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♦️『OutCast:龍攘戌搏奇』♦️本編♦️
Phase.005『 龍神慶歌と強者の仲間 』
しおりを挟む次郎・太郎が龍神の異変に気付いた頃。
龍神――慶歌の身を囲う八方には、大きな横型ディスプレイを思わせる長方形のホログラムが出現していた。
八方それぞれに表示されたホログラムディスプレイには、仁本語のメッセージが表示されている。
[光酉は、強いのか?]
「わぁお~ナニコレ~」
ー Phase.005『 龍神慶歌と強者の仲間 』ー
次郎・太郎と同じく、燈哉・春丞も自身らが待機するベンチから龍神周辺に出現したホログラムを視認していた。
指示を仰ぐため、燈哉が無線を通じて本部に問う。
「あの~、なんか、すっげぇRPG感溢れるメッセージウィンドウみたいなホログラム出てるんすケド……」
「完全にゲーム仕様……」
その燈哉の隣で、春丞は呟くようにして言った。
燈哉は続ける。
「てか、春摩博士さ~。龍神は人間とも問題なく対話できるって言ってたけど。まさかアレが龍神の対話方法なワケ?」
『えっ、は、はい』
春摩が困惑したように言うと、燈哉はやや不満げに言った。
「“はい”って……、――声くらい与えてやんないの? あんな高度なプログラムなのに対話は文字のみって、流石に不便でしょ」
すると、燈哉の意を解した春摩は慌てるようにして言った。
『あぁ! ち、違うんです! その、もちろん声は与えるつもりだったんです! ただ、声を決める段階になって、皆でいくら試作しても彼にぴったりの声が作れなくて……』
『こだわり激つよ』
春摩の言葉に本部組の凪が呟くと、京香は大きく頷きながら言った。
『うむうむ。声も大切な彼の一部だからなぁ。悩むのも当然だ』
すると、京香の言葉に春摩は何度も頷いた。
『そう! そうなんです……! ですから、どうしても妥協できなくて……』
『愛ですねぇ』
春摩の言葉に微笑むと、同じく本部組の聡が言った。
『愛ですね~』
『『愛だねぇ』』
そして、その聡に続いたのは、異能隊所属の研究員――水色の髪をショートに整えた美子と、凪・美子のバディ兼護衛を務める緑髪糸目の双子――ウラル、シャンドである。
しかし凪は、そんな彼らとは意見が違っていた。
『え~。でも、こだわり過ぎていつまでも声もらえないのも、ちょっとなぁって思う~』
『同意見』
その場に居た淳も、凪に賛同した。
実のところ、凪の意見ももっともであると感じていた春摩は、再び落ち込んだ。
『う……』
しかし、光酉からの通信により、春摩の悲壮シーンは場面転換を迎えた。
『ちょっと~? 声の話はいいから、コッチの対応教えてちょ~だ~い』
「――コレ、どういう意味~? 展開進まなくて困ってるんだケド~」
『はっ、す、すみません!! え、ええと』
光酉ら交渉組と慶歌の間には、先ほどのメッセージが表示されたままのホログラムディスプレイが佇んでいる。
そのホログラム上のメッセージを改めて確認した春摩は、やや早口で説明する。
『お、恐らく慶歌は、薬王樹さんの出で立ちや、慶歌がアクセスできる限りのデータから、薬王樹さんの戦闘能力に興味をもったのだと思います! 慶歌は、どちらかといえば男の子らしい性格なので、強い人にも興味を持ちやすいんです!』
「えええ~?」
春摩が語る予想外の見解に、薬王樹光酉は困惑した。
『慶歌はいつも、僕らのような軟弱者ばかりを相手にしているので、薬王樹さんのような、まさに強者という出で立ちの方に出会えて嬉しいのではと……。――なので、薬王樹さんは、メッセージに正直に答えてあげてみてください!』
「正直にネェ……」
『はい。今は帰るのが惜しくてしぶっていますが、薬王樹さんなら、慶歌も“お父さんに言われた気分になって”、家に帰る気になってくれるかもしれません!』
「いやいや、お父さんって……。まぁ、ソレらしい歳ではありますけれどもォ」
春摩の言葉に複雑な心境になった光酉が迷っていると、京香が真剣な声色で言った。
『そうか、そうか……。――では、光酉よ。すまないが、ここはしばしヤンチャな仔龍神のお父上になってやってくれ……』
「えぇ、ちょっと隊長――」
その京香の悪戯に光酉が言葉を返そうとすると、通信を通じてベンチ待機組の燈哉が言った。
