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森の主
アイデスの町〈ショコラ〉4
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「罠って? どういう事?」
「なんで親父は、こんな回りくどい事をしてCFC船を捜していたと思う?」
「さあ?」
「親父は以前に、他の手掛かりからもCFC船を捜していた。だが、どれも失敗している」
「それで?」
「誰かが親父を妨害していた。そう考えられないだろうか?」
「そう言われてみれば……」
「親父が、僕らとの接触を必要最小限に止めていたのは、その妨害者に僕らの動きを悟られないためだったのかもしれない。だけど、何者かは分からないが、その妨害者は、僕らの動きに気が付いた。そこで、僕らの動きを探ろうとしている」
「じゃあキャサリンさんが……」
「おそらく……」
「でもねえ、考えすぎじゃないかな」
「さっき、僕は彼女と軽く自己紹介をし合った。だけど、僕は自分の歳は言わなかった。なのに、あの人は僕が十八だと知っていた。いかにも偶然を装って、僕と出会ったような顔をしていたが、彼女は最初から僕が……宮下邦夫の息子が来るのを待っていたんだ」
「何のために?」
「CFC船に積んであるワープ機関を、探し出されて困る奴って誰だと思う?」
「ううん……あんなものが見つかって、誰が困るんだろう?」
「横取りしたいのならともかく、探し出されて困る人間はいないはずだ。人間は……モル。おまえさっきから黙ってるけど、本当は知っているんじゃないのか?」
「まあね。君こそ、その口ぶりだと、心当たりがあるんじゃないの? 相手は人間じゃないって」
人間じゃないって……?
「ちょっと! 二人だけで分かったような事言ってないで、あたしにも説明してよ!!」
「ショコラ。覚えているか? キャサリンが言ってた『森の主』」
「うん。でも、それって嘘臭くない?」
「ああ。だけど、あの森には確かに主がいる。過去のワープ実験でタルポイドが起きた時は、それこそ無秩序に疑似物質が出現消滅を繰り返したらしい。それに対して、あの森は安定している。常に同じ樹木が存在しているし、新たな物質出現も起きてる様子がない。つまり、あの森にはタルポイドを自在に制御する存在がいるんだ」
「それが、森の主? でも、タルポイドを制御するなんてことができるの?」
「平安時代の陰陽師安倍晴明は、タルポイドで生み出した鬼を使役していた。また、二十世紀ロングアイランドでのワープ実験の時には、ダンカン・キャメロンという超能力者がタルポイドを制御している。だけど、最終的にはキャメロンは失敗した。一人の人間の情報処理能力を、遥かに上回る量の想念を、キャメロン一人で制御しようとした結果だ」
「そう言えば、ミルが言ってたわね。アヌンナキは精神生命体を作って、タルポイドを制御してたって。モル、それって本当なの?」
「半分は正しいけど、半分は間違っているね。誰がそんな記述を残したのか知らないけど、精神生命体を作ったというのは嘘だ。あれは度重なるワープ実験失敗の結果、たまたま現れた存在であって、意図して作ったんじゃない。ただし、その精神生命体……僕達は、あれを『マナ』と呼んでいたけど……にタルポイドを制御させていたというのは本当だよ。と言っても、たった一体しかいないマナで複数の船のワープ機関の面倒を見るなんてできないから、地球と〈エル・ドラド〉の間に作ったワープトンネルの制御をさせていた」
「マナ!? それって、やっぱり〈エル・ドラド〉のマナ神なの?」
「それは分からないよ。僕が遭難したのは、その伝説が生まれるよりも前なんだよ」
「そっか。じゃあ、そのマナってどうして現れたの?」
