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脱走! 脱走! 大脱走!!
*ネフェリット*〈ショコラ〉2
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バカ! バカ! バカ! ミルのバカ!
いいわよ! あたしに隠し事するなら、こっちで探り出してやるわ。
あたしは個室に入るなり、ドアをロックした。
気密ボックスを床に置き、ベッドに俯せになる。
考え事をする時いつもそうする。
ミルはいったい何を企んでるのか? ううん。さっぱり、分かんない。
分からないまま、時間だけが過ぎる。
だいたい、こんな彗星にミルはなんの用があるんだろう?
こっそり人と待ち合わせるのに、いい場所かもしれないけど、それなら他にいくらでもある。
こんな彗星に用があるのは、彗星の氷を切り出しに来るコメット・ハンターぐらいだし。いや、コメット・ハンターだって小惑星帯の内側に入った彗星では仕事をしないものだ。彼らにとって一番有望なのは、火星の近くを通る奴。うまい具合に彗星の軌道を変えて、火星の周回軌道に乗せれば、火星諸国が、彗星をまるごと買い取ってくれる。
あいにく、この彗星は火星の側は通らない。
金星の側は通るらしいが……
ん? 金星? あああ! まさか!?
あたしはガバッ! と跳ね起き、ディスクに向かった。
パソコンの電源を入れる。
顔に眼鏡型ディスプレーのフェイス・マウンテッド・ディスプレーを装着し、両手にデータグローブを着けた。
この彗星のデータを呼び出す。
やっぱし!
この彗星、最初の軌道より少しずれてる。
爆薬かなにかで、軌道が変えられたんだ。
金星をかすめる軌道に……偶然だろうか?
いや、こんな偶然あるはずがない。でも、何のためにこんな事を……それに、軌道を変えたのはミルじゃない。軌道が変わった時期は、あたし達がまだ第二太陽系にいた頃だ。
「ショコラ。入って良いか?」
インターホンからミルの声が聞こえたのは、その時だった。
「だめ!」
「全部、話す」
「本当に?」
「ほんまや」
あたしはドアロックを解除し、ミルを部屋に入れた。
「なあ、ショコラ。うちがこれから言う事聞くからには、それなりの覚悟してもらうで。うちらが、これからやるのは……」
「脱獄幇助でしょ」ミルは絶句した。「その様子じゃ図星ね」
「何で……分かった?」
「この彗星は金星の側を通るわ。でも、そうなるように誰かが細工した」
「そうや」ミルはあっさりと認めた。もう少し、とぼけるかと思ったけど……「まあ、そうでもせんと、金星に近付けんからな」
そりゃそうでしょう。
金星は惑星まるごと監獄になっている。当然、警戒も厳しい。
無許可で近付く船には、無数のキラー衛星が待ち構えている。
地表に降りる手段は唯一つ。軌道上の要塞衛星〈太白〉と、マックスウエル山の宙港を結ぶスペースシャトル。ただし、地球や火星やタイタンで使うようなシャトルでは駄目だ。
硫酸雲を抜ける前に圧壊してしまう。
潜水艦並の耐圧殻に耐蝕コーティングを施した特製のシャトルでなければ、金星には降りられない。
「ミル。こんな事やめて! あたしとの約束を破る気?」
「約束?」
「忘れたの!?」
「忘れてへんで」
「それじゃあ……」……はっ! 確かに、ミルは約束を破ってはいない。ミルは泥棒はやらないと言った。だけど、脱獄幇助はやらないと言っていない。
言ってはいないけど、ふつうやるかよ!
「今回は名乗りを上げへんから、怪盗ミルフィーユはやってへんし、ショコラとの約束通り、盗みはやらんから問題ないやろ」
「大ありよ!! 泥棒の方がまだましだわ」
「じゃあ、これを止めたら、泥棒は再開していいんやな」
「どっちも駄目!!」
「わがままな、やっちゃなあ」
「どっちが、わがままよ!? とにかく、なんのつもりか知らないけど、脱獄幇助なんて、やったら、只じゃ済まないわ」
「只じゃ済まないのは承知の上や」
「ミル!」
「でも、これはやめられん」
「なぜなの!?」
「実はな……」
不意にミルは深刻な顔になった。
「な……なんなの?」
どうしたんだろう?
