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3.瘴気の魔女と異邦人
3.2 瘴気の沼
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うつぶせに倒れ、あらゆる汚物にまみれた俺を取り囲み、奴等は嘲笑を浴びせる。
ゲラゲラと耳障りな声が遠ざかったり近づいたり、渦巻いた。
立ち上がれない俺に手を貸すどころか笑い物にしているのだ。
「きなさい…」
そんな笑い声に混じって何かが聞こえてくる。
「おきな…」
ますます笑い声が近くなり耳一杯になり、気でも触れそうだった。
しかしその笑い声をかきけすように女性の、何処かで聞いたことがある女性の声が響いた。
「起きなさい!」
目を開けるとどんより曇った空が目に入り、様々な腐った物がない交ぜになったドブの悪臭が鼻をついた。
目が覚める度に悪臭に襲われなきゃならないのか、そんな不満も耳を煩わす声に飲み込まれる。
ゲラゲラ、嘲る様な笑い声は周囲のそこかしこから聞こえているようだ。
周囲の確認をしようと体を起こそうとする。
「うぇ?」
しかしそれは上手くいかずにバランスを崩した俺は横向きに倒れ混み、派手な水飛沫をあげる。
鼻と口の中に広がる悪臭、汚臭、苦くえぐみしかない汚水。
感覚のある左手、右足でなんとか体を水の中から持ち上げて、咳き込みえずく。
混乱する頭に最初に浮かんだのはなんで俺はドブ川の中で寝ていたのかという事で、ついで右腕、左足がちょうどからだの下敷きにしたまま寝た時のように感覚がないこと、それに気がついた途端に襲ってきた強烈な傷みと吐き気だった。
傷みは感覚のない手足の節々、股関節に脇腹、脇、首、それに頭の中だった。
「な、んで」
呻くのがやっとの俺は感覚のない右腕へと目をやる。
悲鳴をあげた、が出たのはかすれた溜め息のような音だった。
右腕は肩から肘まで大きく切り裂かれ、悪臭の漂うヘドロで覆われていた。出血は無かったが、覗く断面は背筋が寒くなる紫色に変色して既に自分の体の一部から離れている事を示していた。
慌てて左足も膝を立てる形で汚水から出す。
多大の努力の果てに露出した左足は大腿の外側が盛り上がり、その中心は大きく裂けていた。まるで月のクレーターのような有り様だ。左足全体が赤黒く変色し、重大な皮膚病にでもかかったようだったが、そんな生易しい物ではない。既に足と腕は汚水に敗北し、次は体を蝕む段階だった。
今すぐ病院に入院して集中治療が必要なレベル、それでも助からないかも知れない。
焦りの中で俺は周囲を見渡し、そして呆けたように見入った。
薄暗い沼地、そう言えばいいのだろうか。
淀んだ汚水の上には疎らな朽ち木のみが白んだ幹をだし、命の気配がないように思えた。
いや、ひとつあった。
俺を遠巻きに囲み様子を伺いながらゲラゲラと笑う不快な生き物。灰色の肌をした体長は30センチ程度、毛のない猿のような姿で、口元からは牙がのぞく。大きな飛び出す目玉を俺から片時も離さないが近づいては来ないようだ。
俺が死ぬのを待っているのかも知れない、体を蝕む痛みがその時は遠くはない事をはっきりと認識させた。
「死んでたまるか…」
左腕をつく、滑る不快なヘドロを突抜けて体を支えられた。右足に力をこめるとゆらゆらとゆれる視界が徐々に上がった。
ゲラゲラと悲鳴をあげ生き物がさらに俺から遠ざかる。
紫色の空気、薄暗い沼の上はそんな風に見えた。地平の方は幽かなオレンジに光って見えた。今俺が向いている方には延々と連なる山々が見えた。それは右手へと続き、後ろを振り向く前に消えた。そして続くは遥かな地平、いや水平線だろうか。
絶望感は精神にダイレクトに効く、そして精神は胃にくる。
げぇ、と俺はヘドを吐いたが出たのは水だけだった。
「動かないと」
動かなければ再び汚水に浸かり、今度こそあの生き物の胃袋に消えることになるだろう。だがどこへ行けるのか?