『……っ。――そうっすね。光酉パパ。頼みますわ』
非常に強い絆で結ばれた異能隊の心はいつでもひとつ。
燈哉の通信を皮切りに、その絆の強さを見せつけるかのように凪が言った。
『トリパパぁ~頑張ってぇ~』
さらに、ウラル・シャンド双子も声を揃えて絆の連携を見せつけてゆく。
『『トリパパ~』』
『ふッ……――トリ……ッ……パパ……ッ』
最後に、声の震えを抑えられなかった春丞が絆の強さを見せつけ損ねたところで、光酉が言った。
「や~うるさいうるさい。分かったからもうヤメヤメ。あと、笑ってんじゃないヨ、春丞」
光酉は一気にそう言うと、溜め息を吐いた。
「――まったく」
「ふふ。龍神のパパなんてスゴいじゃない? 光酉」
「も~菜ッちゃんまでやめてくだサ~イ。――まぁいいや。とりあえず答えてやるか」
片手をひらひらと振り菜月に降参の意を示すと、光酉は慶歌に向き直り言った。
「え~と、“俺が強いか”――って? あぁ、強いよ? 俺の実績、見たんでしょ? 俺の実力は、そのデータの通りだよ」
すると、慶歌は新しいメッセージを表示した。
[では、次郎と太郎も、光酉と同じくらい強いか?]
「え? 次郎と太郎?」
[あそこのベンチに座っている2人だ]
光酉が問うと、慶歌は、一見して“誰も座っていないように見える”ベンチの方向に顔を向けた。
慶歌が出現させた八方のディスプレイそれぞれには、同じメッセージが表示されるようになっていた。
そのため、次郎、太郎をはじめ、他の待機組の全員も、慶歌のメッセージを確認する事ができた。
「まぁ、バレてはいるよな」
「この程度の迷彩は、見破れるだろうからね」
次郎・太郎は、確かに自分たちを認識しているらしい龍神と視線を交わした。
光酉は、次郎・太郎が待機しているのであろうベンチを見やりながら言った。
「まぁ、あの二人も強いよ。もちろん」
すると、慶歌はさらにメッセージを転じてゆく。
[他には? 光酉には、次郎や太郎のように、強い仲間がたくさんいるか?]
「ん? まぁ、いるけど……――っていうかお前サン。俺の公開データ見たんでしょ? なら、他のメンバーについても、異能隊の公開データ見れば、俺に訊かなくても分かると思うけど」
[データで分からない事はたくさんある。たとえ、素晴らしい実績データがあっても、その功績は環境や状況、仲間のおかげで得た功績である場合もあるだろう。だから、その者の強さは、仲間からの評価や実際に視認した光景からでなければ分からない、と、慶歌は考えている]
「ハハァ。お前サン、賢いコだネェ」
光酉は感心した様子で腕を組む。
「――確かに、確かに。その考え方は、俺も間違ってないと思うよ」
光酉に褒められると、慶歌は嬉しそうに鳴いた。
[光酉にそう言ってもらえると嬉しい。ありがとう]
「いいえ~。――で? 話戻すけど。俺に、次郎や太郎と同じくらい強い仲間がたくさんいたら、どうすんの?」
[うむ。実は、慶歌は光酉に頼み事をしたいのだ]
「頼み事?」
光酉が首を傾げると、慶歌はふんと息を吐き、やんわりと頷いた。
[光酉。光酉の強い仲間を12人集めてほしい。慶歌は、光酉の強い仲間たちと戦いごっこがしたいのだ。慶歌と戦いごっこをしてくれたら、慶歌は家に帰る]
「……え?」
“戦いごっこ”という単語を目にし、光酉は慶歌の顔を見た。
その状況を受け、無線を通じて次郎が問う。
『おい、どういう事だ。攻撃性はないんじゃなかったのか』
春摩は慌てて応答した。
『も、もちろん攻撃性はありません! ただ……』
次郎はそこで敢えて黙し、春摩に続きを促した。
『――その、慶歌も一応は男の子なので、“戦い”というモノには憧れていたみたいなんです……。なので、ラボでも慶歌が望んだ際には、バトルシミュレーションのようなものを度々実行していて……』
その春摩の回答に、次郎の隣で太郎が言った。
「まぁ男の子だもんねぇ。仕方ないない」
また、太郎の声など聞こえていないはずの春丞も、太郎に続くようなタイミングで言った。
「強いもんには憧れるもんなぁ……」
そして、春摩の回答を受けた光酉は、
「イヤイヤ。だからって俺らと戦わなくてもサァ」
と言って頭を掻いた。
すると、慶歌は首を傾げ、鳴き声の末尾に疑問符を付けたようなアクセントでクルルル――と鳴き、メッセージを転じた。
[光酉は戦わなくて良いぞ?]
