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🍀終章🍀

エピローグ『 The World / U 』

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 彼は運命のヒトとの出会いに憧れていた。
 子供の頃に絵本で見た王子様。
 彼らは囚われのお姫様を助けるべく、勇敢にドラゴンに立ち向かって行った。
 きっと、運命のヒトとはあの王子様たちのように、優しくて強いヒトなのだろう。
 彼はそう思っていた。

 そんな彼がお気に入りだった絵本の王子様は、オオカミ族の王子様だった。
 だからオオカミ族の男性に強く惹かれる事が多かった。

 だがそんな彼は運命に弄ばれ、とある悪いオオカミに騙され、酷く傷つけられてしまった。
 更にはその果てで、彼の心はどんどんと暗く深い闇へと堕ちてゆき、穢れてしまった。

 そしてそんな彼は、運命のヒトとの出会いへの憧れを捨て、オオカミを嫌うようになった。

 しかし、そんな彼をその暗闇から救い出したのは――。
 
 
― ロドンのキセキ-翠玉のケエス-芽吹篇❖エピローグ『The World/U』 ―
 
 
「姐さん゛……ッ、うっ……、めっちゃきれえっす……、う゛っ」
「ちょっとヤダみさと。折角綺麗にして貰ったんだから、汚さないでちょうだいよ?」
「へ、へいぃ……」
 美しい教会で誓い合う愛の言葉。
 祝福の鐘の音が鳴り響く美しい空。
 そんな青空の下、法雨みのりはミントグリーンの美しいドレスを映えさせ、オオカミ族の青年を窘めていた。
「――でも、まさか本当にこんなお姫様みたいなドレスを着られるとは思ってなかったわ。これも、あずまさんのおかげね」
 そうして、感極まって泣きじゃくる京をひとつ置き、隣で寄り添う雷を見上げ、法雨は微笑んだ。
「君の夢をまた一つ叶えられて良かったよ。――綺麗だよ、法雨さん」
 すると、そんな称賛の言葉にはにかむようにした法雨は礼を言う。
「ふふ、ありがとう。何度言われても照れるわね」
 そして雷は、そんな法雨にまた一つ愛おしげな笑みを浮かべて返す。
「それにしても、姫の分まで用意して貰っちゃって」
 そこで法雨は雷と笑みを交わした後、教会の外で友人たちと楽しそうにしている姫の方を見やった。
 そんな姫はその日、真っ白な三角耳とふんわりとした柔らかな尾を揺らがせ、その小柄で可愛らしい外見に見合う様なパーティドレスを身に纏っていた。
 彼はその真っ白な毛並みとオッドアイが特徴的な青年なのだが、そんな彼もまた、法雨と同じように女性ものの衣装をまとう事が好きだったのだ。
 そして今回はというと、雷のとある計らいがあって、そんな彼もまたドレスを着られる事になったのだった。
 ただ、彼は法雨とは違い、その立ち振る舞いは男性――というよりは少し可愛げのある少年のようにしている。そしてそんな彼のような男性を、今の世間では、“男の娘”などと称したりもするらしい。
「はは、あんなにキラキラした目を見てしまったらね。着せてあげたくもなるさ」
 実はそんな姫は、法雨の衣装合わせに同行していたのだ。
 そして、その際に法雨の姿を見て酷く目を輝かせていた。その為、それを見た雷が、ウェディングドレスは着せられないが、と、パーティー用のドレスを設えてやったというわけだった。
「ふふ、気持ちは分かるわ」
 そして、そんな法雨もまた、姫にはいくつか似合うであろうと服をプレゼントする事も多かったのだ。
 だから、そんな雷の気持ちも良く分かっていた。
「姫君も次はウェディングドレスだね」
「そうね。姫も早く幸せになってほしいわ」
「そうだね。姫君も……桔流きりゅう君も」
 そうして話している中、雷は先ほどから控え目にその場で佇んでいた桔流に顔を向け、不意にそう言った。
 すると桔流はぎくりとしたように顔をあげ、言った。
「わ、ちょっと雷さん。そこで俺にその話題振るのやめてくださいって……。カメラもスポットライトも、法雨さんと雷さん固定でお願いします」
「う~ん、桔流君もドレスか~」
「そうねぇ、タキシードも捨てがたいけどドレスもいいわねぇ」
 そうして桔流の反応が随分気に入ったのか、法雨と雷は二人そろってそんな事を言った。
 すると桔流は慌てたように言葉を返す。
「ちょ、ちょっと二人とも! 意地悪しないで下さい! そもそも俺はドレスとか着ませんからっ――っていうか別に結婚式とかは……」