ミルはそのまま悲壮な顔で黙り込んでしまった。
そうか。いくらミルが非常識でも、脱走幇助なんて、よほどの理由がなければやらないはず。
そりゃあ、ミルは酒乱だし、がさつだし、泥棒もやるけど、けっして根っからの悪人ではない。
きっと、これには、なにか深い事情があるんだ。
「一月前の事や。うちらは太陽系に入って真っ先に地球に行った。モンブランに留守を頼んで、うちとタルトだけで教授の家に行こうとしたんや」
「あたしが冷凍睡眠している間ね」
「そや。ところが船を出た途端に、待ち構えていた賞金稼ぎが、タルトを逮捕して行ったんや」
「なんだってえ!? ……だから……だから、あたしは泥棒なんて嫌だったのよ! いつかはこんな事になると……」
「落ち着き、ショコラ。別に怪盗ミルフィーユの事がばれた分けやない」
「じゃあ、なんでタルトが、逮捕されるのよ!? なんで?」
「すべて教授が仕組んだことなんや」
「教授が!?」
「タルトが逮捕されたのは冤罪や。別の指名手配犯のデータと、タ
ルトの個人データが入れ替えられたんや。教授の手によってな」
「でも、なんで自分の息子にそんなひどい事するの?」
「ショコラには話してなかったけど、あのカードの中に、プロテクトの掛けられたメッセージが入っていてな、そこに『オフィーリアの船』の調査結果が入っとったんや」
「何が、書いてあったの?」
「『オフィーリアの船』を盗み出したのは、CFCに雇われた宇宙海賊だと言う事まではこの前話したな。海賊が発掘隊の人達を皆殺しにした後、CFCの技術者がやって来て、ワープ機関だけを外して持って行ったんや。ところが、ワープ機関を積んだCFCの船は、木星付近で事故に遭い消息を断った。ただ、その船の船員が一人生き残っておる事を、教授は突きとめたんや。船員本人はもうお亡くなりになっとったが、死ぬ前に船の在処を一人の男に話しとる。それが現在金星刑務所に服役中のゴーダはんや。さっそく、先生は差し入れをぎょうさん持って金星に行ったんや。そして、ゴーダに尋ねたんや。だがゴーダは情報の見返りに、出所できるよう要求して来た」
「そんなの無理よ」
「でもな、先生は諦めんと地球連邦の偉いさんに掛け合って、なんとか仮出所させようとしたんや。その偉いさんが誰かは知らんが、いろいろ手を尽くしてくれたらしい。しかし、やっぱり仮出所なんて前例は作れんのや。しかたないので、警察には黙認させるから、脱獄させろと言われたそうや。まあ、司法取引みたいなもんやな」
「そんな、無茶な司法取引があるか!」
「うちに言うたってしゃあない。やったのは教授と偉いさんや。その偉いさんも、条件付きで認めたんや」
「条件て?」
「金星の刑務所では、囚人を使ってレア・メタルの採掘をやっとる。だけど、刑務所の誰かが、レア・メタルを横流ししとるらしいんや。その調査に協力するのが条件や。それで、交渉成立して、教授はいろいろと準備をしたんや。まずは金星仕様のシャトルを手に入れ、それから人を雇って、適当な彗星の軌道を変えて、金星をかすめるようにした。それが、今うちらのいる彗星や。後は、教授が刑務所へ行ってゴーダと繋ぎを取るついでに、横流しの犯人を探すだけやったが、その矢先に先生は病気になってしもて、お亡くなりになった」
「それで、代わりにタルトを、行かせようと仕組んだのね」
「そうや」
「あんまりだわ! それじゃあ、タルトがかわいそうよ。刑務所なんかに入れられたら、どんな目に会うか……」
「だから、うちもゴーダのおっちゃんには別の手で繋ぎを取る事にして、タルトの冤罪は先に晴らしてやるつもりやった。ところが、手を打つ前に、先走った賞金稼ぎにタルトが捕まってもうたんや」
「そんなあ、助けられなかったの!?」
「不覚やった。とにかく、これで分かったやろ。この計画、やめたらタルトを見殺しにする事になる」
あたし、ミルを誤解していたわ。ミルが脱走幇助なんて大それた事するのは、タルトを助けるためなのね。
そうよ、金が欲しいとか、面白いとか、浮ついた理由でミルがそんな事するはずないわ。でも……
「ミル、事情は分かったけど、やめて。危険すぎるわ。タルトだって冤罪で捕まったんだから、正規の手段でも助けられるはずよ」
「ええんかい。そんな、まどろっこしい事してて。刑務所って言ったら同性愛者の巣窟やで。そない所にタルトを長いこと置いといて、変や趣味でもうつったりしたら……」
「う……それは、イヤ。そういう漫画は好きだけど、身近な男の子にそういう趣味を持って欲しくない」
「そやろ。それに」ミルは少し勿体を付けた。「こんな面白い事、今更やめられるかい! それに、このお宝を手に入れれば、お金が一杯儲かるんやあぁぁ!!」
あたしは床に突っ伏した!