霞む視界の中、周囲を見渡す。
それは偶然のもたらした奇跡だったのか、それとも手招きする死が幻になったのか。
水平線の上に揺らめく光が見えた。
熟慮どこらか微塵の思考も介在せずに俺は光に寄せられる虫が如く、それに向かって歩き出した。
いまやお荷物となりぶら下がるだけの左足を引きずるように、ゾブリゾブリと水音、ヘドロをかき混ぜる鈍い湿った音を残して進んだ。
相変わらず生き物はゲラゲラ笑いながら俺についてきてはいたが、俺の歩みの邪魔はしなかった。
そうやって歩きながら俺はようやく自分の状況を思い出すに至った。
糞みたいな国のゴミみたいな父親と哀れな女性の間に生まれたクソ王女、そいつのわがままで俺はこんな場所に放り込まれ、理不尽な最期に向かっている。
俺が逃げるだけで復讐になると言っていた、だがこんなの復讐できたとしても報われない。
なんとしてでも生きて戻って、彼女との、アリアナさんとの約束を果たすんだ。
そんな決意も傷みと絶望に削り取られていく。
ほとんど進んでいないのではないかと疑う程の歩みの俺の前にも、ついには揺らめく光と大きな陰が姿を表す。どうも巨大な木のシルエットのようだがあそこで沼は終わり、人がいてくれるかもしれない。
助かる望はないかもしれないが、どうか安らかな最期を向かうのに手助けしてくれる人でありますように。
そんな望を胸に右足に力を込め、左足を叱咤した。
それは大木だった。
草一本生えない遥かなヘドロの沼に青々とした葉を繁らせ、堂々と立っている木。不自然だが、確かに生命の煌めきがそこにはあった。
そして人の、生活の匂いも。
木の根本から延びるように平がる木版を組み合わせたプラットフォーム。
広さは20メートル四方ある。そしてそのプラットフォームから木の幹を回るようにして設けられた階段、その先のツリーハウス。揺らめく光はあの家の光だった。
冷たく汚い沼から乾いたプラットフォームに這い上がると、汚水とヘドロの茶色の染みが広がった。その染みを伸ばしながら無意識に階段へと俺の右足は進んだ。
「すみません、誰かいませんか!」
階段の前まで来て、上に向け僅かに残った力を振り絞って声を張り上げる、しかし何の反応もなかった。聞こえていないのか、それとも留守なのか。
期待していた返事はなかった、が俺の耳に届く音があった。水の流れる音。沼の上だ、当然だろうと思ったが妙にその音が意識を惹いた。
俺は幹に左手をつきながら音のする方へと回った。
もし人が住んでいるなら当然な事としてそれはあった、水場だ。沼の水とは明らかに違う透明で清浄な水、理屈はわからないが確かにそれはあった。受けの木製の水槽からあふれでるほどに。
吸い寄せられ、口に含み何度もうがいをして口内を洗浄したあとで水を飲み下した。
冷たく、清浄な水はこれ以上ないくらいに旨かった。
喉が潤ったところで、腕の傷を流水に曝しヘドロを落とし、足も同じようにした。
傷は既に手遅れだとはっきりとわかった、最早俺の体についているだけの腐った肉片だ。
どっと疲労が押し寄せ、崩れるように俺は横たわった。
俺は汚い汚水のなかでなく、乾いたプラットフォームの上に横たわれる事に感謝した。
見上げれば大木の枝と葉が陰鬱な色をした空を隠してくれている。
ここらが精一杯と言ったところか、俺は痛みを覆う眠気に任せて瞼を閉じた。
奴隷にならずにすんだ、復讐もたぶんできた。よくはないが仕方ない、あんまりにも理不尽な人生の終わりに憤る気力もなく、ただ微睡み、落ちていった。
最期の瞬間に思ったのは、ここの住人が俺をみて驚くだろうなという事と、どうか人間らしく埋葬してくれたらいいなという事だった。
ポコは薄暗く陰鬱な沼の上を魔法の木馬に股がり、低空飛行をしていた。
魔術師、特に鎮守魔術師ともなればなんでも空を飛べる、それこそホウキでもザルでも。
元白馬の黒馬に乗りながら、水面を注視しながら彼女はサンセット・レイクを家へと急いだ。
