怪盗ミルフィーユ

津嶋朋靖(つしまともやす)

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森の主

アイデスの町〈ショコラ〉3

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 パソコンのディスプレーに木星を中心に三つのリングが回っている様子が表示される。
 スープラマンデーンの三次元CAD図面だ。
「赤道上空を回っているのが、僕達のいる赤道リング。それと交差しているように回っているのが、来年オープン予定の第一極軌道リングと第二極軌道リング。これらを総称してスープラマンデーンという」
 タルトはパソコンを操作し、小さな点しか映っていない部分をウインドウで囲んで拡大した。拡大しても点しか映っていない。
 それをさらに囲んで拡大する。五・六回繰り返すと点はやがて、両端に膨らみのある長方形の物体になった。
「これは建設中の第三極軌道リングの基礎衛星。これと同じ物を同一軌道上に多数浮かべて、繋ぎ合わせて軌道リングを作るわけだ」
「これって、どのくらいの大きさなの?」
「長さは五百キロ。幅は百メートル。両端にある球体は直径二百メートル。これと同じ物が、僕らのいる軌道リングの下に埋まっている」
 タルトは画面を全図に戻すと、今度は赤道リングの一部を拡大した。
「CADには森は表示されていないが、これはあの森の真下なんだ」
 さっきの基礎衛星と同じ物が、軌道リングに組み込まれていた。
 両端の球体には、太いパイプがはめ込まれている。直方体の部分にも、等間隔で小さなパイプがはめ込まれていた。
 この中を液体金属が循環することによって生じる遠心力が人工大地を支えている。
「この中の、どこかにCFCの船があるのね。でも、いくら基礎衛星が大きくたって、船を隠す場所なんてあるの?」
「ああ。基礎衛星は可能な限りローコストで作られている。余計な物は一切ない。中は空洞だらけだ」
「でも、コンピューターぐらい付いてるでしょ」
「姿勢制御のためのコンピューターはあるが、侵入者を感知するシステムなんてない。おそらく、船はパイプを繋ぐための穴から侵入して、内部の空洞に隠されたんだろう。ただし、空洞だらけといっても内部には仕切りがあって、船を隠せる場所は限られてくる。森の近くで、パイプに隣接する船を隠せるくらいの大きさの区画を検索すると……」
 三つの区画が赤く染まった。
「この三カ所のどこかに、船はある」
「でもさ、タルト。船の事は二の次じゃなかったの?」
「ああ。もちろんミルさんを助ける事が先決だ。でも、おそらく船を無視して森には近付けないと思う」
「どうして?」
「説明しよう」タルトの代わりにモルが答えた。「タルトの考えは正しいよ。君らの話だと森の中でタルポイド現象が起きているそうだね。という事は〈ト・ポロ〉から外された、ワープ機関がCFC船の中で半稼働状態になっていると考えられるんだ」
「それは分かるんだけど、それって、そんなに危険な事なの?」
「危険も何も現にそのために、ワープ実験の度に大惨事が起きているんじゃないか」
「その通り。アヌンナキがワープ機関を使えなかったのも、それが原因さ。まあ、確かにタルポイド現象なんて一見大した事ないように思えるけど、考えてみてほしい。君達は百五十年前に、コンピューターの音声認識ソフトを開発しているが、思考認識ソフトはいまだに開発されていないのはなんでだい?」
「それは違う。思考認識ソフトはとっくに開発されているけど、それを使いこなせる人がいないだけだ」
「その原因は?」
「人の雑多な思考を、コンピューターが読み取ってしまうため」
「そう。そしてタルポイド現象も人の雑多な思考を実体化させてしまう。例えば、隣を歩いている人に一瞬殺意を覚えたとしよう。ハッと気が付いた時にはもう遅い。隣の人の心臓に深々とナイフが刺さっていたりする。まあ、それは分かりやすい例で恐ろしいのは人の潜在意識だよ。人の潜在意識に潜む恐怖が実体化したりしたら、手が付けられない。アヌンナキが実験をやった時には、無数の怪物が現れて、有人惑星が一つ壊滅したなんて事があったし、恒星間空間で実験をやった時なんか、実験場に超新星やブラックホールが出現するなんて事もざらだった」
「そ……それは凄まじい」
「でもさ、それじゃあ、キャサリンさんの言ってた事はどうなるわけ? あの森の中は、楽園だって言ってたじゃない」
「その事だけどさ」
 タルトは少し勿体をつけた。
「あの話は罠だ」 
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