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高速道路の霊
カルマ
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「カルマ? 仏教用語だったかしら?」
樒がそう言ったのは、料金所に帰り着いた時。
幽霊が、払われる寸前に残した言葉を樒に話してみたのだ。
「簡単に言うと、人生で悪い行いをすると悪いカルマが溜まって、地獄に堕ちる。逆に善行を積むと、良いカルマが溜まって極楽に行ける……ということだった思うが……」
ちょっと、違ったかな?
「ふうん。じゃあ、日頃行いのよい私は極楽行きね」
いや……お前、このままだと地獄行きだって……
「でも、『カルマを出して』ってどういう事かしら? このままだと地獄に堕ちるから『溜まった悪いカルマを出してくれ』ということ?」
「ううむ……違うと思う」
そもそもカルマは、膿みたいに出せるものじゃない。
「どっちにしても、犯人は軽くお仕置きして警察に突き出しておいたから、あの霊も満足してくれたんじゃないかな?」
「軽く?」
尾骶骨割りは、軽いお仕置きなのだろうか?
「何か、問題かしら?」
「いや、それはいいのだけど、あの幽霊はそんな事は望んでいないよ」
「なんで? 私だったら、煽り運転なんかで殺されたりでもした時は、犯人を七代先まで祟るけど……」
「樒は、そうかもしれないけど、誰もがそうじゃないって。あの幽霊にトンネルで会った時、僕は『復讐したいのか』と聞いた。だけど、彼女は首を横に振っていた。つまり、他に未練があるんだよ。それもかなり強い。このままだと、明日にでも現世に戻ってくる」
「じゃあ、その時に話を聞けば……」
「その時に、たまたま僕らがいれば問題はないのだけね。正直、今まであの状況で事故が起きなかったのが不思議なぐらいだ。次に幽霊に遭遇した人が、事故を起こさないという保証はないよ」
「じゃあ、どうするのよ?」
「彼女が戻ってくる前に、彼女の未練が何かを調べて、それを晴らしてやれればいいのだが……」
「どうやって? 身元も名前も分からないのに」
僕は池田さんの方を振り向いた。
「池田さん。事故車を運転していた男の人の名前は分かりますか?」
「ちょっと待って下さい」
池田さんはパソコンを操作してから答えた。
「鷲部さんという方です。年齢は三十歳、独身、職業は会社員」
「女性との接点は、やはり分からないのですか?」
「ええ……遺族の方も、職場の方も、まったく心当たりがないと。ただ、家族の話では、出かけるその日は妙にウキウキしていて、いつもはろくに掃除していない車を、丁寧に掃除していたとか。聞いてみると、デートだと。相手が誰なのか、言ってなかったようです」
「SNSか何かで、知り合ったのではないのですか?」
「僕もそう思うのですが……それだと警察でないと、調べようがないですね」
これ以上は無理か。
となると、やはり幽霊がまた出るのを待つしかないな。
「あ! そういえば」
不意に樒は、ポケットから何かを取り出した。
「さっき私、スピード違反で捕まったでしょ。切符を切られている時に、足元にこれが落ちているのを見つけたのよ」
樒は、ポケットから一枚の葉書を取り出した。
かなり薄汚れているが……これは!?
「年賀状!?」
「そう。もしかすると被害者の車にあった物かもと思って拾ってきたのだけど」
樒は、葉書の表を池田さんに見せた。
「『わしべ』って、この字でいいのかしら?」
そうか!
幻影の中で彼女が車窓を開いた時、車内に突風が吹き荒れた。
あの時に舞い上がった葉書の何枚か、車外に飛ばされたんだな。
その中の一枚が、これなんだ。
「葉書に書いてあったURLは?」
「ミクシイのURLだったわ」
「ミクシイだったのか」
「私もアカウント持っているから、すぐに分かった」
早速、僕たちは池田さんのパソコンを借りる事にした。
ミクシイの画面が現れる。
鷲部さんのミクシイネームはアルタイルだった。
なるほど、鷲部だから鷲座のアルタイルから取ったのだな。
アルタイルさんのページは、日記もつぶやきもない。
ほとんどゲームだけのためにミクシイをやっていたみたいだ。
最終ログインは一週間前。
つまり、事故のあった日。
「これだけでは、手掛かりにならないな……」
僕がそう言った途端、樒が僕からマウスを奪い取った。
「こういう時は、マイミクに尋ねるのよ」
「マイミク?」
「ミクシイユーザー同士の友達の事」
樒が操作すると、マイミク一覧のページ開いた。
マイミクの数は十人。
一人ずつメッセージを送るのかと思うと少なくて助かる。
しかし、メッセージを送るにはアカウントが必要。
樒のアカウントでログインしようとしたのだが……
「プライバシーの侵害よ。自分のアカウントを作りなさい」
「面倒くさいなあ」
とりあえずアカウントを作ってみた。
ミクシイネームはアトラス。
「アトラス?」
樒は、馬鹿にしたような視線を僕に向ける。
「優樹に一番似合わない名前ね」
ほっとけ!
