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♦️『OutCast:龍攘戌搏奇』♦️本編♦️

Phase.004『 龍神慶歌と巫女と女神 』

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「まさか、マジで即ご降臨しちゃうとはネェ」
 異能対本部で行われた作戦会議の結果。
 龍神の生みの親――春摩しゅんま博士の提案により、“神秘的な美少女を思わせる”容姿を誇る戦闘員――瑠璃るり、シズル、マリウスは、いにしえより仁本にほんの神事に携わる女性たちが纏ってきた、巫女の衣装を着用する運びとなった。
 また、龍神の交渉は、本部近くの公園内にある大きな広場で行うため、公園全体には一時的な立ち入り規制を実施。
 その上で、巫女衣装を纏った三人と彼らのバディを、共に広場中央付近に配置。
 さらに、万が一に備え、広場の四方を囲むように設置された各ベンチには、先ほどの会議に出席していなかった戦闘員――だいだいの後ろ髪を太い三つ編みした陽翔はるとと、濃いピンク髪をもつ渚咲なぎさペアを含め、次郎じろう太郎たろう燈哉とうや春丞しゅんすけりん・ルシの四組、――計八名を配備。
 そして、龍神を刺激せぬよう、各ベンチにはその一帯を囲うようにして、迷彩ステルス機能を備えたシールドが設置された。
 そのほか、本部に残った他のメンバーは、迷彩機能を搭載した小型ドローンを通じて状況確認を行いながら、分析、指示を行う事となった。
 そして、今。
 部隊員や研究所員たちの瞳には、龍神――慶歌けいかの姿がはっきりと映っている。
「――いやぁ~、思い切って巫女服着た甲斐があったネェ? 神秘の美少年たち」
 慶歌を見上げながら光酉みつとりが言うと、光酉よりも大いに背の低い巫女たち――瑠璃、シズル、マリウスも慶歌を見上げながら口々に言った。
「わぁ……おっきい」
「ほんとにおっきぃ」
「すっごくおっきいですねぇ~!」
「「「………………」」」
 そして、各パートナー達は静かに動揺し、黙した。
 愛する者から発される“おっきぃ”の破壊力は、いつだって強大なのである。
 光酉、菜月なつきかがりは、つい湧き上がった邪念をやんわりはらい、任務の遂行に戻った――。
 
