58 / 60
森の主
クラウドバスター〈ショコラ〉
しおりを挟む
突然、周囲が爆炎に包まれた。
同時にシールドに掛かっていた圧力が消える。
上空を見上げると、レイピア王女の飛行船が浮かんでいた。
なんで?
「何者だ?」
巨人は問い掛けた。
「私はエル・ドラドの王女レイピア」
「エル・ドラドの王女が何の用だ?」
「決まっている。イタズラ精霊を封じ込めに来た」
「ふん! やれるものなら、やってみろ! 今の僕は昔の様にはいかないぞ」
巨人は飛行船に襲いかかる。飛行船の下部からバルカン砲が火を吹いた。弾丸を浴びた巨人は瞬く間に消えていく。
どうやら、これもバイオンを吸収する、何らかのEMを弾頭に使っているのだろう。
竜が飛行船に近付いた。
いけない! このままじゃ攻撃されちゃう。
だが、そうはならなかった。
「レイピア君。元気だったかね?」
竜の上から、教授がフレンドリーに声を掛けた。
どういう事?
「先生。ご無沙汰しておりました」
「ヤッホー! 先生、うちも元気やでえ!!」
聞き覚えのある脳天気な声が、森の上空を響き渡る。
「おお! 竹ノ内君、君はいつも元気だね」
「元気が取り柄」
それってアホってことじゃないの?
「とりあえず、うちらは従姉妹逹と合流しますよって」
「うむ。頑張りたまえ」
ジェットパックを背負った人影が数体、飛行船を離れた。
「ああ!!」
唐突に、タルトが素頓狂な声をあげる。
「思い出した! レイピア王女って、どっかで会ったような気がすると思っていたら、あの人、親父の教え子の一人だ」
「え? そうなの。でも、ミルとは時期が違っていたんじゃ……」
「とんでもない! あの二人が、仲良く家へレポート提出に来たのを、僕は何度も目撃している。明らかに友達だ。あの二人」
「じゃあ、あたし達、かつがれてたのぉ!?」
ジェットパックを背負ったミルが地面に降りたった。
「やっほー! ショコラにタルト。元気にしとったかあ!」
ミルの脳天気な声が、今ほどあたしの脳細胞を逆撫でした事はなかった。
「ミルゥゥー」
「な……なんや……二人とも怖い顔して………あ!」
ミルはササッとレイピア王女の後に隠れた。
「うちは、レイちゃんの人質なんや。はよ。助けに来てんか」
わざとらしい。
「ばれてるよ。竹ノ内」
レイピア王女は冷たく言い放つ。
「やっぱし。ははは!」
「『ははは!』じゃないわよ!!」
「説明して下さい!」
あたし達はミルに詰め寄った。
「いや……二人を騙した事は、悪いと思っとる。だから……堪忍や」
ミルは突然、土下座して謝った。
「わー! ミルさん!! やめて下さい。そこまでしなくていいです。僕はミルさんさえ無事だったらそれで……」
タルトは慌ててミルを引き起こした。
「ほな、許してくれるか?」
「許します! 許しますから。頭上げて下さい」
「ほな、頭上げたるから、あっちも説得してんか」
と言って、あたしの方を指差す。
てめえでやれよ!
「なあ、ショコラ」
タルトもタルトよ。
いくら惚れてる女だからって、言いなりにならないでよね。
「いや! 絶対許さない。頭下げたって、土下座したって、五体投地礼したって許せない」
「許さなくてもいい。ただ、怒るのは、あれを何とかしてからにしようよ」
顔を上げたあたしの目に『あれ』が映る。
何体もの巨人がのしのしと歩く姿が。
竜が火を吹き、飛行船がEM弾頭を発射して巨人を倒していくが、倒す側から再び巨人が復活する。切りがない。
「ミル。このままじゃジリ貧だよ」
「心配ないて。もうすぐモンブランが秘密兵器を持ってきてくれる」
ミルがそう言った直後、ドーン! という音が響き、やがて火の玉が現れた。大気圏突入カプセルだ!
