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第四話『 情 』 - 04 /07

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「はい。――あの、そんな風に話題になったせいで、僕のクラスでもその話をする人がたくさん居るんですけど……――実は、教室の中でそのウワサ話が始まると、凄く気分が悪くなるんです。――最近では、その度に寒気や頭痛も感じるようになって来ていて、酷い時は、教室に居られないくらいになった事もありました……」
 すると、そんな梓颯の話を聞いた禰琥壱と綺刀は、そこで少し考えるようにする。
 そんな二人に対し、梓颯は更に情報を添える。
「でも、彰悟が居てくれた時だけは大丈夫だったんです」
「そうなのか?」
 その梓颯の言葉を受け、綺刀は次に彰悟に問うた。
 彰悟が背を正すようにして答える。
「はい、そうみたいです。――それと、俺は何ともなかったんですが、コッチがすげぇ機嫌悪くなって、宥めるのが面倒くさかったです」
 彰悟は、“コッチ”と言って、自分の胸元をトントンと指で突くようにして示す。
 これは、憑物憑きの血筋の人間がよくする行動で、自分の体に宿る憑神などを示す際には、度々このような行動をとる。
 彼らの感覚としては、心と同じく心臓部分に彼らが宿っているような感覚らしい。
 そんな彰悟に宿る犬神が、彰悟がそのエンマ様のウワサ話が聞こえる位置に居たところ、大いに機嫌を損ねたという事だった。
 その事からわかるのは、その空間には少なからず彰悟や梓颯の身に害を成す"見えざる者の負の力"が存在していたという事だ。
 だからこそ、出所もよくわからないエンマ様とかいう神の存在は信じないが、それをきっかけに、何かよからぬものが発生しているのでは、と梓颯は考えたのだった。
 そしてその原因について何かわかればと、こうして禰琥壱に相談をもちかけたのであった。
「なるほどねぇ。――因みに、そのエンマ様について、他に何か情報はあるかい?」
 梓颯は、そんな禰琥壱に問いに、更に情報を提示する。
「あ、はい。実はそのエンマ様はとあるほこらに住んでいるらしくて――その祠っていうのが、心霊スポットになっている都内の廃墟のすぐ近くにあるらしいんです。――それで、その廃墟の写真がとあるサイトに載ってるんですけど、――エンマ様のそのウワサ話も、実はそのサイトが発端らしくて」
「“祠”ねぇ――」
「はい。――でも、そのサイトには、“その祠の写真を撮ったりすると、エンマ様を冒涜した事になり、エンマ様から罰が下る”といった事が書いてあって、祠の写真も、サイト自体には載ってないんです。――ただ、そこに載っている、祠の近くの廃墟内の写真も、なんだかんだ心霊写真らしくて、――それもあって、皆が余計に盛り上がってしまっているというか……」
「ふぅん。――なぁ、そのサイトのアドレスって今わかるか?」
 先ほどまでは非常に胡散臭そうにしていた綺刀だったが、何かしら引っかかるところがあったらしい様子で梓颯に問う。
「あ、はい!」
 すると、梓颯はすぐにそう答え、スマートフォンを開いてはクラスメイトから送られてきたらしいとあるメッセージを見せた。
 綺刀は、そのメッセージを見るなり軽く眉間に皺を寄せたが、その後、黙したままノートパソコンでそのアドレスを打ち込み、サイトを表示させた。
「これか。――つか梓颯さ、そのメッセージ何なんだ? 友達から来るようなメッセージじゃなくね」
 そうして綺刀がサイトを表示させた後、少し不快そうな表情で梓颯に言った。
 すると、梓颯もまた表情を曇らせて言った。
「はい、そうなんです。――実は、これも少し前にクラスで回ってた物で……僕も、色んな友達からこのメッセージが来て困ってました。――一応、このメッセージ自体は、最近やっとおさまりましたけど……」
「なんだい?」
「あ、これです」
 そんな二人のやりとりが気になったのか、禰琥壱はやんわりと梓颯に問うた。
 そして、梓颯が相変らずの顔で禰琥壱にスマートフォンを渡すと、禰琥壱はおや、と言って興味深げにメッセージを眺めては続けた。
「へぇ、懐かしいなぁ。――そうかぁ、今はメールじゃなくて、SNSやメッセージアプリでこういうのが回されるんだねぇ」
「え?」
 そんな禰琥壱の反応に梓颯が首を傾げると、禰琥壱は言った。
「あぁいや、そんなに昔でもないけど、――前はね、こういう――このメールを何人に回さないとあなたに不幸が訪れる――といったようなものが、Eメールで流行ってたんだよ。――でも今は皆、ビジネスや必要がない限りはSNSやアプリを使うから、このメッセージもこのアプリを通して発信したんだなと思ってね」
「そうなんですね……。――僕、こういうの貰ったの初めてだったので驚きました……」
