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32 魔王を探せ
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『株式会社 大泉建設は廃業しました。
長年のご愛顧、誠にありがとうございました。』
「よし……終わったな。少し休憩するか」
「元」社長の大泉は、ホームページの更新を終えると、長いため息を漏らした。
この数ヶ月は、銀行や役所を駆け回っていた。
そして今日、ようやく会社の廃業の手続きが完全に終わったのだ。
あの青年――弔木が命令したとおり、闇金から信じられない額が振り込まれた。
かなり不安になったが、本当に返す必要のない金だった。
大泉はその金で会社の債務を整理したのだ。
がらんとした事務所に、大泉だけがいた。
貸し事務所のトイレは、未だにダンジョンに繋がっている。
が、今はもう自由に出入りすることはできない。
大泉が潜ったダンジョンは政府に通報された。
そして事務所のトイレは「ダンジョン管理機構」によって封鎖されることになったのだ。
ダンジョンへの入口もなければ、トイレも使えない事務所の家賃を払い続けるメリットはない。
「この事務所も、そろそろ引き払うか。さて、次の仕事だ」
大泉は熱いコーヒーを淹れて、もう一度机に向かう。
作業はまだまだ終わらない。
次は新しい会社立ち上げの作業だ。
大泉は、新しく作り直した名刺を見た。
『株式会社 ダンジョンスカイ
代表取締役 大泉 鷹男』
それが大泉の新しい会社だった。
建設事業からは完全に撤退し、ダンジョン探索に専念する。
大泉はそう決断したのだ。
ダンジョンに潜ることで、どれだけのアイテムが手に入るのか。
自分にどれだけの才能があるのか。
それは大泉本人にも分からない。
しかし今は、ダンジョン以外に生きていく道はないのだ。
「よし、頑張ろう。俺も彼みたいに強ければいいんだが……」
大泉は、あのダンジョンで出会った青年のことを思い出す。
弔木。
見たことのない魔力を操る、不思議な青年。
彼がいなければ大泉はこの世にいないだろう。
借金も返せず、生活は完全に破綻していたはずだ。
弔木は、まさに命の恩人なのだ。
だが今となっては、彼の素性も分からない。
集合場所にしていたダンジョンは「八王子ダンジョン」と正式に命名され、政府の管理下にある。今や誰もが出入りするようになっている。
連絡先も交換しておらず、もはやコンタクトを取りようがないのだ。
「……何とかして探し出さなければ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
千代田区、市ヶ谷。
「国立ダンジョン研究所」内に、ナスターシャの素っ頓狂な声が響いた。
相変わらバニー衣装を装備している。
「なんだって!? 八王子ダンジョンが攻略されていた!? それは……どの階層までだ?」
「静かにしてください、教授。隣の研究所からまたクレームが来ますよ」
と言うのは、助手の平宗だ。
ぱりっとしたパンツスーツに、黒髪のショートボブ。
金髪でバニーなナスターシャとは対照的な出で立ちだ。
「……129階層です。たった今、八王子ダンジョンを探索している自衛隊から連絡がありました。階層の主は、どれもこれも既に倒されていたとのことです」
「129!? ……待て待て待て。何かの間違いじゃないのか?」
ナスターシャは我が耳を疑った。
それだけの規模のダンジョンとなれば、攻略には年単位で時間がかかる。
八王子ダンジョンだって、出現してから1年くらいしか経っていないはずだ。百階層以上もクリアされているなんてことは、あり得ないのだ。
「……いいえ。私も何度か自衛隊に確認をしました。間違いなく、129階層までの階層の主が倒されていたようです」
「そうか――」
ナスターシャは天を仰いだ。
天を仰いだまま、ニタリと笑った。
「ふふ……ふははははは!」
