霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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嫌悪の魔神

六星家訪問

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「それじゃあ社君。早速、この入部届にサインして」

 芙蓉さん、あなたは甘いです。六星部長この人は、こういうお約束な事をしてしまう人なのですよ。

「帰っていいですね」
「ああ! 帰っちゃだめ!」

 踵を返して帰ろうとする僕を、彼女は背後から抱きしめてきた。

「ちょっ! 放して下さい!」
「だめよ! 帰さない。私を捨てないで」
「誤解を招くようなセリフは止めて下さい!」

 いったいどういう事態なのかって?

 話は少し戻る。

 予想はしていたけど、六星部長の家はかなり大きなお屋敷だった。

 最初に教えられた住所に来た僕の前に現れたのは、区画一帯を囲む高さ二メートルはありそうな塀。

 ベルを押すと門扉が自動的に開いた。

 バイクのエンジンを止め、車体を押して入って行くと『そのままバイクに乗って玄関まで来てね』と、部長さんの声でアナウンスが聞こえてくる。

 言われた通りバイクを走らせると、玄関に到着するまで約一分かかった。

 どんだけ広いんだよ!? この前行った権堂屋敷よりも広いぞ。面○邸か? いやそこまでは広くないか。

 とにかくようやくたどり着いた玄関前でバイクを降りると、玄関から部長さんが出てきて入部届を突きつけてくるという事態となったのだ。

「分かったわ。とにかく入部届けは引っ込めるから、話を聞いて」

 最初から、そうすればいいのに。

「次に入部届けを出したら、今度こそ帰りますからね」
「分かったわよ、分かったわよ。もう出さないわよ。今日は……」
「今日は?」
「今日と明日は出さないわ。私は」

 明後日になったら出すと言う意味を含んでいるのか、他の部員に出させるという意味を含んでいるか分からんが、とにかくここはさっさと用事を済ませる事にしよう。

「それで部長さん。霊子ちゃんはどこですか?」

 屋敷の中の長い廊下を歩きながら、僕は質問した。

「え? 霊子ちゃんなら部室にいるわよ」

 え?

「ていうか、霊子ちゃんは地縛霊なのだから、部室から離れられないでしょ」
「いや、地縛霊でも希に離れる事もあるので……でも、霊子ちゃんじゃないとしたら、どの霊と話をしたいのですか?」
「それがね。昨日学校から帰る途中で、霊が私について来ちゃったのよ」
「取り憑かれたのですか?」
「そんなところかな? まあ、霊に憑かれるなんて、私にはよくある事だし」

 よくある事なんだ。

「たいていは害のない霊だし、すぐにいなくなるから気にしていなかったのだけど……」

 部長さんは、一つの扉の前で立ち止まった。

 どうやら、ここが彼女の私室のようだな。
 
「なんか今回の霊は、ちょっと気分が悪くなるのよ。祓った方がいいかな? と思って社君に来てもらったの」
「気分が悪くなる? どんな感じで?」
「悪寒がするのよね。そう、例えて言うなら、体育の授業中に体操服姿の私を、『でへへ』とヨダレを流しているスケベエな中年男性教師から見られている時のような感覚」

 えらい具体的やな。

 状況から判断して、色情霊のようだが……

「社君なら、そういう感覚分かるでしょ?」
「いや、僕は男だから……」

 まあ、色情霊ならこの前襲われたから、そのおぞましい気配は分かるが、スケベ教師に見られる感覚なんて男の僕に言われても……

「え? 社君、気がついてなかったの?」
「何がですか?」
「いや、噂なんだけど……社君のクラスが体育授業の時に、ショタコン教師が体操着姿の君をヨダレ流して見ているとか」
「はあ!?」
「まあ、噂だけどね。私もその様子を見たわけじゃないし」 
「デマでしょ。体育の授業中に、そんな人いたら僕だって分かりますよ」

 たまに視線を感じることはあるけど、その視線の先にいるのは女神のような微笑みを浮かべた氷室先生だし、ショタコン教師なんてどこにもいないよ。

「とにかく、霊は私の部屋にいるから、見てちょうだい」

 部長さんが扉を開くと、そこに霊はいた。

「でへへ、お帰りなさい。キレイなお姉さ……あれ? なんでおまえも一緒にいるの?」

 その姿を見て、僕は盛大にこけてしまった。

 なんで寒太がここに?
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