前言撤回。
そうだった。こういう、女だったんだ。
「ミルゥゥゥ!」
「なんや?」
「念ため聞くけど、タルトを助けるためじゃないの!?」
「それもある。お金が儲かって、ついでにタルトも助けられる。まさに一挙両得」
ついでにって……あんた!! 一瞬でも、こいつを尊敬したあたしが馬鹿だったわ。
「とにかく、やめて! お金と命と、どっちが大切なのよお!」
「どっちも」
「どっちか選んで! お願いだから」
「究極の選択ってやつやなあ」
「なぜ、命ってすぐに言えないの」
「まあ、心配せんでもええ。うちかて命は惜しい。いざとなったら、降伏する」
「やっぱり、やめようとか思わないわけ」
「思わん」
「降伏したって、逮捕されるわよ!」
「大丈夫。ショコラだけは逮捕されん」
「どうしてよ?」
「最初は、ショコラを地球に残していくつもりやったけど、冷凍睡眠装置の故障でできんかった。だから、このまま眠らしておいて罪を免れさせよ思た。だが、よりによって今のこの時期に、なぜか装置が直ってショコラが目覚めてしもうた。こうなった以上は……」 ミルは突然あたしに襲いかかってきた。
「なにすんのよう!?」
抗議する間もなく、ロープでグルグルに縛られる。
「ショコラは、うちへの協力を拒んだという設定や。万が一降伏した場合は、警官にそう言っとく」
「解いてよ!」
「我慢し。縛られとった方が説得力あるやろ。ほな、行ってくるでえ」
いいわよ! あたしに隠し事するなら、こっちで探り出してやるわ。
あたしは個室に入るなり、ドアをロックした。
気密ボックスを床に置き、ベッドに俯せになる。
考え事をする時いつもそうする。
ミルはいったい何を企んでるのか? ううん。さっぱり、分かんない。
分からないまま、時間だけが過ぎる。
だいたい、こんな彗星にミルはなんの用があるんだろう?
こっそり人と待ち合わせるのに、いい場所かもしれないけど、それなら他にいくらでもある。
こんな彗星に用があるのは、彗星の氷を切り出しに来るコメット・ハンターぐらいだし。いや、コメット・ハンターだって小惑星帯の内側に入った彗星では仕事をしないものだ。彼らにとって一番有望なのは、火星の近くを通る奴。うまい具合に彗星の軌道を変えて、火星の周回軌道に乗せれば、火星諸国が、彗星をまるごと買い取ってくれる。
あいにく、この彗星は火星の側は通らない。
金星の側は通るらしいが……
ん? 金星? あああ! まさか!?
あたしはガバッ! と跳ね起き、ディスクに向かった。
パソコンの電源を入れる。
顔に眼鏡型ディスプレーのフェイス・マウンテッド・ディスプレーを装着し、両手にデータグローブを着けた。
この彗星のデータを呼び出す。
やっぱし!
この彗星、最初の軌道より少しずれてる。
爆薬かなにかで、軌道が変えられたんだ。
金星をかすめる軌道に……偶然だろうか?