やがて、十分に減速したところでカプセルはパラシュートを開いた。地表に降りると同時にカプセルはカパッと二つに割れ、中から妙な物体が現れる。
不格好な対空砲のような物体……いや、対空砲というよりも、ただ鉄パイプを並べただけの装置みたいだけど……
「なんのつもりだ!? そんな不細工な大砲で、僕をどうにかできると思っているのか?」
巨人が叫んだ。
「あいにくと、大砲ではないんや。先生!! 退避して下さい」
「待つんだ。竹ノ内君」
竜が降下してきた。
「キャサリン君! 死にたくなければ一緒に来るんだ」
呆気に取られるキャサリンを竜に乗せると、教授は飛び立った。
しばらくして。
『竹ノ内君。もういいぞ。やってくれ』携帯で教授が言ってきた。
「おおっし! モンブラン! クラウド・バスター作動や!!」
クラウド・バスターだって!?
『ラジャー!』
携帯から返事が来た直後、突然、巨人達が苦しみ始めた。体中が色を失ったと思うと白い灰となって消えてしまう。
巨人だけじゃない。森の木々も急速に消えていき中心部の岩山がむき出しになった。
岩山だけは、普通の物質でできているから変化がないんだ。
「な……なんだこれは?」
くぐもったマナの声が響いた。かなり苦しそうだ。
すでに森の八割近くが消えてしまい、もはや巨人を作る力はないみたいね。
「きさま! いったい何をした!?」
「これはな、今から二百年前にウィルヘルム・ライヒが開発した対タルポイド兵器、クラウド・バスターや!!」
「何が、対タルポイド兵器よ。ライヒは元々気象制御のために作ったのよ」
大威張りで言うミルの横から、レイピア王女がボソッと突っ込みを入れた。
「ええやないの。実際にライヒは、これでUFOやっつけたんやで」
クラウド・バスターって、この前ウィルヘルム・ライヒの資料を調べた時に見たっけ。確か鉄パイプとケーブルを組み合わせた簡単な装置で、大気中のオルゴンを吸収し水中へ逃がす装置だとか。
ライヒは、これで雲を消したり出したりしたので『雲 破壊器』と名付けた。
そして、ある夜、当時のアメリカを騒がしていたタルポイド=UFOにこれを向けたところ、たちまちのうちにUFOは光を失ったというが……
「ば……ばかな。確かに二百年前にそいつにやられたが」
あ! こいつだったんだ。その時のUFO。
「こんな威力はなかっはずだ」
そうか。二百年前に衰弱して帰ってきたのは、そういう事情があったんだ。
「二百年分の技術革新て奴や。鉄パイプにはEMをコーティングし、細部にはアヌンナキの技術を取り入れてある。吸引力は当時の二万倍や!! 恐れ入ったか!」
「なに、威張っているのよ。あれは先生が設計したものを、〈エル・ドラド〉の科学省で製造したのよ」
「冷たいなあ、レイちゃん。うちら親友やないか」
「悪友よ」
「なに言うてまんねん。学生時代はレポート提出のために一緒にドロ……」
「遠慮することないわ! あなたと私の仲じゃないの」
なんか、この二人、ヨコシマな秘密を共有しているわね。
「なめるなよ! 人間ども。確かに装置は強化されているが、ここには地球ほど大量の水はない。中央水路の水など、ものの数十分で飽和状態にしてくれる」
「その前に、ワープ機関を停止させてジ・エンドやな」
「こんな短時間で、見付けられるものか」
「アホやな、もうとっくに見付かっとるわ」
え?
「なんのために大袈裟な演技をして、タルトとショコラを先に行かせたと思う? この二人の心を読んで、こっちにタルポイド対策がないと判断したあんたは、油断してこの二人を野放しにしとったやろう。その間に二人が捜しだしたはずや」
おい! ちょっとまて……
「ほう。で、どこにあったんだい?」
マナが皮肉を込めて言った事に、ミルは気が付いてない。
「それはな……どこにあるんや? ショコラ」
「知らない」
あたしは冷たく言い放った。
「……へ……あんたら、まだ見つけてへんのか?」
「うん」
「と、いうか基礎衛星の中には、そんな物なかったんですよ」
「あんたら………………………」
ミルはしばらく硬直した後、無言であたしとタルトにジェットパックを差し出した。
あたし達が装着したのを確認すると、マナの方を向き直り。
「マナはん。うちら急用ができましたんで、また今度お邪魔させていただきます。ほな、さいなら」
「またんかぁい!!」
わずかに残っていた森が変化し、巨大な蔦となって、空中に飛び立ったあたし達に襲いかかる。
だめだ、飛行船に近付けない。しかたなく、あたし達はクラウド・バスターの吸引口まで退避した。
ここまでは、蔦も近付けないが、中央水路の水が飽和状態になればここも危ない。
せめて、もっとたくさん水があれば……
近くの衛星〈カリスト〉〈ガニメド〉〈エウロパ〉にはたくさんあるのに……岩山の中にあるイオの水を利用できないかな?
