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鶴岡が帰った後の工房では……

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「お兄ちゃん。ありがとう」

 如月 亜衣は朝霞 零に背後から抱き着いた。

 この二人、姓は違うが実の兄妹だったのだ。

「鶴岡 懐石のお墨付きをもらえたのよ。これで、フードプリンターは売れるわ」
「しかしなあ……」

 朝霞 零は隠してあった魚を取り出して、鶴岡の食べ残した魚と食べ比べた。

「作った俺が食っても、違いが分からないぞ。こんな小細工する必要があったのか?」

 実は、ニジマスの塩焼きを作った後、フードプリンターでコピーを二つ作ってオリジナルは隠しておいたのだ。鶴岡の前に出した魚はすべてコピーだったのである。

「何言っているのよ。相手は鶴岡 懐石よ。お兄ちゃんにも分からない違いを見つけるに決まっているわ。そんな事になって、フードプリンターが売れなかったら、うちの会社は倒産よ。お兄ちゃんはあたしが路頭に迷ってもいいの?」
「いや……それは……」
「それとも、お兄ちゃんがあたしを一生養ってくれる?」
「それは嫌だ」

 朝霞 零の脳裏には、苦悩に満ちた顔で皿を見るふりをして、印を確認していた鶴岡の姿が蘇った。

「妹のためとはいえ、鶴岡さんには悪い事をしたな」


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