いや、こんな偶然あるはずがない。でも、何のためにこんな事を……それに、軌道を変えたのはミルじゃない。軌道が変わった時期は、あたし達がまだ第二太陽系にいた頃だ。
「ショコラ。入って良いか?」
インターホンからミルの声が聞こえたのは、その時だった。
「だめ!」
「全部、話す」
「本当に?」
「ほんまや」
あたしはドアロックを解除し、ミルを部屋に入れた。
「なあ、ショコラ。うちがこれから言う事聞くからには、それなりの覚悟してもらうで。うちらが、これからやるのは……」
「脱獄幇助でしょ」ミルは絶句した。「その様子じゃ図星ね」
「何で……分かった?」
「この彗星は金星の側を通るわ。でも、そうなるように誰かが細工した」
「そうや」ミルはあっさりと認めた。もう少し、とぼけるかと思ったけど……「まあ、そうでもせんと、金星に近付けんからな」
そりゃそうでしょう。
金星は惑星まるごと監獄になっている。当然、警戒も厳しい。
無許可で近付く船には、無数のキラー衛星が待ち構えている。
地表に降りる手段は唯一つ。軌道上の要塞衛星〈太白〉と、マックスウエル山の宙港を結ぶスペースシャトル。ただし、地球や火星やタイタンで使うようなシャトルでは駄目だ。
硫酸雲を抜ける前に圧壊してしまう。
潜水艦並の耐圧殻に耐蝕コーティングを施した特製のシャトルでなければ、金星には降りられない。
「ミル。こんな事やめて! あたしとの約束を破る気?」
「約束?」
「忘れたの!?」
「忘れてへんで」
「それじゃあ……」……はっ! 確かに、ミルは約束を破ってはいない。ミルは泥棒はやらないと言った。だけど、脱獄幇助はやらないと言っていない。
言ってはいないけど、ふつうやるかよ!
「今回は名乗りを上げへんから、怪盗ミルフィーユはやってへんし、ショコラとの約束通り、盗みはやらんから問題ないやろ」
「大ありよ!! 泥棒の方がまだましだわ」
「じゃあ、これを止めたら、泥棒は再開していいんやな」
「どっちも駄目!!」
「わがままな、やっちゃなあ」
「どっちが、わがままよ!? とにかく、なんのつもりか知らないけど、脱獄幇助なんて、やったら、只じゃ済まないわ」
「只じゃ済まないのは承知の上や」
「ミル!」
「でも、これはやめられん」
「なぜなの!?」
「実はな……」
不意にミルは深刻な顔になった。
「な……なんなの?」
どうしたんだろう?
ミルはそのまま悲壮な顔で黙り込んでしまった。
そうか。いくらミルが非常識でも、脱走幇助なんて、よほどの理由がなければやらないはず。
そりゃあ、ミルは酒乱だし、がさつだし、泥棒もやるけど、けっして根っからの悪人ではない。
きっと、これには、なにか深い事情があるんだ。
「一月前の事や。うちらは太陽系に入って真っ先に地球に行った。モンブランに留守を頼んで、うちとタルトだけで教授の家に行こうとしたんや」
「あたしが冷凍睡眠している間ね」
「そや。ところが船を出た途端に、待ち構えていた賞金稼ぎが、タルトを逮捕して行ったんや」
「なんだってえ!? ……だから……だから、あたしは泥棒なんて嫌だったのよ! いつかはこんな事になると……」
「落ち着き、ショコラ。別に怪盗ミルフィーユの事がばれた分けやない」
「じゃあ、なんでタルトが、逮捕されるのよ!? なんで?」
「すべて教授が仕組んだことなんや」
「教授が!?」
「タルトが逮捕されたのは冤罪や。別の指名手配犯のデータと、タ
ルトの個人データが入れ替えられたんや。教授の手によってな」
「でも、なんで自分の息子にそんなひどい事するの?」
「ショコラには話してなかったけど、あのカードの中に、プロテクトの掛けられたメッセージが入っていてな、そこに『オフィーリアの船』の調査結果が入っとったんや」
「何が、書いてあったの?」
「『オフィーリアの船』を盗み出したのは、CFCに雇われた宇宙海賊だと言う事まではこの前話したな。海賊が発掘隊の人達を皆殺しにした後、CFCの技術者がやって来て、ワープ機関だけを外して持って行ったんや。ところが、ワープ機関を積んだCFCの船は、木星付近で事故に遭い消息を断った。ただ、その船の船員が一人生き残っておる事を、教授は突きとめたんや。船員本人はもうお亡くなりになっとったが、死ぬ前に船の在処を一人の男に話しとる。それが現在金星刑務所に服役中のゴーダはんや。さっそく、先生は差し入れをぎょうさん持って金星に行ったんや。そして、ゴーダに尋ねたんや。だがゴーダは情報の見返りに、出所できるよう要求して来た」