だめよね。
そんなものじゃ、それこそ焼け石に……水……?
あたしは、ジッと岩山を見つめた。
あれって、火山性の岩よね……もしかして……
あたしは携帯を操作し〈ネフェリット〉のコンピューターにメールで指示を与えた。
「みんな。三分後に〈ネフェリット〉から援護射撃が来るわ。その隙に逃げるのよ」
「それしかないな」
三分後。あたし達が飛び立った直後に、天空から光の槍が降ってきた。狙いは……
「やめロオォォォ!」
マナは絶叫すると、ありったけの蔦を伸ばしターゲットをかばう。
やっぱり、そうか!
あたしはミル達からはぐれ、一路岩山を目指した。
背後から制止の声が聞こえるが、構っていられない。
今、躊躇したらマナに気付かれる。
「どこ行くの? ショコラ」
ディパックの中から、モルが問い掛ける。
「分かったのよ。CFC船の在処が。あの岩山よ」
「だって、あの岩山には穴を掘った跡は無かったんだろう」
「そうよ。岩山に穴を掘って、船を埋めたんじゃないわ。船は、最初から岩山の中にあったのよ」
そう、あたし達は根本的な勘違いをしていた。
五十年前、CFC船は基礎衛星に漂着したと考えていたが、本当はそこではなかった。船は五十年前にあって現在はないもの、衛星〈イオ〉に不時着したのだ。
衛星〈イオ〉は火山で有名な星。
おそらく船は、すぐに溶岩に飲み込まれてしまったのだろう。
「あの岩山の中心部には、小さな空洞あると言ってたわ。それって、きっと船のキャビンよ。溶岩に飲み込まれたのなら、船体自体は岩と密着してしまうから、レーダーでは分からないはずだわ」
そして、月日が経ち、軌道リング建設のために〈イオ〉は砕かれた。
岩塊の一つの中に船がある事に誰も気付かないまま、軌道リングに張り付けられたのだ。それがあの岩山だ。
「あたしも、確信はできなかったわ。だから、〈ネフェリット〉に、あの岩山を攻撃させたの。そしたら、マナは岩山をかばったわ。あそこにマナにとって大事な物がある証拠よ」
岩山まで、あと二百メートル。
マナはあたしに気が付いていない。
スイッチを押す。
反応無し。早すぎたか。
さらに、二百メートル進んでスイッチを押す。
何も起きない。
あたしの早とちりだったのか?
不安が込み上げてきた。
「そこで、何をしているうぅぅ!」
ヤバい! マナに気付かれた。
無数の蔦が、あたしの方に伸びてくる。
あたしは、ジェットパックを全開にした。
しかし蔦の伸びるスピードの方が速い。
早くも親指ほどの蔦があたしの足首に触れてきた。
一か八かスイッチオン。
三度目の正直!?
変化無し。
岩山の中央で、ついに追いつかれた。
両手両足を蔦に絡め取られる。
気持ち悪い。
再びスイッチオン。
「ぐぎゃアァァァ!!」
マナが咆哮を上げた。
振り向くと蔦がボロボロと崩れ、白い灰となっていく。
やった! 大成功!!
「ミル。ワープ機関は停止したわ。クラウド・バスターを止めて。このままじゃ教授達が近付けない」
同時にシールドに掛かっていた圧力が消える。
上空を見上げると、レイピア王女の飛行船が浮かんでいた。
なんで?