「え?」
メッセージを見た光酉は、やや目を見開くようにして慶歌を見た。
慶歌はメッセージを転じる。
[瑠璃は、いつも光酉と一緒にいたいはずだ。きっと今もそうだ。だから、光酉は瑠璃と一緒にいてくれたらいい。菜月も炬も、シズルとマリウスと一緒にいた方がいい。だから慶歌は、別の仲間と戦いごっこがしたい]
「あら、優し」
慶歌の気配りに光酉が感心していると、再び無線を通じて次郎が言った。
『――って事は、つまり』
『俺とじろちゃんと、あと十人か』
次郎の意を引き継ぎ、太郎が言うと、燈哉・春丞、燐・ルシが続いた。
『なるほど~? ――じゃあ、あとは俺と?』
『燈哉が出るなら俺もだな~』
『それじゃ。人数もまだ足りねぇし、俺らもだな』
『分かった』
さらに、渚咲・陽翔も続く。
『俺も俺も~! 俺も出る~!』
『――となると、俺もか。面倒だが仕方ねぇな』
そんな彼らに続き、本部組の聡・淳が言った。
「僕は、彼の云う“強い仲間”ではないけれど、――久々に体を動かそうかなぁ。慶歌君にも興味があるし」
「聡さんが出るなら俺も行く」
次いで、凪が自身の護衛を務める双子――ウラル・シャンドに尋ねる。
「二人は?」
「「面白そうだし行ってくる」」
「わお。息ぴったり」
「ふふ。気をつけてね」
双子が護衛するもう一人のバディ――研究員の美子がそう言うと、ウラル・シャンドは同時にこくこくと頷いた。
そこで、人数を数えていたらしい燈哉が言った。
『あ、これで十二人だけど、瑩さんたちは?』
すると、本部側で静観していた瑩は穏やかに笑った。
「あはは、お気になさらず。僕たちは皆の勇姿を見学させてもらうよ」
そんな瑩に続き、バディの雪ものっそりと頷いた。
「そういう事で」
瑩・雪の応答を受けると、燈哉は次いで京香に言った。
『――じゃあ、隊長。これで人数は揃ったわけっスけど……』
「うむ! では早速、戦いごっこを始めよう! ――と、言いたいところだが……、市街で戦いごっこをするのは頂けんからな。――龍神との戦いごっこは、こちらの地下訓練場で行うのが良いだろう」
『確かに。あそこなら広くて動きやすいですからね。――了解です』
そうして燈哉が通信を終えると、京香は次いで春摩に尋ねる。
「――地下訓練場は、この本部内でも比較的広く大きな訓練場だ。市民に迷惑がかかる事もないゆえ、心置きなく戦いごっこが可能だろうが。――春摩博士はそれで構わないかな?」
「は、はい! 大丈夫、ですが……あの……」
「ん? 何か問題が?」
京香は首を傾げる。
春摩は、不安げな面持ちで言った。
「あぁいえ、その、もちろん慶歌も殺し合いをする気はないてすが……、――ただ、慶歌の戦いごっこは、人間からすれば実戦に近い本格的なシミュレーション訓練のようなものです。――ですので……万が一、皆さんが怪我をするような事があったらと……」
「おぉ。なるほど、なるほど。そういう事であったか」
「は、はい。ですから……いくら慶歌の頼みと言っても、無理にとは――」
春摩が言うと、京香は笑った。
「ははは。ご心配頂き感謝する。だが、案ずるな春摩博士。――博士の御子息の“見る目”は確かだ」
「え?」
春摩が不思議そうにすると、京香は両手を腰に当て、自信に満ちた笑みを浮かべて言った。
「博士の御子息同様。我が隊の家族たちも、大いに賢く、大いに、――強いのだ」
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