 
 ー Phase.004『 龍神慶歌と巫女と女神 』ー
 
 
「それじゃ、菜ッちゃん、炬ちゃん。予定通りで問題なさそうだし、攻撃役は俺に任せてもらっていいよン」
「分かったわ。――じゃあ、アタシと三人は交渉に専念するから、炬、連絡役よろしくね?」
「はい!」
 万が一に備え、光酉が全員の前に出て慶歌と向き合ったところで、炬が本部との通信を開始する。
「――隊長。予定通り、龍神が現れました。視認できていますか」
『おお~! よく見えているぞ~! 本当にでっかいなぁ! 美しくて良い良い~!』
 炬に対し嬉しそうな声色で応答すると、京香きょうかは満足した様子で続けた。
『――さて、では、春摩博士の出番だな。頼んだぞ』
『は、はい!!』
 本部の隊員たちと共に慶歌の出現を見守っていた春摩は、緊張した様子で京香に応じた。
 本任務中の本部との通信は、公園側の交渉組、待機組にもすべて共有されている。
 そのため、各隊員たちも京香の言葉でしばし気を引き締めると、春摩の言葉を待った。
『――ええっと、改めてですが、慶歌は絶対に攻撃をする事はありません。噛みついたりもしません。なので、まずはお三方のどなたでも大丈夫ですから、慶歌に向かって両手を広げて“おいで”――と、声をかけてあげてください。そうすれば、慶歌がすぐに頭を下げてくれるので、そのままなでなでしてあげてもらえれば、慶歌もその場で落ち着いて、交渉もしやすくなるかと――』
「な、なでなで……ですか……」
「なんのオプションサービスなのヨ……」
「欲望が詰まってるわね……」
 春摩の言葉に、現場の炬、光酉、菜月が順に感想を漏らすと、本部側のもう一人がそれに続いた。
『それ、アンタが見たいだけなんじゃないの?』
 そう言ったのは、異能隊所属の研究員――明るい紫髪を大雑把に切り揃えたなぎだ。
 彼もさとると同じく、異能隊が誇る優秀な科学者の一人である。
『ま、まさか! 違います! もちろん羨ましい気持ちはありますが! 冗談ではなく真剣に言っています!』
 その凪の言葉に胸を張るようにして応じた春摩に、全部隊員が、
(羨ましくはあるんだな……)
 と、心を一つにした頃。
 光酉が溜め息を吐いた。
「まぁ、分かったヨ。じゃあ、とりあえず言った通りにやってみるケド。――ちょっとでも噛みついたら博士、お前サンもタダじゃおかねぇからな」
 光酉が誰に向けるでもない鋭い眼光で空を射ると、光酉の様子を感じ取ったのか、春摩は真剣な声色で言った。
『だ、大丈夫です!! 敵意を向けていない相手を攻撃するような事は、絶対にありません!!』
「……そ。分かったヨ」
 光酉は、春摩の言葉に短く息を吐くと、次に巫女たちに向き直り言った。
「――それじゃあ~三人の中で~、龍ちゃんナデナデしたいコいるかナ~?」
 すると、三人の巫女はそれぞれ同時に、
「「「は~い」」」
 と、言いながら片手を挙げた。
「アラ意外。みんなナデナデしたいのね」
「オッケ~。じゃ、さっき言われた通り~、まずは、龍チャンに向かって両手を広げて~“おいで~”って言ってみようネ~」
 そんな光酉の言葉に、巫女たちは再び片手を挙げ、
「「「は~い」」」
 と、素直なお返事をした。
 そして、そんな交渉組のやり取りを見守らなければならないせいで、ベンチ待機組の緊張感が絶妙に緩み始めた頃。
 龍神を呼び寄せる事に成功した巫女たちは、ついに、
「「「おいで~」」」
 という掛け声と共に、龍神との交渉を開始した。
 そして、巫女たちが指示通りの儀式を行うと、龍神――慶歌はすぐに反応を示した。
「ヤダ。本当に頭下げたわ」
「まァ、可愛いは正義だからネェ」
「……」
「羨ましそうね。炬」
「えぇっ!? そ、そんな事ないですよ!!」
「嘘が吐けないオトコのコだネェ。炬ちゃん」
「ち、違います違います!」
「よ~し、それじゃあ次は、龍チャンをヨシヨシナデナデしてあげてネ~」
 炬の訴えをさらりと流した光酉は、巫女たちに次の指示を行う。
 巫女たちは、光酉の指示に従い、
「「「よしよし~」」」
 と言いながら、龍神の額や顎下、鼻先を優しく撫でてやった。
 すると、心からご満悦といった様子の龍神は、心地よさそうにしながらその場に身を落ち着かせた。
 炬は、その様子を固唾を呑んで見守る。
 光酉、菜月は、そんな炬を半目がちに見やった。
 その頃。
『……な……なんて素晴らしい光景なんだ……ううっ』
 春摩と同志たちは涙していた。
 そして、部隊員の一部は優しく微笑み、一部は無表情となり、残りは眉間にしわを寄せた。
「――で? 龍チャン、すっかり落ち着いたけど。こっからどうすんの?」
 その後。
 頃合いを見た光酉が春摩に尋ねると、春摩は白衣の袖で目元を拭いながら言った。
『あ、はい! えっと、――皆が心配しているから、そろそろ家に帰るよう、慶歌に伝えて頂ければ』
「それは、三人の誰かが言えばいいワケ?」
『はぃ……あ、いえ! ここは、偉い女神様のような雰囲気の白桃しらももさんの方が効果的かもしれません!』
「アイドルイベントのリクエストコーナーじゃないのヨ。ココは」
「ま、仕方ないわよ。適任者がここに居てしまったんですもの」
 “偉い女神様を思わせる”容姿を誇る白桃菜月は満足気にそう言うと、慶歌の前に歩み出た。
「――で? アンタたちが心配してるから家に帰んなさいって言えばいいのかしら?」
『は、はい! それで構いません!』
「分かったわ」
 儀式の手順を確認すると、菜月は腰に両手を当て、慶歌に優しく言った。
「ほら、もう満足したでしょう。龍神さん? そろそろお家に帰る時間よ? ラボの皆が心配してるわ」
 すると、慶歌はしょんぼりとした様子で、海中を伝うクジラの鳴き声のような音で悲しげに鳴いた。
 その様子はまさに、母に優しくさとされる幼子のようであった。
「アラアラ、落ち込んじゃって。――まぁ、寂しいのは分かるけれどねぇ」
 誰が見ても分かるであろう慶歌のその落ち込み様に苦笑した菜月は、彼を優しく撫でてやる。
『ううぅ……』
 その光景に感動したのか、本部の春摩研究所員たちは頬に熱い雫を伝わせた。
 
「――俺ら……何見させられてんだ……」
 その流れに思わず、一通りの出来事を静観させられていたベンチ待機組の次郎が言った。
 しかし、そんな次郎の言葉は、本部や交渉組に届く事はない。
 今回の任務における待機組の声は、必要時以外には無線に乗らないのである。
「龍と神々のファンイベじゃない?」
 そのため、次郎の言葉に応えたのは、次郎の隣に居る太郎であった。
「そういうのは、ファンだけでやってもらいてぇもんだな」
「ほら、俺ら付き添いだから」
「付き添いに何人巻き込んでんだよ」
 次郎が溜め息混じりにそう言うと、
「あ」
 と、言い不意に軍用デバイスを取り出した太郎は、ホログラム型の小さいディスプレイを表示させると、そのままカメラ機能を起動した。
「せっかくだから記念に」
「撮ンな」
 呑気な太郎に次郎が呆れていると、ズーム撮影をしようとしていたらしい太郎が首を傾げた。
「あれ?」
「あ?」
 太郎の様子に次郎が片眉を上げると、手元のディスプレイを見つめたまま太郎が言った。
「なんか、――ウィンドウ出てる」
「は?」
 
 
 
 
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