「何者だ?」
巨人は問い掛けた。
「私はエル・ドラドの王女レイピア」
「エル・ドラドの王女が何の用だ?」
「決まっている。イタズラ精霊を封じ込めに来た」
「ふん! やれるものなら、やってみろ! 今の僕は昔の様にはいかないぞ」
巨人は飛行船に襲いかかる。飛行船の下部からバルカン砲が火を吹いた。弾丸を浴びた巨人は瞬く間に消えていく。
どうやら、これもバイオンを吸収する、何らかのEMを弾頭に使っているのだろう。
竜が飛行船に近付いた。
いけない! このままじゃ攻撃されちゃう。
だが、そうはならなかった。
「レイピア君。元気だったかね?」
竜の上から、教授がフレンドリーに声を掛けた。
どういう事?
「先生。ご無沙汰しておりました」
「ヤッホー! 先生、うちも元気やでえ!!」
聞き覚えのある脳天気な声が、森の上空を響き渡る。
「おお! 竹ノ内君、君はいつも元気だね」
「元気が取り柄」
それってアホってことじゃないの?
「とりあえず、うちらは従姉妹逹と合流しますよって」
「うむ。頑張りたまえ」
ジェットパックを背負った人影が数体、飛行船を離れた。
「ああ!!」
唐突に、タルトが素頓狂な声をあげる。
「思い出した! レイピア王女って、どっかで会ったような気がすると思っていたら、あの人、親父の教え子の一人だ」
「え? そうなの。でも、ミルとは時期が違っていたんじゃ……」
「とんでもない! あの二人が、仲良く家へレポート提出に来たのを、僕は何度も目撃している。明らかに友達だ。あの二人」
「じゃあ、あたし達、かつがれてたのぉ!?」
ジェットパックを背負ったミルが地面に降りたった。
「やっほー! ショコラにタルト。元気にしとったかあ!」
ミルの脳天気な声が、今ほどあたしの脳細胞を逆撫でした事はなかった。
「ミルゥゥー」
「な……なんや……二人とも怖い顔して………あ!」
ミルはササッとレイピア王女の後に隠れた。
「うちは、レイちゃんの人質なんや。はよ。助けに来てんか」
わざとらしい。
「ばれてるよ。竹ノ内」
レイピア王女は冷たく言い放つ。
「やっぱし。ははは!」
「『ははは!』じゃないわよ!!」
「説明して下さい!」
あたし達はミルに詰め寄った。
「いや……二人を騙した事は、悪いと思っとる。だから……堪忍や」
ミルは突然、土下座して謝った。
「わー! ミルさん!! やめて下さい。そこまでしなくていいです。僕はミルさんさえ無事だったらそれで……」
タルトは慌ててミルを引き起こした。
「ほな、許してくれるか?」
「許します! 許しますから。頭上げて下さい」
「ほな、頭上げたるから、あっちも説得してんか」
と言って、あたしの方を指差す。
てめえでやれよ!
「なあ、ショコラ」
タルトもタルトよ。
いくら惚れてる女だからって、言いなりにならないでよね。
「いや! 絶対許さない。頭下げたって、土下座したって、五体投地礼したって許せない」
「許さなくてもいい。ただ、怒るのは、あれを何とかしてからにしようよ」
顔を上げたあたしの目に『あれ』が映る。
何体もの巨人がのしのしと歩く姿が。
竜が火を吹き、飛行船がEM弾頭を発射して巨人を倒していくが、倒す側から再び巨人が復活する。切りがない。
「ミル。このままじゃジリ貧だよ」
「心配ないて。もうすぐモンブランが秘密兵器を持ってきてくれる」
ミルがそう言った直後、ドーン! という音が響き、やがて火の玉が現れた。大気圏突入カプセルだ!
やがて、十分に減速したところでカプセルはパラシュートを開いた。地表に降りると同時にカプセルはカパッと二つに割れ、中から妙な物体が現れる。
不格好な対空砲のような物体……いや、対空砲というよりも、ただ鉄パイプを並べただけの装置みたいだけど……
「なんのつもりだ!? そんな不細工な大砲で、僕をどうにかできると思っているのか?」
巨人が叫んだ。
「あいにくと、大砲ではないんや。先生!! 退避して下さい」
「待つんだ。竹ノ内君」
竜が降下してきた。
「キャサリン君! 死にたくなければ一緒に来るんだ」
呆気に取られるキャサリンを竜に乗せると、教授は飛び立った。
しばらくして。
『竹ノ内君。もういいぞ。やってくれ』携帯で教授が言ってきた。
「おおっし! モンブラン! クラウド・バスター作動や!!」
クラウド・バスターだって!?
