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第六話『 人 』 - 06 /06

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 宮下みやしたが発見されてから数日経ったとある日の夜。
 禰琥壱は、恵夢めぐむから宮下についての報告を受けていた。
 恵夢の話によればまず、宮下はあれからすぐに目を覚ましたが、外傷共に脳や内臓に関しても問題はなく、当初の見解通り、軽い熱中症と栄養失調が併発しているだけであったらしい。
 また日常生活における支障もないらしいのだが、彼は、彼が失踪した夜からこれまでの間の記憶がないとの事だった。
 もちろんのこと、家族や友人、そして自身のこれまでの生い立ちなども全て覚えているようなのだが、自身が失踪に至った理由や、なぜあのような場所に居たのかは一切わからないのだという。
 医者によれば、一時的なショックから記憶が失われている可能性もあるという事で、欠けている部分の記憶については、徐々に日常生活を送りながら様子見をしていくのが良いだろうという事になったのだそうだ。
「なるほどね。――でも、彼が無事なようで本当に良かったよ。ちょうど夏休みだし、心身共に療養しやすいだろう」
『そうですね。――あ、そういえばあっちの方はどうなりました?』
「あぁ、あれはまだ調べて貰ってる最中らしくてね。――分かったら向こうから教えてくれる事になってるよ。――それでその後、残りはすべて夏目なつめの方にお任せしたよ」
『わかりました。――じゃあ、それはまたわかったら教えて貰ってもいいですか?――すいません、また世話になってしまって』
「はは、いいよ。恵夢君も報告ありがとう、お疲れ様。あんまり無理しないようにね」
『はい。ありがとうございます。どうか先生も』
「うん、ありがとう」
『はい。夜分すいませんでした。それじゃ、また。おやすみなさい』
「うん。おやすみ」
 禰琥壱は恵夢の方から通話が切られるのを待ち、通話終了の表示を確認した後、ゆっくりとスマートフォンをテーブルに置いた。
 そして、少しよれ始めた煙草のケースを揺らし、我先にと頭を出した内の一本を咥え、火を点けてやる。
 すると、満足そうに煙を放ち始めた煙草がジリと音を立てる。
 禰琥壱はその音を耳に馴染ませ、そのまま天井を見上げた。
 夜風を招く為に少しだけ開けておいた窓から、心地よい風が入り込み、禰琥壱の頬をそっとかすめ、煙を揺らしては去ってゆく。
 禰琥壱は先ほど、恵夢からの連絡を受ける前に、ある時期から友人と言えるほどに親しくなった刑事、夜桜よざくらからとある報告を受けていた。
 その報告の内容は、彼に託していたある物のDNA鑑定の結果だ。
 本来ならば、先ほど恵夢に訊かれた際に伝えなければならなかったものでもある。
 だが、禰琥壱はあえて恵夢の問いに嘘をつき、伝える時期を延期したのだった。
「まったく、困ったもんだねぇ……」
 大きな溜め息でも吐くかのように天井に向かって煙を吐いた禰琥壱は、誰ともなしにそう呟いた。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
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