サンセット・レイクなんて残っているのは名前だけ、今は瘴気の沼だの死の沼だの呼ばれている。先々代の鎮守魔術師の時に瘴気をふんだんに含んだ山津波によってここら辺は完全に汚染され、美しい湖畔も肥沃な農地も失われてこのような有り様になった。今では辺境の高瘴気濃度の死の大地との緩衝地となっていた。
瘴気の化物が進出していないか、高濃度の瘴気溜まりができていないか、そんな事を見逃さないように、わざわざ鼻につく水面近くを飛んでいる。
「なんかおかしいなぁ」
ポコはひとりごちた。
スカベンジャーが騒がしいのだ、ゲラゲラ、ゲラゲラと。
「魔物でも浸潤してきたかな?」
スカベンジャーはこの沼の掃除屋だ、瘴気にやられ死んだ生き物の体を瘴気で浸潤される前に食べたり、瘴気に汚染された流木などを食べたりと、外へ瘴気が拡散するのを防いでくれる。そして彼らは辺境からこちらに入ってくる魔物も集団で襲って食べてくれるのだ。沼になくてはならない生き物がスカベンジャーだった。
そんな彼等が騒いでいるのは大きな餌があるか、もしくは人や動物が迷い混んだか時だ。
まあ後者なら既に手遅れだろうとポコは思った。
ここの瘴気だって耐性がなければ命を脅かす。
「あとでパトロールしないと駄目かな」
そんな独り言を呟いたところで家のある長老樹のシルエットが見えてきた。
すると前方から小さな影が向かってきたのが目に入った。
「ピッコ」
ポコが名前を呼ぶとブラッドピジョンのピッコは弧を描くように飛んでポコと平行飛行し、やがて木馬の頭の部分に止まった。
真っ赤な羽毛のブラッドピジョンは耐瘴気生物の一種だ。高い知能を有したこの鳥はここら辺特有の渡り鳥で瘴気の上を飛んで渡りを行う。
ピッコはポコの顔を覗き混むと頭を左右に、垂直にかしげて見せた。
「どうしたのピッコ」
「ポコ、オキャクオキャク、ギュエー」
「え、お客?」
「オキャク、ネテル、グェー」
「うん?」
不明瞭な言葉でも普段はだいたい理解できる、ピッコにストレイアへの伝言を頼むことがあるくらいには。だが、今回はわからなかった。
「よくわからないけど、家に何かあるのね」
ポコはそう解釈し、速度を上げて飛んだ。
やがて板を張ったプラットフォームに囲まれるようにして青々とした葉をつける哀しみの長老樹が見えてきた。かつてここにあった森の長である霊樹は今もここにある。
プラットフォームの上にランディングしたポコは黒馬から飛び下りてすぐにその異変に気がついた。
何かが沼から上がってきた形跡があり、ヘドロを引き摺って家の方に向かっているのだ。
「ポコ、オキャクオキャク!」
ピッコは騒ぎ立てながら彼女の回りを飛び回った。
ポコは霊樹のワンドを構えると周囲のマナに注視し、様々な即席魔術を頭に浮かべながら慎重に跡を追った。ポコには術が完成するまで護衛してくれる従者はいない、だから自らその間をつくらねばならないのだ。
ヘドロは階段まで続いていたが、さいわいな事に家の方へとは行かず霊樹の反対へと幹を回っていた。
掃除はしなくて良さそう、プラットフォームは雨がそのうち泥を流してくれる。そんな安心感からくる油断を払うため、ワンドの先を勢いよく振ると彼女は幹に身を隠すようにピッタリと張り付き、視線を先行させる形で移動した。
最初に目に入ったのはひどく飛び散った水だった、ヘドロと汚水で薄められた水が溝に沿って沼へと流れていく。
これは少し水を流した方がいいかもしれない、よく使う場所だし、しかしそんな考えは完全に抜け落ちて、ポコは茫然とそれを見ることになった。
ピッコの騒いでいた理由、いやスカベンジャー達が騒いでいたのも同じ理由かもしれない。
プラットフォームの上に横たわる塊、それが人だとわかったときポコは危うくワンドを取り落としそうになった。
「ちょっと大丈夫?!」
慌ててポコは駆け寄った。
血が通ってないのではと思う程にその男の顔は青白く、右手と左足は何があったのか知らないが裂けた傷があり、ヘドロがへばりついていた。既に機能は失われ腐りかけのそれからは酷い臭いが漂っている。
既に事切れていてもおかしくはない。だが男の胸は微かに上下し、弱々しい息遣いが聞こえた。
不安定で今にも途切れそうなそれは、目の前の男がまさに力尽きようとしていることを示していた。