 そうして少し落ち込むようにした梓颯に対し、禰琥壱は苦笑して続ける。
「Eメールで回ってた時代も、もっと前の、手書きの手紙で回ってた時代も、初めて貰った人は皆そう言っていたよ。――また、こういったものは、不幸の手紙、幸福の手紙、なんて呼ばれていたりしてね。もっと枠を広げると、チェーンメールとも呼ばれているけど、――この手のものはネットで検索すれば山ほど情報が出てくるよ」
「そ、そんなに昔からあるものだったんですね」
「うん」
 禰琥壱の話を聞き、そんな迷惑なものが昔からあるのか、と梓颯は思った。
 どんな意図があってこんな事をするのか、その理由はきっと理解できない物だろうが、いずれは絶えてほしいものだ。
 そんな梓颯はふと、先ほどのサイトを見ているのであろう綺刀を見た。
 すると綺刀は、相変らず眉間に皺を寄せたまま画面と向き合っていた。
「どうだい? 面白い?」
 そんな綺刀に、禰琥壱が悪戯っぽく問うた。
「面白そうに見えるぅ?」
 すると綺刀は、そんな禰琥壱の肩に、頭を軽く載せるようにして言った。
 禰琥壱は、そんな綺刀に対し、楽しそうにそう答えた。
「とっても」
 そうして綺刀の隣から画面を覗き込んだ禰琥壱に、綺刀は大きな溜め息を吐いた。
「はぁ~……」
 そして、そんな綺刀に代わり、そのサイトをざっと眺めた禰琥壱は、例の4枚の写真を妙にじっくりと眺めながら話を続ける。
「このサイトが話題になったのはつまり、さっきのメッセージが原因なのかな」
 禰琥壱の言葉に、梓颯は頷く。
「多分そうだと思います。このメッセージは、僕らの学校でそのサイトの話題が出始めてから回り出したみたいで、――このアドレスをクリックしてサイトを見た後、5人以上にこのメッセージを回さないとエンマ様の罰が下り、不幸が訪れるだろう――なんて書いてあるせいで、怪我人や病人が出て以来、皆、友達だろうが先輩だろうが遠慮なく色んな人にこのメッセージを回し出したんです」
「うぅん、そうか……それは困ったもんだねぇ」
「はい……」
 禰琥壱と綺刀が眺めるそのサイトは、アクセスするとすぐにとあるブログの記事が表示されるようになっていた。
 そしてその記事には、エンマ様の祠近くにあるという廃墟で撮られたらしい四枚の心霊写真と廃墟の外観写真、そしてエンマ様に関する話が掲載されている。
 また、その他にも別のオカルトサイトへ通ずるリンクなどが載せられていた。
「あ、あの」
「ん?」
「僕、本物でも偽物でも、そういう怖い写真が苦手なのでよく見てないんですが……これが本物かどうか、わかりますか?」
「あぁ、これかい?――これは、また上手に加工したなぁと思うけど、全部作り物だね。――あるいは、他の本物と言われている心霊写真から上手く抜き取って来て合成したとかじゃないかな。――とにかくよく出来てるけど、どれも偽物だね」
「やっぱりそうなんですね、良かった……」
 梓颯がそう言って安堵の溜め息を吐くと、禰琥壱は微笑んで言った。
「ふふ、梓颯君も彰悟君も、これを見て何も感じなかったんでしょう?」
「はい……。でも、なんだかこんなに話が大きくなると、自分の感覚も信じ切れなくて」
「確かに、不安な事が多いとね。――でも大丈夫だよ。たまにこういった物を載せていて、霊的な何かが寄ってくるとか、集まりやすいという話はあるけれど、このサイトや画像には残念ながらそういう力もないね」
「そうなんですね、安心しました。――じゃあやっぱり、このサイト自体にも、何か悪い念があるというわけではないんですね」
「そうだね、その点も心配いらないよ。――それに、もしサイト自体に何かがあるなら、今まさに梓颯君の体調に影響が出るか、彰悟君の番犬が機嫌を損ねるかしているだろうし」
「あ、ほんとだ」
 そして梓颯がはっとしていると、今度は綺刀が言った。
「確かに、俺の方も今は気持ちよさそうに腹見せて寝てっから心配ないと思うぜ」
「えっそ、そうなんですか!?」
「おう」
 梓颯には、彼らの中で犬神がどのようにしているのかよくわからないのだが、彼らは悉くその犬神の事を愛犬の行動を見るかのように話す。
 そのせいで、本当はそんなに可愛いものではないとわかっているのに、梓颯がイメージする犬神たちは可愛らしい大型犬として固定され始めている。
「でもやっぱ、実際に梓颯も彰悟もそのウワサ話が出てる時には実害を被ってるわけだし、ちょっと気にはなるよな」
「そうだね。実際に怪我人も出てしまっているなら、そのウワサの芽が開花する前に摘んでおきたいかな」
 そうして、どうするべきか、と一同が考え始めた時、綺刀が一つ思いついた事を口にした。
「あ、この手の事なら恵夢めぐむにでも訊いてみるか」
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