐにいなくなってしまうわけではないと知り、ヴィヴィアンヌはほっと胸をなで下ろす。
「方向を教えていただければ、十分です」
「えっと、あっちの方だけど……」
指を指しながら、ヴィヴィアンヌの胸に別の不安がよぎった。オリヴィエはまだ左腕が動かせず、足も完治とは言いがたい。この状態で一人森を歩くことも、洞窟へ向かうことも心配でならない。そもそも一人で森に入り、洞窟に向かった結果があの大けがだ。
「……私も、一緒に行っていい?」
「それは……いえ、森は危険です」
「騎士さま、私がここ住んでいること忘れていない? 私、案内できるよ。それに、私よりいまの騎士さまのほうが危ないと思う」
「うっ」
オリヴィエは痛いところを突かれて押し黙る。けがした足と腕でむやみに歩き回るよりは、森に慣れたヴィヴィアンヌの案内がある方がいい。
「……君に、迷惑をかけてばかりで」
「騎士さま、そんなこと言わないでよ! 私が一緒に行きたいんだから」
「ヴィヴィアンヌ……」
それはヴィヴィアンヌの本心だ。オリヴィエが目的を果たすまで、できるだけ多くの時間を一緒に過ごしたい。いまのヴィヴィアンヌにはオリヴィエを引き止めるつもりも、自身が外に出ていくつもりもなかった。
「わかりました。では、お願いします」
「うん!」
オリヴィエが去れば、森の中でまた一人で過ごすだけ。そうなればおそらく、二度とオリヴィエと会うことはないだろう。
(……なんだろう。胸が、変な感じ)
ヴィヴィアンヌは再び感じた締めつけられる感覚に胸を抑え、首をかしげた。けれどもすぐに首を横に振ると、立ち上がって裾を払う。
「あっ、それじゃあ先に魔法で治療したほうがいいよね」
「……なにからなにまで、ありがとう」
「へへ、どういたしまして」
オリヴィエが目を細め、ヴィヴィアンヌに礼をする。ヴィヴィアンヌは感謝されることが、ありがとうと言葉をかけてもらえることがうれしかった。それは一人では知れなかったよろこびだ。
早速ヴィヴィアンヌはオリヴィエの足を治療する。これまでの治療により、オリヴィエは走るといった激しい動作はまだできないものの、歩くには十分に回復していた。治療を終えたヴィヴィアンヌは少し疲れてしまったが、気づかれないように振る舞い編みかごを片手に取る。
「ヴィヴィアンヌ、そのかごは?」
「これ? ついでに木の実を拾おうと思って」
オリヴィエはその言葉に表情を曇らせた。貯蓄してある食料を消費している身で、それに見合うほどの、いやそれどころかこれといってヴィヴィアンヌの役に立てた覚えがないからだ。ヴィヴィアンヌの望みどおりに森の外についてさまざまなことを話しているが、対価としてはあまりにも価値がないとオリヴィエは思っている。
(……ううん、見せるくらいなら礼として……いやいや、やっぱりだめだろう。ただの変態じゃないか、僕……)
オリヴィエはヴィヴィアンヌの渇望するあれの観覧くらい許すべきかと考えたが、冷静に考えて恋人や夫婦ないし近い関係でもない女の子に見せるのはさすがにまずすぎると思い直した。
「騎士さま?」
「い、いや……なんでもない」
考え込んだオリヴィエを不思議に思い、ヴィヴィアンヌが声をかける。オリヴィエはごまかして別の話題を振り、二人はたわいのない会話をしながら崖の近くまでたどりついた。
「ここだよ。騎士さまが倒れていたのは、あのへん」
「……よく生きていたな、僕……」
オリヴィエは自分の背丈の五倍ほどはある崖を眺めながらぽつりとつぶやく。断崖絶壁とまでは言わずともずいぶんと険しく、登るのは難しそうだ。少なくともいまのオリヴィエの状態では不可能だろう。
「上に行くには、迂回するしかないか……?」
オリヴィエは迂回できる道がないかと辺りを見回す。その様子を眺めながら、ヴィヴィアンヌは口を開く。だが躊躇し、思いついた言葉は音にならずに飲み込まれていった。
(私……でも……ううん、だって……)
ヴィヴィアンヌの中で黒い染みがじわじわと広がっていく。それをどう扱えばよいのかわからず、ヴィヴィアンヌはうつむいて編みかごを持つ手にぎゅっと力を込めた。
ヴィヴィアンヌはこの森に幼い頃から住んでおり、曾祖母の洞窟に入ったことは何度もあった。当然、ヴィヴィアンヌには崖の上にたどりつく手立てがある。崖の上に、いや、洞窟の調査をしたいというオリヴィエの願いを叶える手助けを十分にできる。
だが、ヴィヴィアンヌは躊躇した。洞窟の調査が進めば進んだ分、オリヴィエとの別れが近づく。それを拒むヴィヴィアンヌの心が彼女の言葉を奪ってしまった。
(どうしたら……)
元々、ヴィヴィアンヌにはオリヴィエを手伝う義務も責任も一切ない。オリヴィエを手伝わなくても、彼がヴィヴィアンヌを責めることはないだろう。
「……ヴィヴィアンヌ?」
オリヴィエは暗い感情に飲まれているヴィヴィアンヌに心配そうに声をかけた。ヴィヴィアンヌはその声にはっとして顔を上げる。ヴィヴィアンヌの目に真っ先に映ったのは、心配そうに顔をのぞき込むオリヴィエの姿だ。
「あ……っ」
ヴィヴィアンヌは慌ててなにかを言おうとしたが、慌てすぎて手に持った編みかごを落としてしまった。中にはまだなにも入っておらず、ただ編みかごだけが転がり落ちる。ヴィヴィアンヌはそれを拾おうとしたが、先にオリヴィエが編みかごを拾い上げて彼女に差し出した。
「はい、どうぞ」
「……騎士さま、ありがとう」
ヴィヴィアンヌは編みかごを受取り、それをじっと眺める。オリヴィエに拾ってもらい、手渡された。それだけでヴィヴィアンヌはうれしかった。いままで編みかごを落とそうが、中にはいっているものを落とそうが、だれも反応しなかった。周りにだれもいなかったのだから、当然だ。
「どういたしまして。ようやく、役に立てたかな?」
「え?」
ヴィヴィアンヌは目を丸くし、まばたきながらオリヴィエを見る。オリヴィエはその視線を受けると、少し照れくさそうに笑った。
「いつもヴィヴィアンヌに助けられてばかりだから……私も、君の役に立てたのならうれしい」
「私の……」
ヴィヴィアンヌは少し考え込んだ後、頬を赤らめながら笑みを浮かべた。それを直視したオリヴィエは胸に手を当て、小さくうめいてうつむく。
「へへ、うれしいな。……あれ、騎士さま?」
「かわいい…………えっ、あ、あぁ。私もうれしいよ」
役に立てると相手はよろこぶ、役に立ててよろこんでもらえたら自分もうれしい。ヴィヴィアンヌはそれを知り、さきほど飲み込んだ言葉をしっかりと言葉に出した。
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