「いけない!死んでは駄目だ!」
ポコは把握していた周囲のマナの状態から頭の中でシミュレーションしていた術をすべて追い出し、瞬時に2つの術を組み立てた。そして指で短くなどり男の体へとその流れを導く。
1つは空気へ働きかけ、無理矢理に男の肺に呼吸させる。
1つは炎に働きかけ、失われていた温もりを彼の体に思い出させた。
だがそれはあくまで延命措置だ。
ポコは次に原因を探る。
傷も酷いが瘴気の影響は大きいだろうと彼女は考えた。
ならば瘴気を中和する術を施し、清浄な霊樹結界内にいれば助かる可能性はある。
だが事態は彼女の思っている様なものではなかった。
「え、ウソでしょ」
思わず彼女は呻く。
シーカーズアイで走査した男の体へのマナの流れに異常はない。
何処から来たのかは知らないけれど、沼を通らずにヘドロをつけてここにくるのは無理だ、少なくとも男はしばらく沼に浸かっていただろう。だが、その体に瘴気の影響は皆無だったのだ。
さらに彼女を困惑させたのは男の胸の辺りに空けられた人工的なマナの孔だった。様々な憶測が頭の中で渦巻いたが、男の命が消えかけていることを思いだし、さしあたってそれらは忘れて治療に専念することにした。
酷い裂傷、その状態で沼に浸かった事により腐れの病魔に体を食われている状態。
ポコの頭の中には数種類の薬草と施術について浮かんだがそれだけではこの男を救うことは叶わないと結論付けた。
「ピッコ」
「ポコーグェー!」
ポコは丸まった羊皮紙に短く何かを書き付けると、ピッコの首輪にくくりつけた。
「レイアにこれを届けて、パンズサンクチュアリにいなければ、たぶん王都からの帰り道にいるから見つけて!」
「ピッコ、レイアサガス、ゲェー」
一声鳴くとピッコは翼をはためかせ、空へと飛び上がった。
男を救うには癒しの力が必要だ、ポコの力では足りない、生命そのものであるストレイアの癒しの力が。
「とにかく始めなくっちゃ」ポコは独りごちると霊樹を見上げて続けた。「長老、この人を家に上げるのを手伝って!」
彼女の呼び掛けに反応して無数の枝が男の体を覆い、持ち上げた。
ゲラゲラと耳障りな声が遠ざかったり近づいたり、渦巻いた。
立ち上がれない俺に手を貸すどころか笑い物にしているのだ。
「きなさい…」
そんな笑い声に混じって何かが聞こえてくる。
「おきな…」
ますます笑い声が近くなり耳一杯になり、気でも触れそうだった。
しかしその笑い声をかきけすように女性の、何処かで聞いたことがある女性の声が響いた。
「起きなさい!」
目を開けるとどんより曇った空が目に入り、様々な腐った物がない交ぜになったドブの悪臭が鼻をついた。
目が覚める度に悪臭に襲われなきゃならないのか、そんな不満も耳を煩わす声に飲み込まれる。
ゲラゲラ、嘲る様な笑い声は周囲のそこかしこから聞こえているようだ。
周囲の確認をしようと体を起こそうとする。
「うぇ?」
しかしそれは上手くいかずにバランスを崩した俺は横向きに倒れ混み、派手な水飛沫をあげる。
鼻と口の中に広がる悪臭、汚臭、苦くえぐみしかない汚水。
感覚のある左手、右足でなんとか体を水の中から持ち上げて、咳き込みえずく。
混乱する頭に最初に浮かんだのはなんで俺はドブ川の中で寝ていたのかという事で、ついで右腕、左足がちょうどからだの下敷きにしたまま寝た時のように感覚がないこと、それに気がついた途端に襲ってきた強烈な傷みと吐き気だった。
傷みは感覚のない手足の節々、股関節に脇腹、脇、首、それに頭の中だった。
「な、んで」
呻くのがやっとの俺は感覚のない右腕へと目をやる。
悲鳴をあげた、が出たのはかすれた溜め息のような音だった。
右腕は肩から肘まで大きく切り裂かれ、悪臭の漂うヘドロで覆われていた。出血は無かったが、覗く断面は背筋が寒くなる紫色に変色して既に自分の体の一部から離れている事を示していた。
慌てて左足も膝を立てる形で汚水から出す。
多大の努力の果てに露出した左足は大腿の外側が盛り上がり、その中心は大きく裂けていた。まるで月のクレーターのような有り様だ。左足全体が赤黒く変色し、重大な皮膚病にでもかかったようだったが、そんな生易しい物ではない。既に足と腕は汚水に敗北し、次は体を蝕む段階だった。