「マナの正体は、ワープ実験の犠牲者達だよ。非物質化したまま元に戻れなくなった犠牲者達が、異空間で融合していき、やがて一つの存在になってしまった。それが『マナ』さ。アヌンナキは、マナと取引してワープトンネルの制御をさせていたんだ。その代償はマナを元の体に戻す事」
「そんな事できるの?」
「〈ト・ポロ〉には、異空間に消えた人達をサルベージする機材も積んであったんだよ。船と一緒に買ってきたんだ」
「ひょっとして、アヌンナキ文明消失の原因って、〈ト・ポロ〉の事故で約束が果たされなかったマナが、怒って暴れたせいじゃないのか?」
「う!」
モルが硬直した。
「よしなよタルト。モルをイヂめるのは」
「いや、別にイヂめている分けじゃ……」
「そ……そんな筈ないよ。例えマナが怒ったとしても、マナを封じ込めるための準備はちゃんとしてあったんだから。文明消失はきっと他に原因があるんだよ。うん」
「それはいいとして、『森の主』もマナみたいな精神生命体だとすると、それがどうして、ワープ機関を探し出されて困る分け?」
「簡単な事さ。そういう存在にとって、半稼働状態のワープ機関は格好のエネルギー源だからね。見つかって止められたら、森の主は物質世界に干渉できなくなる」
「だけどさあ、森の主はこの世界に干渉してなにがおもしろいんだろう?」
「そんなの分からないよ。精神生命体のメンタリティなんてさ」
「ところで、明日はどうする? 森に行くとしてもタルポイドに対する対策はあるの?」
「ああ。二人ともこれを被って」
モルはバスケットから白いメッシュ状の帽子を出した。
「なにこれ?」
あたしとタルトは水泳帽のような帽子を、被りながら聞いた。
「この帽子には、僕が留学先で買って来たプシトロン吸収剤が含まれてる。これを頭に被っていれば、君達の頭から出ているプシトロンパルスの九九パーセントは吸収できるはずだ」
「留学先って? それじゃあ、それはモルの救命カプセルに入っていたの?」
「ああ。この帽子のために半分は使ってしまった。くれぐれも、大切にしてよ。もう、同じ物は手に入らないんだから。それとこれを」
モルは小さな黒い箱を取り出した。金属製の箱には小さなボタンが一つだけ付いている。
「ワープ機関の緊急停止装置。機関が暴走した時に、いつでも止められるように、こうゆうのも用意されていた。一応、壊れていないか〈ネフィリット〉でチェックしたけど、問題はなかった」
「しかし、こんな物かぶっていたら、怪しまれないか?」
「ああ、だから上から別の帽子を被っていて」
「なんで親父は、こんな回りくどい事をしてCFC船を捜していたと思う?」
「さあ?」
「親父は以前に、他の手掛かりからもCFC船を捜していた。だが、どれも失敗している」
「それで?」
「誰かが親父を妨害していた。そう考えられないだろうか?」
「そう言われてみれば……」
「親父が、僕らとの接触を必要最小限に止めていたのは、その妨害者に僕らの動きを悟られないためだったのかもしれない。だけど、何者かは分からないが、その妨害者は、僕らの動きに気が付いた。そこで、僕らの動きを探ろうとしている」
「じゃあキャサリンさんが……」
「おそらく……」
「でもねえ、考えすぎじゃないかな」
「さっき、僕は彼女と軽く自己紹介をし合った。だけど、僕は自分の歳は言わなかった。なのに、あの人は僕が十八だと知っていた。いかにも偶然を装って、僕と出会ったような顔をしていたが、彼女は最初から僕が……宮下邦夫の息子が来るのを待っていたんだ」
「何のために?」
「CFC船に積んであるワープ機関を、探し出されて困る奴って誰だと思う?」
「ううん……あんなものが見つかって、誰が困るんだろう?」
「横取りしたいのならともかく、探し出されて困る人間はいないはずだ。人間は……モル。おまえさっきから黙ってるけど、本当は知っているんじゃないのか?」
「まあね。君こそ、その口ぶりだと、心当たりがあるんじゃないの? 相手は人間じゃないって」
人間じゃないって……?