『ラジャー!』
携帯から返事が来た直後、突然、巨人達が苦しみ始めた。体中が色を失ったと思うと白い灰となって消えてしまう。
巨人だけじゃない。森の木々も急速に消えていき中心部の岩山がむき出しになった。
岩山だけは、普通の物質でできているから変化がないんだ。
「な……なんだこれは?」
くぐもったマナの声が響いた。かなり苦しそうだ。
すでに森の八割近くが消えてしまい、もはや巨人を作る力はないみたいね。
「きさま! いったい何をした!?」
「これはな、今から二百年前にウィルヘルム・ライヒが開発した対タルポイド兵器、クラウド・バスターや!!」
「何が、対タルポイド兵器よ。ライヒは元々気象制御のために作ったのよ」
大威張りで言うミルの横から、レイピア王女がボソッと突っ込みを入れた。
「ええやないの。実際にライヒは、これでUFOやっつけたんやで」
クラウド・バスターって、この前ウィルヘルム・ライヒの資料を調べた時に見たっけ。確か鉄パイプとケーブルを組み合わせた簡単な装置で、大気中のオルゴンを吸収し水中へ逃がす装置だとか。
ライヒは、これで雲を消したり出したりしたので『雲 破壊器』と名付けた。
そして、ある夜、当時のアメリカを騒がしていたタルポイド=UFOにこれを向けたところ、たちまちのうちにUFOは光を失ったというが……
「ば……ばかな。確かに二百年前にそいつにやられたが」
あ! こいつだったんだ。その時のUFO。
「こんな威力はなかっはずだ」
そうか。二百年前に衰弱して帰ってきたのは、そういう事情があったんだ。
「二百年分の技術革新て奴や。鉄パイプにはEMをコーティングし、細部にはアヌンナキの技術を取り入れてある。吸引力は当時の二万倍や!! 恐れ入ったか!」
「なに、威張っているのよ。あれは先生が設計したものを、〈エル・ドラド〉の科学省で製造したのよ」
「冷たいなあ、レイちゃん。うちら親友やないか」
「悪友よ」
「なに言うてまんねん。学生時代はレポート提出のために一緒にドロ……」
「遠慮することないわ! あなたと私の仲じゃないの」
なんか、この二人、ヨコシマな秘密を共有しているわね。
「なめるなよ! 人間ども。確かに装置は強化されているが、ここには地球ほど大量の水はない。中央水路の水など、ものの数十分で飽和状態にしてくれる」
「その前に、ワープ機関を停止させてジ・エンドやな」
「こんな短時間で、見付けられるものか」
「アホやな、もうとっくに見付かっとるわ」
え?
「なんのために大袈裟な演技をして、タルトとショコラを先に行かせたと思う? この二人の心を読んで、こっちにタルポイド対策がないと判断したあんたは、油断してこの二人を野放しにしとったやろう。その間に二人が捜しだしたはずや」
おい! ちょっとまて……
「ほう。で、どこにあったんだい?」
マナが皮肉を込めて言った事に、ミルは気が付いてない。
「それはな……どこにあるんや? ショコラ」
「知らない」
あたしは冷たく言い放った。
「……へ……あんたら、まだ見つけてへんのか?」
「うん」
「と、いうか基礎衛星の中には、そんな物なかったんですよ」
「あんたら………………………」
ミルはしばらく硬直した後、無言であたしとタルトにジェットパックを差し出した。
あたし達が装着したのを確認すると、マナの方を向き直り。
「マナはん。うちら急用ができましたんで、また今度お邪魔させていただきます。ほな、さいなら」
「またんかぁい!!」
わずかに残っていた森が変化し、巨大な蔦となって、空中に飛び立ったあたし達に襲いかかる。
だめだ、飛行船に近付けない。しかたなく、あたし達はクラウド・バスターの吸引口まで退避した。
ここまでは、蔦も近付けないが、中央水路の水が飽和状態になればここも危ない。
せめて、もっとたくさん水があれば……
近くの衛星〈カリスト〉〈ガニメド〉〈エウロパ〉にはたくさんあるのに……岩山の中にあるイオの水を利用できないかな?