今すぐ病院に入院して集中治療が必要なレベル、それでも助からないかも知れない。
焦りの中で俺は周囲を見渡し、そして呆けたように見入った。
薄暗い沼地、そう言えばいいのだろうか。
淀んだ汚水の上には疎らな朽ち木のみが白んだ幹をだし、命の気配がないように思えた。
いや、ひとつあった。
俺を遠巻きに囲み様子を伺いながらゲラゲラと笑う不快な生き物。灰色の肌をした体長は30センチ程度、毛のない猿のような姿で、口元からは牙がのぞく。大きな飛び出す目玉を俺から片時も離さないが近づいては来ないようだ。
俺が死ぬのを待っているのかも知れない、体を蝕む痛みがその時は遠くはない事をはっきりと認識させた。
「死んでたまるか…」
左腕をつく、滑る不快なヘドロを突抜けて体を支えられた。右足に力をこめるとゆらゆらとゆれる視界が徐々に上がった。
ゲラゲラと悲鳴をあげ生き物がさらに俺から遠ざかる。
紫色の空気、薄暗い沼の上はそんな風に見えた。地平の方は幽かなオレンジに光って見えた。今俺が向いている方には延々と連なる山々が見えた。それは右手へと続き、後ろを振り向く前に消えた。そして続くは遥かな地平、いや水平線だろうか。
絶望感は精神にダイレクトに効く、そして精神は胃にくる。
げぇ、と俺はヘドを吐いたが出たのは水だけだった。
「動かないと」
動かなければ再び汚水に浸かり、今度こそあの生き物の胃袋に消えることになるだろう。だがどこへ行けるのか?
霞む視界の中、周囲を見渡す。
それは偶然のもたらした奇跡だったのか、それとも手招きする死が幻になったのか。
水平線の上に揺らめく光が見えた。
熟慮どこらか微塵の思考も介在せずに俺は光に寄せられる虫が如く、それに向かって歩き出した。
いまやお荷物となりぶら下がるだけの左足を引きずるように、ゾブリゾブリと水音、ヘドロをかき混ぜる鈍い湿った音を残して進んだ。
相変わらず生き物はゲラゲラ笑いながら俺についてきてはいたが、俺の歩みの邪魔はしなかった。
そうやって歩きながら俺はようやく自分の状況を思い出すに至った。
糞みたいな国のゴミみたいな父親と哀れな女性の間に生まれたクソ王女、そいつのわがままで俺はこんな場所に放り込まれ、理不尽な最期に向かっている。
俺が逃げるだけで復讐になると言っていた、だがこんなの復讐できたとしても報われない。
なんとしてでも生きて戻って、彼女との、アリアナさんとの約束を果たすんだ。
そんな決意も傷みと絶望に削り取られていく。
ほとんど進んでいないのではないかと疑う程の歩みの俺の前にも、ついには揺らめく光と大きな陰が姿を表す。どうも巨大な木のシルエットのようだがあそこで沼は終わり、人がいてくれるかもしれない。
助かる望はないかもしれないが、どうか安らかな最期を向かうのに手助けしてくれる人でありますように。
そんな望を胸に右足に力を込め、左足を叱咤した。
それは大木だった。
草一本生えない遥かなヘドロの沼に青々とした葉を繁らせ、堂々と立っている木。不自然だが、確かに生命の煌めきがそこにはあった。
そして人の、生活の匂いも。
木の根本から延びるように平がる木版を組み合わせたプラットフォーム。
広さは20メートル四方ある。そしてそのプラットフォームから木の幹を回るようにして設けられた階段、その先のツリーハウス。揺らめく光はあの家の光だった。
冷たく汚い沼から乾いたプラットフォームに這い上がると、汚水とヘドロの茶色の染みが広がった。その染みを伸ばしながら無意識に階段へと俺の右足は進んだ。
「すみません、誰かいませんか!」
階段の前まで来て、上に向け僅かに残った力を振り絞って声を張り上げる、しかし何の反応もなかった。聞こえていないのか、それとも留守なのか。
期待していた返事はなかった、が俺の耳に届く音があった。水の流れる音。沼の上だ、当然だろうと思ったが妙にその音が意識を惹いた。
俺は幹に左手をつきながら音のする方へと回った。
