魔王殺しのフリーター、覚醒し〝闇の力〟で現代ダンジョンを蹂躙す

七弦

文字の大きさ
26 / 54

25 謎のおっさん

しおりを挟む
井桐いきり通信 vol506
 先日の新宿ダンジョン事件以来、忙しい日が続いている。
 今日も講義の合間を縫って、ダンジョン攻略とメディア対応に追われていた。
 実に忙しい。そしてこの後はバイトが入っている。もっとも、少し特殊なバイトだが。……いずれメディアにも紹介されることになると思うから、皆気長に待っていてくれ』


「今から店長と打ち合わせをする。休憩室から出ていけ」
 国道沿いのホームセンター、クラフトマンの休憩室。
 今日も井桐いきりは元気にイキり倒す。
 ダンジョンであれだけ酷い目に遭ったのに、何一つ懲りていないようだ。
 それはそれで才能があるな、と弔木とむらぎは関心する。

「打ち合わせをするなら、会議室を使えばいいだろ。俺は休憩中だ」
「会議室はでいっぱいで使えないんだよ。だからお前が出ていけ」
「資材って何だよ」
「魔力ゼロのお前には関係ないだろうが、教えてやるよ」
 井桐いきりは鼻息を荒くして、弔木とむらぎに答えた。

「ダンジョンの魔導具アイテムだ」
「何でうちの店にそんなものがあるんだ」
「使うからに決まってるだろうが。ダンジョン不況の煽りを受けてクラフトマンは閉店するが、新たにダンジョン探索事業に乗り出すことになった。アイテムはその時に使うんだよ」

「そんな話を何でお前が知ってるんだ?」
「俺はダンジョン事業のアドバイザーとして任命されることになった。全て俺が取り仕切っている。俺はもはや、お前と同じ立場ではない! 本部の人間だぞ。弔木とむらぎ、口に気をつけろよ」

「そうか……」
「何だそのリアクションは。驚いて言葉もないようだな?」
「ああ、言葉もないよ。さすがは宿。俺には一生敵いそうもない」
「……っ!」

 弔木とむらぎの言葉に、井桐いきりは一瞬だけたじろぐ表情を見せる。
 新宿ダンジョンでの恐怖がフラッシュバックしているのかもしれない。

「だ……だったら俺の命令に従え。休憩室を出ていけ。魔力ゼロのザコが」
 弔木とむらぎの心は自分でも驚くほど静かだった。
 弔木とむらぎの中には、無限とも言えるほどの魔力が溢れている。
 その事実が弔木とむらぎに圧倒的な自信をもたらしているのだ。

「命令に従う。ちょうど休憩も終わる時間だ。出て行くよ」
「分かれば良いんだよ、分かれば」

 〝解除〟

 井桐いきりとすれ違いざまに、弔木とむらぎは自らの魔力を封じる〝静寂〟を解除した。
 直後、弔木とむらぎの全身から恐ろしく邪悪な〝闇の魔力〟が溢れだす。

 ドアを閉めた直後。
 休憩室から「ひぃいっ!」という情けない叫び声が聞こえてきた。
 井桐いきりの声だ。
 弔木とむらぎの魔力が引き金となり、新宿ダンジョンでの恐怖体験がフラッシュバックしたようだ。

 素知らぬ顔で弔木とむらぎは休憩室を後にする。
 チョロロロロ……という水漏れのような音は、聞こえないふりをしてやった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 弔木とむらぎは少しだけ凹んでいた。
 井桐いきりも大概だが、ああいう陰湿なことはやめてやろう。と思った。
 井桐いきりは「介護用品コーナー」で、ひっそりと大人用のオムツを買っていた。よほど失禁がショックだったのだろう。

「でもまさか、魔力を解放しただけで漏らすとはなあ。たまげたなあ……」

 気分を切り替えて、バイト明け。
 弔木とむらぎはクラフトマンのマンホールの前に立っていた。
「さあ探索探索……っと、その前に。〝封印〟! 〝隠蔽〟!」
 弔木とむらぎは魔力を操作し、マンホールに細工を施した。

 まずはゴブリンが内側から出てこないように〝封印〟。
 そして何も知らない一般人が外側からマンホールを開けないように、存在を〝隠蔽〟したのだ。
 これでダンジョンへの入口を知る者は弔木とむらぎだけとなった。

 またゴブリンが外に出てきたら、大変なことになってしまう。陰ながら善行を積み、弔木とむらぎはダンジョンに潜った。

「ギャァアアアッ!!」
 ゴブリンはまたも弔木とむらぎの前に血煙をあげて消滅する。
 ドロップアイテムがその都度出現するが、拾う気にはなれなかった。ゴブリンは無限に湧いてくるし、バックパックの容量も無限ではない。

 ダンジョンを探索して、分かったことが一つある。
 ダンジョンにいる魔物は〝レイルグラント〟で遭遇した魔物にそっくりだ。
 が、完全に同じものではなかった。

「……魔力で作られた、コピーっぽいんだよなあ」
 
 弔木とむらぎは、魔力の霧となったゴブリンを見て、一人つぶやいた。
 レイルグラントでは殺した魔物の死体が消えることはない。
 倒したモンスターからアイテムや魔石が出てくることもない。
 そして殲滅したゴブリン達は翌日には復活していた。
 まるで、リロードしたら敵が復活するゲームのようでもあった。

「とてつもなく強力な魔法使いか、神に近い存在の仕業なのかもしれないな。でも一体、どこの誰が……?」

 弔木とむらぎは、深く考えるのを止めた。
 考えたところで答えが出るはずがないのだ。

「それよりも、探索に集中するか」
 ゴブリンの巣穴を抜けて、ダンジョン本体へと向かう。
 ダンジョンの中はかなり広く、高さ百メートルほどの空間が広がっていた。
 中は神殿の石柱が無数に立っていて、所々に篝火が設置されていた。

 さながら「邪心を祀る神殿」とでもいったところか。
 篝火の付近には獣の頭骨を被ったオークが歩き回っていた。
 第一階層から、かなりのレベルの敵が配置されているようだ。

 弔木とむらぎは足音を殺しながら石像が居並ぶ細い道を進んだ。
 その時だった。
「丸腰でいくとか、死ぬつもりか?」
 と、石像の一つが弔木とむらぎに声をかけてきた。

「誰だ!?」
「静かに! 俺は人間だ。隠密石アイテムを使って、見つからないように潜んでるんだ。お前も静かに喋れよ」
 と石像は返事をする。
「お前もレベルは足りないけどダンジョンで金儲けしようってクチだな。……政府に見つかっていない、この野良ダンジョンで」

 隠密石アイテムを解除すると、全身黒ずくめの男が姿を現した。
 見るからに、怪しい男だった。
「なあ兄ちゃん。ちょっと交渉しないか?」
「交渉?」
「そうだ。交渉だ。見たところ兄ちゃん、探索者証を持っていないようだな。……実は俺も似たようなもんでな」

 男が弔木とむらぎに歩み寄る。
「悪いようにはしない。どうだ?」
 最悪、戦闘になったとしても負ける気はしない。
 弔木とむらぎは男との交渉に乗ることにした。
「いいだろう。とりあえずは話だけでも聞こうか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...