「ちょっと! 二人だけで分かったような事言ってないで、あたしにも説明してよ!!」
「ショコラ。覚えているか? キャサリンが言ってた『森の主』」
「うん。でも、それって嘘臭くない?」
「ああ。だけど、あの森には確かに主がいる。過去のワープ実験でタルポイドが起きた時は、それこそ無秩序に疑似物質が出現消滅を繰り返したらしい。それに対して、あの森は安定している。常に同じ樹木が存在しているし、新たな物質出現も起きてる様子がない。つまり、あの森にはタルポイドを自在に制御する存在がいるんだ」
「それが、森の主? でも、タルポイドを制御するなんてことができるの?」
「平安時代の陰陽師安倍晴明は、タルポイドで生み出した鬼を使役していた。また、二十世紀ロングアイランドでのワープ実験の時には、ダンカン・キャメロンという超能力者がタルポイドを制御している。だけど、最終的にはキャメロンは失敗した。一人の人間の情報処理能力を、遥かに上回る量の想念を、キャメロン一人で制御しようとした結果だ」
「そう言えば、ミルが言ってたわね。アヌンナキは精神生命体を作って、タルポイドを制御してたって。モル、それって本当なの?」
「半分は正しいけど、半分は間違っているね。誰がそんな記述を残したのか知らないけど、精神生命体を作ったというのは嘘だ。あれは度重なるワープ実験失敗の結果、たまたま現れた存在であって、意図して作ったんじゃない。ただし、その精神生命体……僕達は、あれを『マナ』と呼んでいたけど……にタルポイドを制御させていたというのは本当だよ。と言っても、たった一体しかいないマナで複数の船のワープ機関の面倒を見るなんてできないから、地球と〈エル・ドラド〉の間に作ったワープトンネルの制御をさせていた」
「マナ!? それって、やっぱり〈エル・ドラド〉のマナ神なの?」
「それは分からないよ。僕が遭難したのは、その伝説が生まれるよりも前なんだよ」
「そっか。じゃあ、そのマナってどうして現れたの?」
「マナの正体は、ワープ実験の犠牲者達だよ。非物質化したまま元に戻れなくなった犠牲者達が、異空間で融合していき、やがて一つの存在になってしまった。それが『マナ』さ。アヌンナキは、マナと取引してワープトンネルの制御をさせていたんだ。その代償はマナを元の体に戻す事」
「そんな事できるの?」
「〈ト・ポロ〉には、異空間に消えた人達をサルベージする機材も積んであったんだよ。船と一緒に買ってきたんだ」
「ひょっとして、アヌンナキ文明消失の原因って、〈ト・ポロ〉の事故で約束が果たされなかったマナが、怒って暴れたせいじゃないのか?」
「う!」
モルが硬直した。
「よしなよタルト。モルをイヂめるのは」
「いや、別にイヂめている分けじゃ……」
「そ……そんな筈ないよ。例えマナが怒ったとしても、マナを封じ込めるための準備はちゃんとしてあったんだから。文明消失はきっと他に原因があるんだよ。うん」
「それはいいとして、『森の主』もマナみたいな精神生命体だとすると、それがどうして、ワープ機関を探し出されて困る分け?」
「簡単な事さ。そういう存在にとって、半稼働状態のワープ機関は格好のエネルギー源だからね。見つかって止められたら、森の主は物質世界に干渉できなくなる」
「だけどさあ、森の主はこの世界に干渉してなにがおもしろいんだろう?」
「そんなの分からないよ。精神生命体のメンタリティなんてさ」
「ところで、明日はどうする? 森に行くとしてもタルポイドに対する対策はあるの?」
「ああ。二人ともこれを被って」
モルはバスケットから白いメッシュ状の帽子を出した。
「なにこれ?」
あたしとタルトは水泳帽のような帽子を、被りながら聞いた。
「この帽子には、僕が留学先で買って来たプシトロン吸収剤が含まれてる。これを頭に被っていれば、君達の頭から出ているプシトロンパルスの九九パーセントは吸収できるはずだ」
「留学先って? それじゃあ、それはモルの救命カプセルに入っていたの?」
「ああ。この帽子のために半分は使ってしまった。くれぐれも、大切にしてよ。もう、同じ物は手に入らないんだから。それとこれを」
モルは小さな黒い箱を取り出した。金属製の箱には小さなボタンが一つだけ付いている。
「ワープ機関の緊急停止装置。機関が暴走した時に、いつでも止められるように、こうゆうのも用意されていた。一応、壊れていないか〈ネフィリット〉でチェックしたけど、問題はなかった」
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