もし人が住んでいるなら当然な事としてそれはあった、水場だ。沼の水とは明らかに違う透明で清浄な水、理屈はわからないが確かにそれはあった。受けの木製の水槽からあふれでるほどに。
吸い寄せられ、口に含み何度もうがいをして口内を洗浄したあとで水を飲み下した。
冷たく、清浄な水はこれ以上ないくらいに旨かった。
喉が潤ったところで、腕の傷を流水に曝しヘドロを落とし、足も同じようにした。
傷は既に手遅れだとはっきりとわかった、最早俺の体についているだけの腐った肉片だ。
どっと疲労が押し寄せ、崩れるように俺は横たわった。
俺は汚い汚水のなかでなく、乾いたプラットフォームの上に横たわれる事に感謝した。
見上げれば大木の枝と葉が陰鬱な色をした空を隠してくれている。
ここらが精一杯と言ったところか、俺は痛みを覆う眠気に任せて瞼を閉じた。
奴隷にならずにすんだ、復讐もたぶんできた。よくはないが仕方ない、あんまりにも理不尽な人生の終わりに憤る気力もなく、ただ微睡み、落ちていった。
最期の瞬間に思ったのは、ここの住人が俺をみて驚くだろうなという事と、どうか人間らしく埋葬してくれたらいいなという事だった。
ポコは薄暗く陰鬱な沼の上を魔法の木馬に股がり、低空飛行をしていた。
魔術師、特に鎮守魔術師ともなればなんでも空を飛べる、それこそホウキでもザルでも。
元白馬の黒馬に乗りながら、水面を注視しながら彼女はサンセット・レイクを家へと急いだ。
サンセット・レイクなんて残っているのは名前だけ、今は瘴気の沼だの死の沼だの呼ばれている。先々代の鎮守魔術師の時に瘴気をふんだんに含んだ山津波によってここら辺は完全に汚染され、美しい湖畔も肥沃な農地も失われてこのような有り様になった。今では辺境の高瘴気濃度の死の大地との緩衝地となっていた。
瘴気の化物が進出していないか、高濃度の瘴気溜まりができていないか、そんな事を見逃さないように、わざわざ鼻につく水面近くを飛んでいる。
「なんかおかしいなぁ」
ポコはひとりごちた。
スカベンジャーが騒がしいのだ、ゲラゲラ、ゲラゲラと。
「魔物でも浸潤してきたかな?」
スカベンジャーはこの沼の掃除屋だ、瘴気にやられ死んだ生き物の体を瘴気で浸潤される前に食べたり、瘴気に汚染された流木などを食べたりと、外へ瘴気が拡散するのを防いでくれる。そして彼らは辺境からこちらに入ってくる魔物も集団で襲って食べてくれるのだ。沼になくてはならない生き物がスカベンジャーだった。
そんな彼等が騒いでいるのは大きな餌があるか、もしくは人や動物が迷い混んだか時だ。
まあ後者なら既に手遅れだろうとポコは思った。
ここの瘴気だって耐性がなければ命を脅かす。
「あとでパトロールしないと駄目かな」
そんな独り言を呟いたところで家のある長老樹のシルエットが見えてきた。
すると前方から小さな影が向かってきたのが目に入った。
「ピッコ」
ポコが名前を呼ぶとブラッドピジョンのピッコは弧を描くように飛んでポコと平行飛行し、やがて木馬の頭の部分に止まった。
真っ赤な羽毛のブラッドピジョンは耐瘴気生物の一種だ。高い知能を有したこの鳥はここら辺特有の渡り鳥で瘴気の上を飛んで渡りを行う。
ピッコはポコの顔を覗き混むと頭を左右に、垂直にかしげて見せた。
「どうしたのピッコ」
「ポコ、オキャクオキャク、ギュエー」
「え、お客?」
「オキャク、ネテル、グェー」
「うん?」
不明瞭な言葉でも普段はだいたい理解できる、ピッコにストレイアへの伝言を頼むことがあるくらいには。だが、今回はわからなかった。
「よくわからないけど、家に何かあるのね」
ポコはそう解釈し、速度を上げて飛んだ。
やがて板を張ったプラットフォームに囲まれるようにして青々とした葉をつける哀しみの長老樹が見えてきた。かつてここにあった森の長である霊樹は今もここにある。
プラットフォームの上にランディングしたポコは黒馬から飛び下りてすぐにその異変に気がついた。
何かが沼から上がってきた形跡があり、ヘドロを引き摺って家の方に向かっているのだ。
「ポコ、オキャクオキャク!」
ピッコは騒ぎ立てながら彼女の回りを飛び回った。
