転生している場合じゃねぇ!

E.L.L

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「ただ…それがアシュレイかは分からん」

何なんだよもう

「どういうこと?」

「ビビには…息子がいたが…」

「俺とかね」

「そうだ
だが…王宮に連れていかれる前に…結婚していた」

ああ
そうだった

「もう10年も前のことだ」

そうか…



ちょっと待て

「ビビって結婚めちゃくちゃ早かったの?」

「いや、そんなことは…ない、と思う
28で結婚して、30で子供を産んだ」

「俺?」

「いや、1人目を産んだのが30歳
お前を産んだのがその10年後、つまり去年」

「え、ビビって41なの?」

美魔女っていうやつなのかな
国王はてっきり未成年に手を出した危ないヤツだと思っていたのに
だってビビの見た目は元の世界の俺とあまり変わらない年頃くらいだと思っていた
やはりナツしか見ていなかったんだな、俺



いやいやいや
あれはどう見ても10代

「…えっと…」

「ビビは元々すごく美しい娘だった
だから、踊り子として人気があった
結婚しても、子供を産んでも美しかったらしい」

「…そうなんだ」

「だが、ビアンカとして…城に連れていかれた時、世界の法則で取引した
死ぬまでずっと美しいままでいると
30の時は今ほど若い見た目はしてなかった」

「ビビが?」

見た目にはあまり頓着しているように見えなかった

「取引したのはビビではない
ビビが18の時、王族の前で演舞を披露する機会があった
その時あの王はビビに一目惚れしたんだ
王はビビを探して探してやっと見つけたんだが、その時には」

「結婚して一児の母」

「そうだ
だが、あの男は諦めずビビを連れ去った」

「え」

いや、その可能性はあると思ってたしむしろそうなんだろうけど、俺のこの世界の父親最悪だな

「ジュードって言ってな…
腕のいいガラス職人で…
良い奴だったが、無口だった」

ビビが最後に呼んだ名前だ
リックが言うんだから本当に無口なんだろうな

「2人は…巡回していた時に出会った
確かビビが20の時だ
だが、俺たちは旅をして、芸を披露することが生業だ
だから、その時は…別れたんだ
俺達も…反対、したしな
生き方が…違うと
それに、王がビビを探していることは分かっていた
留まれば…見つかる危険性は高い」

母の過去を聞く機会があるとは
ビビは意外と秘密が多かった
過ごした時間の短さもあったけど、ビビは開けっぴろげに色々話しているように見せかけて、その実あまり自分のことを話したがらなかった

「それから7年が経って…
俺たちは再びジュードのいる村に巡業した
そこで2人は再会した
俺たちは…やはり反対したが、ビビの決意は固かった」

ああ
1度言い出したらきかなさそうだもんな

「ジュードを…愛してるんだと言われた
この世でたった一つの…愛だと」

情熱的だったんだね
息子としては中々聞くのが恥ずかしくなってきたよ
ちょっとトイレとかで1度寝かせたい
オムツだから無理だけど

「彼を失ったらもう…踊れない、と」

「7年は踊ってたんでしょ?」

「お前…女にモテないだろ」

うるせぇ
ナツにだけモテればいいんだよ、俺は

「…ビビの踊りは、ジュードと別れてから変わってしまった
最初の数年は抜け殻のようだった」

「…想像できないな」

「ああ
俺達も後にも先にもそれっきりだった
あんなビビを見たのは」

「けれど、ある巡業で着いた土地で…お客さんがガラス製のブローチをつけていたんだ
確か…若い女だったと思う…」

「それって…」

リックがコクンと頷いた

「最近の…流行りの…腕利きのガラス職人の作ったものだと…
その後からビビは…また変わった
昔の…天真爛漫なだけの踊りではなく…花開くようにな」

「…ブローチを見ただけで?」

「ジュードが…頑張っているからと
次会った時恥ずかしい女でいたくないと言っていた」

ビビがそんな娘らしいことを言うなんて
いや、それよりも

「…何でその人が作ったってわかったの?」

「…お前、ダメ男だな」

まだ幼児にダメ男って酷くない?

「女泣かせるなよ」

「泣かせねぇ…!あ…うん…」

泣かせたわ

「だいたい、今の話で分かるわけないだろ
そんなもん」

「…とにかくあいつは変わったんだ
再会して、結婚するのを誰も止められなかった
結婚した後のことは俺には分からない
俺たちは…旅をする
だから…遠い便りで、子供が出来たことだけ知った
だから、息子が何人いたのかも、ましてやそいつの名前がアシュレイかも分からん」

「でも、王宮に連れていかれたのはどうやって知ったの?」

「…知らせを受けて馬を走らせた
あの二人は一緒になってから転々と拠点を移動していたようだったが、妊娠して長期間同じ場所にとどまっていたんだ…
王に狙われていることは知っていた…
けれどあれから10年以上経っていた…
もう、大丈夫だと、俺達も心の隅で思っていた
あんなに…執着しているとは」
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