「あ~ら。薬指にぴったりな指輪まで受け取っておいて何言ってるのかしら?」
「う……」
 そんな事実を掘り返され、桔流は言葉に詰まりながらも言った。
「ど……どっちにしても、ドレスは着ません……」
「あら――だそうよ? 花厳かざりさん?」
「あ、はは……じゃあいいタキシードを用意しておきます」
「なっ……花厳さん……ッ!? なんでこっちに……さっき姫たちの方いたじゃないですか……も、ほんとタイミング悪い!」
「ふふ、ごめんって」
 徐々に余裕を削られていった桔流は、その恋人である花厳の不意の登場でついに余裕が尽きてしまったらしく、その場でしゃがみこんでは顔を覆ってしまった。
「さすが花厳君。ナイスタイミングだね」
「あはは、そうだったみたいです」
 この花厳は以前、クリスマス当日に法雨にからかわれていたあのクロヒョウ族の彼だ。
 実はあのクリスマス以降、カウンター席の常連客である雷と花厳は店で遭遇する事も多く、ちょくちょくと会話もする事も増え、今ではすっかり友人同士のようになっていたのだった。
「も~ここに居るのなし! 花厳さんもあっち行きますよっ」
「はは、うん」
 そうして桔流に腕を引かれ、花厳が彼と共にその場を後にしたところで、
「ん~ドレスってやっぱ、後ろがセクシーだよねぇ~」
 という、のんびりとした声が聞こえた。
 それに気付き法雨が振り返ると、そこには菖蒲あやめの姿があった。
「相変らずそういうとこばっかね、アンタは」
「んふふ……良い本音は口にしないと損だからねぇ~」
「まったく」
 法雨はそう言って苦笑しながらも、嬉しそうにしていた。
 そして、そんな菖蒲に歩み寄り、その頬を手で包むようにして言った。
「ほら、菖蒲。アタシ、幸せになったわ。だから……次はアナタの番」
「………………」
 そして、法雨がそう言うと、菖蒲は少し驚いた様な顔をしてから、苦笑するように微笑んだ。
「もう……法雨。今は俺の事はおいといて、自分の幸せを堪能してよ……」
「ダメよ。アンタはそうやってすぐ逃げる。――アタシ、このままじゃまだ幸せになりきれないわ」
「……ぅん……わかったよ。こうして法雨が幸せになってくれたから、俺はそれでお腹いっぱいなんだけど……法雨がそう言うなら、法雨の幸せの為にそうするよ」
「それを言うなら胸いっぱいでしょ。まったく」
「ふふ……でも、やっぱり俺の勘は当たったでしょ」
「……はぁ、そうね」
 菖蒲はそう言うと、二人を見守るようにしていた雷に目を向けた。
 そして、雷がそんな菖蒲の言葉に不思議そうにしていると、菖蒲は続けた。
「俺、雷さんが王子様だって思ってたんです。――でも法雨、全然信じてくれなくて」
「はは、流石菖蒲さんですね。でも、俺はその王子様っぽさが欠けてるもので……」
「ふふ。でもそんな所がまたイイんですよ、雷さんは。――ね~法雨~」
「ちょっと、そこでアタシに話振らないでちょうだい」
「おや、そうだったのかい?」
「もう、雷さんっ」
「ははは」
 そうして菖蒲と雷にからかわれ、法雨は少し頬を膨らませるようにして雷をつんと嗜めた。
「さて、それじゃあ俺も王子様狩りするか~」
「ちょっとアンタ……アタシ別に王子様狩りに行ったわけじゃないんだけど?」
「え~? おうちに強引に連れ込んだ上に食べちゃったクセに~」
「だ、だからそれはそうじゃなくて――」
「さぁ~俺の王子様はどっこかな~」
 そうして、法雨の言葉が聞こえないかのようにそう言った菖蒲はその場から歩き出し、敬礼でもするかのように額に手を当て、参列者たちをわざとらしく見回しながらその場から離れて行った。
「まったくもう……」
 そしてそんな菖蒲の後ろ姿を見届けた法雨は、呆れたような溜め息をついた。
 そんな法雨にまた楽しそうに笑った雷は言った。
「菖蒲さんも……早く運命のヒトと出会えると良いね」
「……えぇ、そうね」
 そうして、その雷の言葉に微笑むようにした法雨は、その場を改めて見回すようにして言った。
「……本当に、何から何まで幸せでいっぱい」
 そんな法雨の言葉に、雷はまた優しく微笑む。
「そう言って貰えて俺も幸せだよ」
 そして、そう言った雷にそっと肩を抱かれた法雨は、また幸せそうな笑みを返して言った。
「ふふ、これからも、末永くよろしくね。雷さん」
 すると、そんな法雨を愛おしげに見た雷は、また言葉を返す。
「こちらこそ。末永くよろしく。法雨さん」
 そして二人はそこで微笑み合い、その身を寄せ合うようにして、そのかけがえのない大きな幸せを、強く強く抱きしめたのだった――。
 