ポコは霊樹のワンドを構えると周囲のマナに注視し、様々な即席魔術を頭に浮かべながら慎重に跡を追った。ポコには術が完成するまで護衛してくれる従者はいない、だから自らその間をつくらねばならないのだ。
ヘドロは階段まで続いていたが、さいわいな事に家の方へとは行かず霊樹の反対へと幹を回っていた。
掃除はしなくて良さそう、プラットフォームは雨がそのうち泥を流してくれる。そんな安心感からくる油断を払うため、ワンドの先を勢いよく振ると彼女は幹に身を隠すようにピッタリと張り付き、視線を先行させる形で移動した。
最初に目に入ったのはひどく飛び散った水だった、ヘドロと汚水で薄められた水が溝に沿って沼へと流れていく。
これは少し水を流した方がいいかもしれない、よく使う場所だし、しかしそんな考えは完全に抜け落ちて、ポコは茫然とそれを見ることになった。
ピッコの騒いでいた理由、いやスカベンジャー達が騒いでいたのも同じ理由かもしれない。
プラットフォームの上に横たわる塊、それが人だとわかったときポコは危うくワンドを取り落としそうになった。
「ちょっと大丈夫?!」
慌ててポコは駆け寄った。
血が通ってないのではと思う程にその男の顔は青白く、右手と左足は何があったのか知らないが裂けた傷があり、ヘドロがへばりついていた。既に機能は失われ腐りかけのそれからは酷い臭いが漂っている。
既に事切れていてもおかしくはない。だが男の胸は微かに上下し、弱々しい息遣いが聞こえた。
不安定で今にも途切れそうなそれは、目の前の男がまさに力尽きようとしていることを示していた。
「いけない!死んでは駄目だ!」
ポコは把握していた周囲のマナの状態から頭の中でシミュレーションしていた術をすべて追い出し、瞬時に2つの術を組み立てた。そして指で短くなどり男の体へとその流れを導く。
1つは空気へ働きかけ、無理矢理に男の肺に呼吸させる。
1つは炎に働きかけ、失われていた温もりを彼の体に思い出させた。
だがそれはあくまで延命措置だ。
ポコは次に原因を探る。
傷も酷いが瘴気の影響は大きいだろうと彼女は考えた。
ならば瘴気を中和する術を施し、清浄な霊樹結界内にいれば助かる可能性はある。
だが事態は彼女の思っている様なものではなかった。
「え、ウソでしょ」
思わず彼女は呻く。
シーカーズアイで走査した男の体へのマナの流れに異常はない。
何処から来たのかは知らないけれど、沼を通らずにヘドロをつけてここにくるのは無理だ、少なくとも男はしばらく沼に浸かっていただろう。だが、その体に瘴気の影響は皆無だったのだ。
さらに彼女を困惑させたのは男の胸の辺りに空けられた人工的なマナの孔だった。様々な憶測が頭の中で渦巻いたが、男の命が消えかけていることを思いだし、さしあたってそれらは忘れて治療に専念することにした。
酷い裂傷、その状態で沼に浸かった事により腐れの病魔に体を食われている状態。
ポコの頭の中には数種類の薬草と施術について浮かんだがそれだけではこの男を救うことは叶わないと結論付けた。
「ピッコ」
「ポコーグェー!」
ポコは丸まった羊皮紙に短く何かを書き付けると、ピッコの首輪にくくりつけた。
「レイアにこれを届けて、パンズサンクチュアリにいなければ、たぶん王都からの帰り道にいるから見つけて!」
「ピッコ、レイアサガス、ゲェー」
一声鳴くとピッコは翼をはためかせ、空へと飛び上がった。
男を救うには癒しの力が必要だ、ポコの力では足りない、生命そのものであるストレイアの癒しの力が。
「とにかく始めなくっちゃ」ポコは独りごちると霊樹を見上げて続けた。「長老、この人を家に上げるのを手伝って!」
彼女の呼び掛けに反応して無数の枝が男の体を覆い、持ち上げた。
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2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
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