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一人暮らしの男のための人形
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「お一人で暮らしているのですって? 食事とかどうされているのですか?」
「まあ、なんとかやっていますよ」
と、僕は作り笑顔で答えた。
それは会社帰りに立ち寄ったカフェでの事。
他の客たちと何気ない世間話をしている時、僕が古びた一軒家で一人暮らしをしている事を聞きつけた婆さんが、そんな事を聞いてきたのだ。
「まあ、男の人が大変ですね。早くお嫁さんもらわないと」
ええい、余計なお世話だ!!
だいたい男なら大変で、女だったら大変じゃないのか。
「ところで、お兄さんの家って、丘の上の一軒家と言っていましたわね。庭に大きな松の木がある……」
「ええ、そうですけど」
「前に住んでいた男の人は?」
どうやら、ご近所さんだったようだな。
「その人、僕の叔父です。先月事故で亡くなりまして、それで僕が相続することに……」
勤め先に近かった事もあり、叔父が急死しなければ下宿させてもらおうかとも考えていた矢先のことだった。
「まあ、そうでしたの。そういえば、あの家に娘さんいらっしゃったわね」
「え? 叔父はあの家に一人暮らししていたはずですが」
「でも、私見ましたよ。高校生ぐらいのお嬢さんがリビングにいるのを」
げ!? まさか、あれを見られたのか?
確かに、リビングならカーテンを閉めてなければ外から丸見えになる。
「そ……それはたぶん、ぼくの妹です。時々、叔父の身の回りの世話をしに……」
「妹さんでしたの? なんか可愛らしい恰好をしていましたね。その……秋葉原のカフェの女給が着るような……」
メイド服のことか。てか……女給って、この婆さん、明治生まれか?
本当言うと、僕に妹なんかいない。
しかし、ここで真実を話すといろいろと問題がある。とにかく、早くあれをなんとかしないと……
家に帰れば、今もあれはあるはずだ。
リビングのど真ん中にあるアームチェアに、無表情な顔で腰掛けるメイド服の少女。まるで、生きている人間のように見えるが人形である。
最初、この家に入ってこれを見つけた時、叔父が犯罪に手を染めてしまったのかと思い、慌てて警察に電話してしまった。
叔父が少女を監禁し、その叔父が外で交通事故に遭ってしまい、誰も面倒を見る人がいなくて餓死してしまったものかと……
警察が来てから人形と分かったが、以来僕はずっとこの人形と暮らしているのである。
部屋のインテリアと考えればいいかもしれないが、いくらなんでもこんな物を置いておくのは体裁が悪い。
だが、処分しようと思ったができなかった。
アームチェアから動かせないのだ。
まるで、椅子と一体化しているかのように……
では、椅子ごと動かそうとしたが、椅子は床と一体化していて無理だった。
一か月の間に、暇を見つけては人形を動かそうといろいろやったが、すべて徒労に終わった。
今朝になって、椅子の後ろに小さなレバーがあるのを見つけた。
もしや、これがストッパーなのではと思ってレバーを上げてみたが、やはり人形も椅子も全く動かない。
結局、そのまま僕は出社したのだった。
しばらくして、僕はカフェを出た。
バスの時間が近づいてきたからだ。
その前に、コンビニで買い物もしておきたい。
一人暮らしを始めて最初のうちは、僕もまめに自炊をしていた。
しかし、一人分の食事を作るというのは案外難しい。
作りすぎてしまったり、大量に買った食材を使い切らないうちに腐らせてしまうことが多かった。
結局、コンビニの弁当を買った方が安上がりだと気が付いたのは最近のこと……
「まあ、なんとかやっていますよ」
と、僕は作り笑顔で答えた。
それは会社帰りに立ち寄ったカフェでの事。
他の客たちと何気ない世間話をしている時、僕が古びた一軒家で一人暮らしをしている事を聞きつけた婆さんが、そんな事を聞いてきたのだ。
「まあ、男の人が大変ですね。早くお嫁さんもらわないと」
ええい、余計なお世話だ!!
だいたい男なら大変で、女だったら大変じゃないのか。
「ところで、お兄さんの家って、丘の上の一軒家と言っていましたわね。庭に大きな松の木がある……」
「ええ、そうですけど」
「前に住んでいた男の人は?」
どうやら、ご近所さんだったようだな。
「その人、僕の叔父です。先月事故で亡くなりまして、それで僕が相続することに……」
勤め先に近かった事もあり、叔父が急死しなければ下宿させてもらおうかとも考えていた矢先のことだった。
「まあ、そうでしたの。そういえば、あの家に娘さんいらっしゃったわね」
「え? 叔父はあの家に一人暮らししていたはずですが」
「でも、私見ましたよ。高校生ぐらいのお嬢さんがリビングにいるのを」
げ!? まさか、あれを見られたのか?
確かに、リビングならカーテンを閉めてなければ外から丸見えになる。
「そ……それはたぶん、ぼくの妹です。時々、叔父の身の回りの世話をしに……」
「妹さんでしたの? なんか可愛らしい恰好をしていましたね。その……秋葉原のカフェの女給が着るような……」
メイド服のことか。てか……女給って、この婆さん、明治生まれか?
本当言うと、僕に妹なんかいない。
しかし、ここで真実を話すといろいろと問題がある。とにかく、早くあれをなんとかしないと……
家に帰れば、今もあれはあるはずだ。
リビングのど真ん中にあるアームチェアに、無表情な顔で腰掛けるメイド服の少女。まるで、生きている人間のように見えるが人形である。
最初、この家に入ってこれを見つけた時、叔父が犯罪に手を染めてしまったのかと思い、慌てて警察に電話してしまった。
叔父が少女を監禁し、その叔父が外で交通事故に遭ってしまい、誰も面倒を見る人がいなくて餓死してしまったものかと……
警察が来てから人形と分かったが、以来僕はずっとこの人形と暮らしているのである。
部屋のインテリアと考えればいいかもしれないが、いくらなんでもこんな物を置いておくのは体裁が悪い。
だが、処分しようと思ったができなかった。
アームチェアから動かせないのだ。
まるで、椅子と一体化しているかのように……
では、椅子ごと動かそうとしたが、椅子は床と一体化していて無理だった。
一か月の間に、暇を見つけては人形を動かそうといろいろやったが、すべて徒労に終わった。
今朝になって、椅子の後ろに小さなレバーがあるのを見つけた。
もしや、これがストッパーなのではと思ってレバーを上げてみたが、やはり人形も椅子も全く動かない。
結局、そのまま僕は出社したのだった。
しばらくして、僕はカフェを出た。
バスの時間が近づいてきたからだ。
その前に、コンビニで買い物もしておきたい。
一人暮らしを始めて最初のうちは、僕もまめに自炊をしていた。
しかし、一人分の食事を作るというのは案外難しい。
作りすぎてしまったり、大量に買った食材を使い切らないうちに腐らせてしまうことが多かった。
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