 
 
 彼は、運命のヒトとの出会いに酷く憧れていました。

 そんな彼は、オオカミの王子様が大好きでした。
 だから彼は、オオカミに沢山の恋をしたのです。

 しかし、そうして恋をし続けた彼はある日、悪いオオカミに酷く傷つけられ、暗く冷たい闇にその心を囚われてしまい、オオカミを嫌うようになってしまいました。

 しかしその物語の中で、彼を暗闇から救ったのは、勇敢で酷く優しいオオカミだったのです。

 そのオオカミは、彼を救うと、優しく優しく声を掛けました。
 例え、どんなに彼に冷たい言葉を返されても、彼に優しく接しました。
 しかし、それでも彼はそんなオオカミに冷たく接し続けたのです。

――どうしてそんなに優しくするんだろう

 彼は、そのオオカミと一度別れた後も、それが不思議でなりませんでした。
 しかし、その答えは最後まで彼には見つけられませんでした。

 ですが、それもそのはずです。
 なぜならそのオオカミすらも、その理由を分かっていなかったのですから。

 だから、彼もオオカミも長い時間、その恋心に気付けなかったのでした。

 実はもう、彼らは出会ったその瞬間に、お互いに恋に落ちていたというのに――。 










 
fin.
 
 
 
 
===後書===
 
 
 

この度は本作品に最後までお付き合い頂き誠に有難うございました。
読者様へは、心よりの御礼を申し上げます。

この先は本編読了後の方へ向けた付録となっております。
そして以下には読了御礼のイラストを添えております。

もし宜しければ、本編のシメとしてお楽しみください。


また、いつもどおりの余談ではございますが
執筆活動におきましては、皆様のお気に入りやご感想、アンケへのご協力などが活動の励みになります。
もしお気に召して頂けましたら、是非宜しくお願いいたします。

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それでは、こちらまでご覧頂きました方々、本当に有難うございました。
今後も精進してまいりますので、これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


SJ-KK Presents
偲 醇壱/化景 吉猫






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