「教授? 壊れかけていた頭が……ついに壊れたのですか?」
と平宗が辛辣なことを言う。
ナスターシャは意に介することもなく、上機嫌だ。
「実によろしい。さやっち。こんなことをした犯人は、誰か分かるかな?」
「教授がよく言っておられる……〝魔王〟ですね」
「そのとおりだ。間違いない! あの〝魔王〟が、八王子ダンジョンにも現れたんだよ。これで三例目だ。宗谷ダンジョン、新宿ダンジョン、そして八王子ダンジョンだ。
……はははは。ダンジョンってやつは実に面白いねえ。こんな訳が分からない存在がいるなんてさ」
「それで、教授はどうされるつもりですか」
「もちろん〝魔王〟を探すに決まっているだろう! こんな面白い研究材料、他にないからね。くひひひひひ」
「ですが教授、未だ〝魔王〟の手がかりはおろか、魔力の痕跡も見つかっていないのですよね? こう言っては何ですが……〝魔王〟とは、本当に存在するのでしょうか? 例えば何かの偶然が重なって『〝魔王〟がいるかのように見えているだけ』と言う可能性は――」
「ない!」
「そ、即答ですか!?」
「さやっち。私はダンジョンをピクニックしているだけじゃないんだよ! 日夜、血が滲むような研究をしているんだ!」
「バニー衣装だとあまり説得力がありませんが?」
「これは魔導衣装! れっきとしたアイテムなの! ダンジョン攻略に必要なの!」
「ここはダンジョンの外ですが?」
「気に入ってるんだからいいでしょ! さやっちも着る? 他にもあるよ。さやっちのバニー姿、見たいなあ」
「論破されてるのを無視しないでください。……それで、即答できる根拠ってあるんですか?」
「まったく……秘書の割に学会の質問者みたいなこと言うじゃないか。心配はいらない。根拠はあるよ」
ナスターシャは試料をしまっている棚を開け、小瓶を取り出した。
「これは、何ですか?」
「新種の魔石を発見したんだ。その名も〝闇の魔石〟だ。ダンジョンで発見した異界の書物に曰わく、『魔王やその配下に宿る、忌まわしき力』だ。後は、この魔力の使い手を探すだけだ!」
長年のご愛顧、誠にありがとうございました。』
「よし……終わったな。少し休憩するか」
「元」社長の大泉は、ホームページの更新を終えると、長いため息を漏らした。
この数ヶ月は、銀行や役所を駆け回っていた。
そして今日、ようやく会社の廃業の手続きが完全に終わったのだ。
あの青年――弔木が命令したとおり、闇金から信じられない額が振り込まれた。
かなり不安になったが、本当に返す必要のない金だった。
大泉はその金で会社の債務を整理したのだ。
がらんとした事務所に、大泉だけがいた。
貸し事務所のトイレは、未だにダンジョンに繋がっている。
が、今はもう自由に出入りすることはできない。
大泉が潜ったダンジョンは政府に通報された。
そして事務所のトイレは「ダンジョン管理機構」によって封鎖されることになったのだ。
ダンジョンへの入口もなければ、トイレも使えない事務所の家賃を払い続けるメリットはない。
「この事務所も、そろそろ引き払うか。さて、次の仕事だ」
大泉は熱いコーヒーを淹れて、もう一度机に向かう。
作業はまだまだ終わらない。
次は新しい会社立ち上げの作業だ。
大泉は、新しく作り直した名刺を見た。
『株式会社 ダンジョンスカイ
代表取締役 大泉 鷹男』
それが大泉の新しい会社だった。
建設事業からは完全に撤退し、ダンジョン探索に専念する。
大泉はそう決断したのだ。
ダンジョンに潜ることで、どれだけのアイテムが手に入るのか。
自分にどれだけの才能があるのか。
それは大泉本人にも分からない。
しかし今は、ダンジョン以外に生きていく道はないのだ。
「よし、頑張ろう。俺も彼みたいに強ければいいんだが……」
大泉は、あのダンジョンで出会った青年のことを思い出す。
弔木。
見たことのない魔力を操る、不思議な青年。
彼がいなければ大泉はこの世にいないだろう。
借金も返せず、生活は完全に破綻していたはずだ。
