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森の主
*帰らずの森*〈ショコラ〉
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「実は、そうしてたんだけど」
あたしはつぶやきながら、携帯映話のスイッチを切った。
タルトの携帯映話を通じて今の会話を聞いていたのだ。
視線を前に戻すとそこに森がある。一見すると普通の広葉樹林だ。
これが、荒涼とした砂漠のど真ん中にあるのでなければ、なんの不思議もなかったろう。バイクを走らせ近付いてみると、森と砂漠の境界はナイフで切り取られたように明確に分けられているのが分かる。まるで、見えない壁に分けられているようだ。
境界の外には下草一本生えていないのに、内側は青碧とした木々が生い茂っている。
「ねえ、あれじゃないかな?」
フロントボックスの中からモルがそう言ってきたのは、バイクが森の周囲を四分の一周した時だった。モルが指差した方向に顔を向けると、コンクリート製の小屋が目に入る。
間違えない。軌道リングの点検口だ。ここから、基礎衛星の中に入れる。
スロットルを開きバイクのスピードを上げた。
小屋との距離がみるみる縮まる。小屋の前でバイクを停止させ、ヘルメットを外した。さらにメッシュ帽も脱ごうとすると。
「だめだよ。それを取っちゃ」
「どうして?」
「昨日も言ったけど、それにはプシトロン吸収剤がコーティングしてあるんだ。今ここでそれを取ったら、君から発したプシトロンパルスで森の主に感づかれる」
「しょうがないな」
あたしはヘルメットを被り直した。
「それは脱いでいいんだよ」
「いいの!! これで」
だって、メッシュの帽子だけだとみっともないんだもん。こんな事なら、タルトみたいにベレー帽も用意しておけば良かったわ。
あたしは二重の扉を開いた。
バイクごと小屋の中に入ると自動的に明かりが灯る。バイクを降りて、あたしはエレベーターの入り口に歩み寄った。
開閉スイッチを押そうとした時、不意にエレベーターの扉が開く。
エレベーターの中にいたのは……
あたしはつぶやきながら、携帯映話のスイッチを切った。
タルトの携帯映話を通じて今の会話を聞いていたのだ。
視線を前に戻すとそこに森がある。一見すると普通の広葉樹林だ。
これが、荒涼とした砂漠のど真ん中にあるのでなければ、なんの不思議もなかったろう。バイクを走らせ近付いてみると、森と砂漠の境界はナイフで切り取られたように明確に分けられているのが分かる。まるで、見えない壁に分けられているようだ。
境界の外には下草一本生えていないのに、内側は青碧とした木々が生い茂っている。
「ねえ、あれじゃないかな?」
フロントボックスの中からモルがそう言ってきたのは、バイクが森の周囲を四分の一周した時だった。モルが指差した方向に顔を向けると、コンクリート製の小屋が目に入る。
間違えない。軌道リングの点検口だ。ここから、基礎衛星の中に入れる。
スロットルを開きバイクのスピードを上げた。
小屋との距離がみるみる縮まる。小屋の前でバイクを停止させ、ヘルメットを外した。さらにメッシュ帽も脱ごうとすると。
「だめだよ。それを取っちゃ」
「どうして?」
「昨日も言ったけど、それにはプシトロン吸収剤がコーティングしてあるんだ。今ここでそれを取ったら、君から発したプシトロンパルスで森の主に感づかれる」
「しょうがないな」
あたしはヘルメットを被り直した。
「それは脱いでいいんだよ」
「いいの!! これで」
だって、メッシュの帽子だけだとみっともないんだもん。こんな事なら、タルトみたいにベレー帽も用意しておけば良かったわ。
あたしは二重の扉を開いた。
バイクごと小屋の中に入ると自動的に明かりが灯る。バイクを降りて、あたしはエレベーターの入り口に歩み寄った。
開閉スイッチを押そうとした時、不意にエレベーターの扉が開く。
エレベーターの中にいたのは……
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