怪盗ミルフィーユ

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
60 / 60
終章

エピローグ

しおりを挟む
「ふう! しんど!!」リビングに入るなりミルはだらしなくチェスターフィールドに寝転んだ。「やっぱ、自分の船が一番落ち着くわ」
  サルベージ作業が終わって、あたし達が〈ネフリェット〉に戻ったのは、あれから十日後の事だった。
  結局、異空間から、生きて助け出せた人は二百五十人だけ。
  異空間にいた時間が長い程、生還率は低くなるみたいだ。
  四十五年前の実験で消えた人達は教授のオリジナルも含めて、全員生還できたのに、二十世紀に消えた人達の九割以上は死体となって出てきた。
  仕方がないとはいえ、あたしは結構それで落ち込んだ。
  その後で、肉親との再会を喜ぶ人を見たときは、ちょっと救われた気分になったけど。バミューダ海域で消えたアベンジャー雷撃機と、小笠原デビルシーで消えたイ号400型潜水艦が、ほとんど同時にサルベージされた時は、ちょっとした騒ぎになった。
  あの時は、イ号400から飛び立った晴嵐戦闘機と、アベンジャーが危うく空中戦をやりそうになったのを止めるのに一苦労した。
  アヌンナキの時代に異空間に消えた人達で戻れたのは、地球人の男の子一人と、五人のアヌンナキだけ。
  モルは仲間ができて喜んでいたけど……
 男の子の方は、レイピア王女に引き取られて第二太陽系に行ってしまった。
  なんだかあの子、マナに似ていたけど、あたしの気のせいかな?
 「ところでミル」
  この十日間、忙しくてできなかった話を、あたしは今この場で始めた。
 「いつから気が付いていたの?」
 「なにが?」
 「〈天使の像〉が〈パイザ〉ではなく、マナの捕獲器だったって」
 「捕獲器という事はレイちゃんに会うまで知らんかったが、〈パイザ〉じゃないのはタキオンパルスが出た時に分かったんや。〈パイザ〉ならそんなもん出さんはずや。レイちゃんが〈天使の像〉を狙っていたのは、本来の仕事やのうて、うちと同じく教授に依頼されていたんや。鬼頭が海賊だって、教えてやったら悔しがってたで。それなら、手の込んだ事せずに、とっとと逮捕して没収したれば良かったって。駐車場でショコラ達を襲撃した後で教授から、うちらの正体を聞かされたレイちゃんは、親善訪問で太陽系を訪れたついでに、普段は報道機関に出さない自分の顔を大々的にニュースに流したんや。ショコラとタルトが、それを見たらきっとうちが接触してくると思ってな」
 「それで、いつ接触したの?」
 「〈ヘリオポリス〉を出発する前にメールを送って、軌道リングに来てもろた。軌道リングでは船を借りに行った時に会ったんや。それで、互いに教授から依頼されていた事が分かって、共同でやる事になった。ただ、マナに近付くと心を読まれるという事が分かってな、そこで一芝居打って、何も知らないショコラとタルトを先に行かせて、マナにガセネタを掴ませる事にしたんや。堪忍な」
 「別にいいのよ。あたしは、もうあんな事は気にしてないし。あたしが気にしているのは、ミルが代わりの〈パイザ〉をどうやって手に入れるつもりか、という事よ。言っておくけど、あたしとしては、発掘するか、金出して買うか、借りるかそれ以外の方法は認めないからね」
 「ショコラ。そんな方法で、本当に手に入ると思っとるんか?」
 「そういう問題じゃなくて、それ以外の方法は人間としてやっちゃいけないのよ!」
 「ええやないの。もう、とっくに何度もやっとるやんか」
 「だめ!」
 「まどろっこしい事しとったら、うちらバア様になってまうで」
 「だめったら! だめ!!」
 「それにな、約束ではアイテムが全部そろったらという事になっとる。〈天使の像〉が違っていたという事は、この条件は満たされてへんのや」
 「だめったら! だめったら!! ダメエェェ!!」
  あたしの絶叫も虚しく、怪盗ミルフィーユの復活宣言が発表されたのは、それから一週間後の事だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...