だめよね。
そんなものじゃ、それこそ焼け石に……水……?
あたしは、ジッと岩山を見つめた。
あれって、火山性の岩よね……もしかして……
あたしは携帯を操作し〈ネフェリット〉のコンピューターにメールで指示を与えた。
「みんな。三分後に〈ネフェリット〉から援護射撃が来るわ。その隙に逃げるのよ」
「それしかないな」
三分後。あたし達が飛び立った直後に、天空から光の槍が降ってきた。狙いは……
「やめロオォォォ!」
マナは絶叫すると、ありったけの蔦を伸ばしターゲットをかばう。
やっぱり、そうか!
あたしはミル達からはぐれ、一路岩山を目指した。
背後から制止の声が聞こえるが、構っていられない。
今、躊躇したらマナに気付かれる。
「どこ行くの? ショコラ」
ディパックの中から、モルが問い掛ける。
「分かったのよ。CFC船の在処が。あの岩山よ」
「だって、あの岩山には穴を掘った跡は無かったんだろう」
「そうよ。岩山に穴を掘って、船を埋めたんじゃないわ。船は、最初から岩山の中にあったのよ」
そう、あたし達は根本的な勘違いをしていた。
五十年前、CFC船は基礎衛星に漂着したと考えていたが、本当はそこではなかった。船は五十年前にあって現在はないもの、衛星〈イオ〉に不時着したのだ。
衛星〈イオ〉は火山で有名な星。
おそらく船は、すぐに溶岩に飲み込まれてしまったのだろう。
「あの岩山の中心部には、小さな空洞あると言ってたわ。それって、きっと船のキャビンよ。溶岩に飲み込まれたのなら、船体自体は岩と密着してしまうから、レーダーでは分からないはずだわ」
そして、月日が経ち、軌道リング建設のために〈イオ〉は砕かれた。
岩塊の一つの中に船がある事に誰も気付かないまま、軌道リングに張り付けられたのだ。それがあの岩山だ。
「あたしも、確信はできなかったわ。だから、〈ネフェリット〉に、あの岩山を攻撃させたの。そしたら、マナは岩山をかばったわ。あそこにマナにとって大事な物がある証拠よ」
岩山まで、あと二百メートル。
マナはあたしに気が付いていない。
スイッチを押す。
反応無し。早すぎたか。
さらに、二百メートル進んでスイッチを押す。
何も起きない。
あたしの早とちりだったのか?
不安が込み上げてきた。
「そこで、何をしているうぅぅ!」
ヤバい! マナに気付かれた。
無数の蔦が、あたしの方に伸びてくる。
あたしは、ジェットパックを全開にした。
しかし蔦の伸びるスピードの方が速い。
早くも親指ほどの蔦があたしの足首に触れてきた。
一か八かスイッチオン。
三度目の正直!?
変化無し。
岩山の中央で、ついに追いつかれた。
両手両足を蔦に絡め取られる。
気持ち悪い。
再びスイッチオン。
「ぐぎゃアァァァ!!」
マナが咆哮を上げた。
振り向くと蔦がボロボロと崩れ、白い灰となっていく。
やった! 大成功!!
「ミル。ワープ機関は停止したわ。クラウド・バスターを止めて。このままじゃ教授達が近付けない」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

ゾンビのプロ セイヴィングロード
石井アドリー
SF
『丘口知夏』は地獄の三日間を独りで逃げ延びていた。
その道中で百貨店の屋上に住む集団に救われたものの、安息の日々は長く続かなかった。
梯子を昇れる個体が現れたことで、ついに屋上の中へ地獄が流れ込んでいく。
信頼していた人までもがゾンビとなった。大切な屋上が崩壊していく。彼女は何もかも諦めかけていた。
「俺はゾンビのプロだ」
自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はアクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。
知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。
その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。
数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。
ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる