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脱走! 脱走! 大脱走!!
*恒星間空間*
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「あ……あの……用ってなんでしょう?」
思いっ切り緊張しまくった声にミルが振り向くと、ミルのプライベートルームの入り口に、期待と不安の入り交じった顔をしてタルトが立っている。
「おお! 来たか。まあ、入り、入り」
ミルは部屋の中から手招きした。
「そ……それでは、失礼します」
タルトは、コチコチに固まって右手と右足が同時に出てた。
「うちは、これから冷凍睡眠に入るさかい。その前に、話したい事があってな」
「はあ、そうですか」
「どないしてん? そんなカチカチになって」
「い……いえ……なんでも………」
「ははーん。分かっで」
「え!?」
タルトは、逃げ出したくなる気持ちを辛うじて堪えた。
「うちの部屋に入った所を、ショコラに見られるんやないかと心配しとるんやな」
タルトは一気に力が抜けた。「心配せんかて、ショコラは今、冷凍睡眠中や」
「なんで、僕がショコラを気にしなきゃいけないんですか」
少し怒気の籠った声でタルトは言う。
「そないなこと言うて、本当は好きなんとちゃうか?」
「ば……ばか言わないで下さいよ。第一、ショコラはまだ子供じゃないですか!」
「さよか。そりゃ残念やな」ミルは急に真面目な声で言った。「いや、なに。あの子、あんたに気があるみたいなんや」
「まっさか。それに、あの子、僕の事、馬鹿にしてるみたいだし。この前なんか、寝てる間に顔中に落書きされたし……」
「やれやれ、ダウザーはんも、こういう事は鈍いんやな。自慢の水晶振り子も、乙女心は読めんのかいな。それとも、他に誰か好きな女いるのか?」
「そ……それは」……あなたです。
とは言えず、タルトは真っ赤になって、口ごもった。
「まあ、ええ。今はその事で話があったわけやない。ちょいとオフィーリアの船について調べとったら妙な事が分かってな。それで、タルトに確認してもらいたいんや」
「オフィーリアの船?」
期待していたような色っぽい用件ではなかった事に、タルトは少々落胆する。
「調べたと言っても、〈ネフェリット〉のコンピューターの中にあるのは、公式発表だけや。それでも、いろいろと分かった。まず、これを見てみい」
ミルがリモコンを操作すると、壁面に埋め込まれた小さなディスプレーに映像が映った。一人の中年男性の顔だ。
「見覚えあるか?」
見覚えも何も、タルトにとってはお馴染みの人物である。
「親父が何か?」
「やっぱり、そう見えるか?」
「どういう事です?」
「その前に、タルトの親父さん。フルネームはなんていうんや?」
「宮下邦夫ですが」
「宮下というのは、お母さんの方の姓やないのか?」
「そうです。結婚前は……」
「大谷邦夫やないのか?」
「なんだ。知ってるじゃないですか」
「この写真は 大谷邦夫さんの写真や」
「結婚前の親父? それにしては、ずいぶんと老けてるな」
「五十年前の写真や」
「え?」
タルトは一瞬、ミルが何を言ったか理解できなかった。
「五十年前?」
「そうや」
「だって親父は、今年四十五……」
「オフィーリアの船の資料を元に、ワープ実験があった事は、この前話したな。この人は、その研究に携わっていた人や」
「そんな……馬鹿な?」
「うちかて驚いた。データベースからワープ実験の関係者を捜したら、その中に教授がおったんやからな。聞くだけ無駄や思うが、タルトに心当たりはあるか?」
「冗談じゃない! 正直言って、ミルさんが僕をからかっているとしか思えない」
「さよか。まあ、それはそれとして、もう一つ話があるんや。あのカードの中に、ショコラには見せられん事が書いてあったんや。それを見てもらうで」
数分後。
「さて、どうするかはタルトが決める事や。うちは無理強いせん。タルトが嫌なら、うちも手を引く。やる気やったら、全面的に協力する。ようく、考えてから決めるんやな」
タルトはこの時、生まれて初めて父親を心底恨んだ。
思いっ切り緊張しまくった声にミルが振り向くと、ミルのプライベートルームの入り口に、期待と不安の入り交じった顔をしてタルトが立っている。
「おお! 来たか。まあ、入り、入り」
ミルは部屋の中から手招きした。
「そ……それでは、失礼します」
タルトは、コチコチに固まって右手と右足が同時に出てた。
「うちは、これから冷凍睡眠に入るさかい。その前に、話したい事があってな」
「はあ、そうですか」
「どないしてん? そんなカチカチになって」
「い……いえ……なんでも………」
「ははーん。分かっで」
「え!?」
タルトは、逃げ出したくなる気持ちを辛うじて堪えた。
「うちの部屋に入った所を、ショコラに見られるんやないかと心配しとるんやな」
タルトは一気に力が抜けた。「心配せんかて、ショコラは今、冷凍睡眠中や」
「なんで、僕がショコラを気にしなきゃいけないんですか」
少し怒気の籠った声でタルトは言う。
「そないなこと言うて、本当は好きなんとちゃうか?」
「ば……ばか言わないで下さいよ。第一、ショコラはまだ子供じゃないですか!」
「さよか。そりゃ残念やな」ミルは急に真面目な声で言った。「いや、なに。あの子、あんたに気があるみたいなんや」
「まっさか。それに、あの子、僕の事、馬鹿にしてるみたいだし。この前なんか、寝てる間に顔中に落書きされたし……」
「やれやれ、ダウザーはんも、こういう事は鈍いんやな。自慢の水晶振り子も、乙女心は読めんのかいな。それとも、他に誰か好きな女いるのか?」
「そ……それは」……あなたです。
とは言えず、タルトは真っ赤になって、口ごもった。
「まあ、ええ。今はその事で話があったわけやない。ちょいとオフィーリアの船について調べとったら妙な事が分かってな。それで、タルトに確認してもらいたいんや」
「オフィーリアの船?」
期待していたような色っぽい用件ではなかった事に、タルトは少々落胆する。
「調べたと言っても、〈ネフェリット〉のコンピューターの中にあるのは、公式発表だけや。それでも、いろいろと分かった。まず、これを見てみい」
ミルがリモコンを操作すると、壁面に埋め込まれた小さなディスプレーに映像が映った。一人の中年男性の顔だ。
「見覚えあるか?」
見覚えも何も、タルトにとってはお馴染みの人物である。
「親父が何か?」
「やっぱり、そう見えるか?」
「どういう事です?」
「その前に、タルトの親父さん。フルネームはなんていうんや?」
「宮下邦夫ですが」
「宮下というのは、お母さんの方の姓やないのか?」
「そうです。結婚前は……」
「大谷邦夫やないのか?」
「なんだ。知ってるじゃないですか」
「この写真は 大谷邦夫さんの写真や」
「結婚前の親父? それにしては、ずいぶんと老けてるな」
「五十年前の写真や」
「え?」
タルトは一瞬、ミルが何を言ったか理解できなかった。
「五十年前?」
「そうや」
「だって親父は、今年四十五……」
「オフィーリアの船の資料を元に、ワープ実験があった事は、この前話したな。この人は、その研究に携わっていた人や」
「そんな……馬鹿な?」
「うちかて驚いた。データベースからワープ実験の関係者を捜したら、その中に教授がおったんやからな。聞くだけ無駄や思うが、タルトに心当たりはあるか?」
「冗談じゃない! 正直言って、ミルさんが僕をからかっているとしか思えない」
「さよか。まあ、それはそれとして、もう一つ話があるんや。あのカードの中に、ショコラには見せられん事が書いてあったんや。それを見てもらうで」
数分後。
「さて、どうするかはタルトが決める事や。うちは無理強いせん。タルトが嫌なら、うちも手を引く。やる気やったら、全面的に協力する。ようく、考えてから決めるんやな」
タルトはこの時、生まれて初めて父親を心底恨んだ。
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