弔木は、まさに命の恩人なのだ。
だが今となっては、彼の素性も分からない。
集合場所にしていたダンジョンは「八王子ダンジョン」と正式に命名され、政府の管理下にある。今や誰もが出入りするようになっている。
連絡先も交換しておらず、もはやコンタクトを取りようがないのだ。
「……何とかして探し出さなければ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
千代田区、市ヶ谷。
「国立ダンジョン研究所」内に、ナスターシャの素っ頓狂な声が響いた。
相変わらバニー衣装を装備している。
「なんだって!? 八王子ダンジョンが攻略されていた!? それは……どの階層までだ?」
「静かにしてください、教授。隣の研究所からまたクレームが来ますよ」
と言うのは、助手の平宗だ。
ぱりっとしたパンツスーツに、黒髪のショートボブ。
金髪でバニーなナスターシャとは対照的な出で立ちだ。
「……129階層です。たった今、八王子ダンジョンを探索している自衛隊から連絡がありました。階層の主は、どれもこれも既に倒されていたとのことです」
「129!? ……待て待て待て。何かの間違いじゃないのか?」
ナスターシャは我が耳を疑った。
それだけの規模のダンジョンとなれば、攻略には年単位で時間がかかる。
八王子ダンジョンだって、出現してから1年くらいしか経っていないはずだ。百階層以上もクリアされているなんてことは、あり得ないのだ。
「……いいえ。私も何度か自衛隊に確認をしました。間違いなく、129階層までの階層の主が倒されていたようです」
「そうか――」
ナスターシャは天を仰いだ。
天を仰いだまま、ニタリと笑った。
「ふふ……ふははははは!」
「教授? 壊れかけていた頭が……ついに壊れたのですか?」
と平宗が辛辣なことを言う。
ナスターシャは意に介することもなく、上機嫌だ。
「実によろしい。さやっち。こんなことをした犯人は、誰か分かるかな?」
「教授がよく言っておられる……〝魔王〟ですね」
「そのとおりだ。間違いない! あの〝魔王〟が、八王子ダンジョンにも現れたんだよ。これで三例目だ。宗谷ダンジョン、新宿ダンジョン、そして八王子ダンジョンだ。
……はははは。ダンジョンってやつは実に面白いねえ。こんな訳が分からない存在がいるなんてさ」
「それで、教授はどうされるつもりですか」
「もちろん〝魔王〟を探すに決まっているだろう! こんな面白い研究材料、他にないからね。くひひひひひ」
「ですが教授、未だ〝魔王〟の手がかりはおろか、魔力の痕跡も見つかっていないのですよね? こう言っては何ですが……〝魔王〟とは、本当に存在するのでしょうか? 例えば何かの偶然が重なって『〝魔王〟がいるかのように見えているだけ』と言う可能性は――」
「ない!」
「そ、即答ですか!?」
「さやっち。私はダンジョンをピクニックしているだけじゃないんだよ! 日夜、血が滲むような研究をしているんだ!」
「バニー衣装だとあまり説得力がありませんが?」
「これは魔導衣装! れっきとしたアイテムなの! ダンジョン攻略に必要なの!」
「ここはダンジョンの外ですが?」
「気に入ってるんだからいいでしょ! さやっちも着る? 他にもあるよ。さやっちのバニー姿、見たいなあ」
「論破されてるのを無視しないでください。……それで、即答できる根拠ってあるんですか?」
「まったく……秘書の割に学会の質問者みたいなこと言うじゃないか。心配はいらない。根拠はあるよ」
ナスターシャは試料をしまっている棚を開け、小瓶を取り出した。
「これは、何ですか?」
「新種の魔石を発見したんだ。その名も〝闇の魔石〟だ。ダンジョンで発見した異界の書物に曰わく、『魔王やその配下に宿る、忌まわしき力』だ。後は、この魔力の使い手を探すだけだ!」
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