「そんなの無理よ」
「でもな、先生は諦めんと地球連邦の偉いさんに掛け合って、なんとか仮出所させようとしたんや。その偉いさんが誰かは知らんが、いろいろ手を尽くしてくれたらしい。しかし、やっぱり仮出所なんて前例は作れんのや。しかたないので、警察には黙認させるから、脱獄させろと言われたそうや。まあ、司法取引みたいなもんやな」
「そんな、無茶な司法取引があるか!」
「うちに言うたってしゃあない。やったのは教授と偉いさんや。その偉いさんも、条件付きで認めたんや」
「条件て?」
「金星の刑務所では、囚人を使ってレア・メタルの採掘をやっとる。だけど、刑務所の誰かが、レア・メタルを横流ししとるらしいんや。その調査に協力するのが条件や。それで、交渉成立して、教授はいろいろと準備をしたんや。まずは金星仕様のシャトルを手に入れ、それから人を雇って、適当な彗星の軌道を変えて、金星をかすめるようにした。それが、今うちらのいる彗星や。後は、教授が刑務所へ行ってゴーダと繋ぎを取るついでに、横流しの犯人を探すだけやったが、その矢先に先生は病気になってしもて、お亡くなりになった」
「それで、代わりにタルトを、行かせようと仕組んだのね」
「そうや」
「あんまりだわ! それじゃあ、タルトがかわいそうよ。刑務所なんかに入れられたら、どんな目に会うか……」
「だから、うちもゴーダのおっちゃんには別の手で繋ぎを取る事にして、タルトの冤罪は先に晴らしてやるつもりやった。ところが、手を打つ前に、先走った賞金稼ぎにタルトが捕まってもうたんや」
「そんなあ、助けられなかったの!?」
「不覚やった。とにかく、これで分かったやろ。この計画、やめたらタルトを見殺しにする事になる」
あたし、ミルを誤解していたわ。ミルが脱走幇助なんて大それた事するのは、タルトを助けるためなのね。
そうよ、金が欲しいとか、面白いとか、浮ついた理由でミルがそんな事するはずないわ。でも……
「ミル、事情は分かったけど、やめて。危険すぎるわ。タルトだって冤罪で捕まったんだから、正規の手段でも助けられるはずよ」
「ええんかい。そんな、まどろっこしい事してて。刑務所って言ったら同性愛者の巣窟やで。そない所にタルトを長いこと置いといて、変や趣味でもうつったりしたら……」
「う……それは、イヤ。そういう漫画は好きだけど、身近な男の子にそういう趣味を持って欲しくない」
「そやろ。それに」ミルは少し勿体を付けた。「こんな面白い事、今更やめられるかい! それに、このお宝を手に入れれば、お金が一杯儲かるんやあぁぁ!!」
あたしは床に突っ伏した!
前言撤回。
そうだった。こういう、女だったんだ。
「ミルゥゥゥ!」
「なんや?」
「念ため聞くけど、タルトを助けるためじゃないの!?」
「それもある。お金が儲かって、ついでにタルトも助けられる。まさに一挙両得」
ついでにって……あんた!! 一瞬でも、こいつを尊敬したあたしが馬鹿だったわ。
「とにかく、やめて! お金と命と、どっちが大切なのよお!」
「どっちも」
「どっちか選んで! お願いだから」
「究極の選択ってやつやなあ」
「なぜ、命ってすぐに言えないの」
「まあ、心配せんでもええ。うちかて命は惜しい。いざとなったら、降伏する」
「やっぱり、やめようとか思わないわけ」
「思わん」
「降伏したって、逮捕されるわよ!」
「大丈夫。ショコラだけは逮捕されん」
「どうしてよ?」
「最初は、ショコラを地球に残していくつもりやったけど、冷凍睡眠装置の故障でできんかった。だから、このまま眠らしておいて罪を免れさせよ思た。だが、よりによって今のこの時期に、なぜか装置が直ってショコラが目覚めてしもうた。こうなった以上は……」 ミルは突然あたしに襲いかかってきた。
「なにすんのよう!?」
抗議する間もなく、ロープでグルグルに縛られる。
「ショコラは、うちへの協力を拒んだという設定や。万が一降伏した場合は、警官にそう言っとく」
「解いてよ!」
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