霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
263 / 271
嫌悪の魔神

暗渠

しおりを挟む
「ここは?」



 そこは、緑に囲まれた細長い小径になっていた。
 
 路地で発生していた瘴気も、ここまでは流れてこない。

 見回すと、小径の脇に小さな祠が目に入る。

 まつられているのは、水神様のようだ。

 水神様という事は……

「どうやら、ここは暗渠あんきょのようだね」
「優樹君。暗渠って何?」
「ミクちゃん。暗渠というのは、小川などに覆いをかぶせたりして上から見えなくした水路の事だよ」
「そっか。じゃあ、この小径の下には水が流れているのね。だから、瘴気が無くなったんだ」

 ミクちゃんの言うとおり、水の流れがある場所では気が清められるらしい。

 だから、路地の瘴気もここまで届かないようだ。

「優樹。帰りは路地を通らないで、暗渠から帰った方がよくない? 私達はともかく、寒太がもたないわよ」

 樒の言う通り、寒太の悪霊化はかなり進行していた。

 もう一度瘴気地帯を抜けたら、今度こそ悪霊化してしまうかもしれない。

「そうだね。近くに地縛霊は……?」

 いた!

 石造りのベンチに、和装のお婆さんが腰掛けている。

 さっきの瘴気地帯にいた霊と違って、このお婆さんの周囲は清浄な気に満ちていた。

「すみません。少し、お話よろしいでしょうか?」

 お婆さんはおもむろに僕の方へ顔を向けると、にっこりと微笑みを浮かべた。

「おやおや、可愛らしい子ですね。私の姿が見えるのですか?」
「はい。霊能者ですから」
「そうでしたか。私はもうすぐ死神さんがお迎えに来てくれるので、生きているときに大好きだった、この蛇川緑道で待っているところです」
「そうでしたか」
「ですから、死神さんが迎えに来るまでの間でしたら、お話できますがそれでもよろしいですか?」
「はい。大丈夫です。お手間は取らせませんので」
「そうですか。それで、私になんの用かしら?」
「はい。実は……」

 僕は寒太を指さす。

「昨日、この男の子が路地から出てきたはずなのですが、見かけなかったでしょうか?」
「昨日? あら、困ったわね」
「何か問題でも……」
「私が亡くなったのは、今朝の事なのよ。昨日はずっとベッドで寝ていたから……」
「そうでしたか」
「でもね。この男の子には、確かに見覚えがあるのよね」

 え?

「そう。まだ生きている時に、この近くで見かけているのよ」
「え? どこで見たのですか?」
「ううん……どこだったかしら?」
 
 お婆さんが考えこんだ時、背後から声をかけられた。

「君達。僕は昨日もここにずっといたけど、路地からその悪ガキは出てこなかったニョロ」

 誰?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...