とにかく、アカウントができたところで、アルタイルさんのマイミク一人一人にメッセージを送ってみた。
程なくして、その中の一人から返事が来る。
ミクシイ名はグッキー。
男性のようだ。
グッキー「初めまして。アトラスさん。アルタイルさんについてお聞きしたいそうですが」
メッセージを返してみた。
アトラス「実は、アルタイルさんは、一週間前に事故でお亡くなりなったのです」
グッキー「なんと! 一週間もログインが途絶えていたのですが、そんな事が」
アトラス「アルタイルさんの車に同乗していた女性の身元が分からないのです。家族も、会社関係者も心当たりがない。それなら、ネットで知り合ったのではないかと思いまして、アルタイルさんのマイミク全員にメッセージを送ったのです。心当たりはありませんか?」
グッキー「あります。アルタイルさんと同じ時期から、ログインしていない女性が」
アトラス「その方は?」
グッキー「ベガさんといいます」
ベガさん? アルタイルさんのマイミクの中に確かにいた。
それにしても、アルタイルとベガって……七夕かよ!
とりあえず、ベガさんのページに行ってみた。
プロフィールを見たが、飼い猫らしき猫画像があるだけで、あまり詳しい事は書いていない。
まあ、若い女性なら当然の用心だな。
しかし……
僕の隣からPC画面を見ている樒の方を向いた。
「このグッキーという人、おかしくないか?」
「なんで?」
「他人のログイン状況なんて、そんなチェックするものなのかな?」
「ああ! それは変でもなんでもないわ」
「普通なの?」
「私、このグッキーという人知っているのよ。同じミクシイゲームをやっている人」
「そうなの?」
「ゲーム内にはギルドという組織があってね、グッキーさんはテラニアというギルドのギルドマスターをやっている人よ。ギルドマスターなら、ギルドメンバーのログイン状況は把握しているわ」
「という事は、アルタイルさんとベガさんは、そのギルドメンバーという事なの?」
「そうよ」
「樒もテラニアのメンバーなのか?」
「違うわ」
「ギルドメンバーでないなら、なんで、知っているんだ?」
「このゲームには、一日二回ギルド同士の対戦があるの。対戦相手はランダムに選ばれるのだけど、テラニアは私の所属しているギルドとよくぶつかるのよ。だから、対戦したギルドで強い人の名前は、だいたい覚えているわ」
「へえ」
「アルタイルさんとベガさんは、テラニアの主力メンバーだったからね。これではテラニアの戦力激減ね」
樒が、ソシャゲに嵌っているとは知らなかった。
もしかして、こいつがやたら金を稼ごうとするのは、ゲームに課金するためか?
それは後で考えるとして、グッキーさんとのチャットを再開した。
アトラス「ベガさんのページを見てきましたが、日記もつぶやきもないので、アルタイルさんと会う相談をしていたかどうか確認できません」
グッキー「そりゃあ、他人に見られるようなところには書き込みませんよ。二人は、ゲーム内掲示板や、ギルド専用コミュニティで相談していました。ログインが途切れる前に、二人でイベントに行くとか相談していました」
アトラス「それは、いわゆるデートですか?」
グッキー「まあ、そうなりますね」
という事は、幽霊=ベガさんと考えて間違えなさそうだな。
アトラス「どうやら、車に同乗していた女性は、ベガさんのようです」
グッキー「気に毒に」
アトラス「それで、女性が亡くなる寸前に言い残した事があるのですが」
幽霊から聞いたというは、言わない方がいいだろうな。
グッキー「なんでしょう?」
アトラス「『カルマを出して』と言い残していたのですが、意味分かりますか?」
グッキー「それは大変だ! 早く出してあげないと」
え? これだけで分かるの?
樒がそう言ったのは、料金所に帰り着いた時。
幽霊が、払われる寸前に残した言葉を樒に話してみたのだ。
「簡単に言うと、人生で悪い行いをすると悪いカルマが溜まって、地獄に堕ちる。逆に善行を積むと、良いカルマが溜まって極楽に行ける……ということだった思うが……」
ちょっと、違ったかな?
「ふうん。じゃあ、日頃行いのよい私は極楽行きね」
いや……お前、このままだと地獄行きだって……
「でも、『カルマを出して』ってどういう事かしら? このままだと地獄に堕ちるから『溜まった悪いカルマを出してくれ』ということ?」
「ううむ……違うと思う」
そもそもカルマは、膿みたいに出せるものじゃない。
「どっちにしても、犯人は軽くお仕置きして警察に突き出しておいたから、あの霊も満足してくれたんじゃないかな?」
「軽く?」
尾骶骨割りは、軽いお仕置きなのだろうか?
「何か、問題かしら?」
「いや、それはいいのだけど、あの幽霊はそんな事は望んでいないよ」
「なんで? 私だったら、煽り運転なんかで殺されたりでもした時は、犯人を七代先まで祟るけど……」
「樒は、そうかもしれないけど、誰もがそうじゃないって。あの幽霊にトンネルで会った時、僕は『復讐したいのか』と聞いた。だけど、彼女は首を横に振っていた。つまり、他に未練があるんだよ。それもかなり強い。このままだと、明日にでも現世に戻ってくる」
「じゃあ、その時に話を聞けば……」
「その時に、たまたま僕らがいれば問題はないのだけね。正直、今まであの状況で事故が起きなかったのが不思議なぐらいだ。次に幽霊に遭遇した人が、事故を起こさないという保証はないよ」
「じゃあ、どうするのよ?」
「彼女が戻ってくる前に、彼女の未練が何かを調べて、それを晴らしてやれればいいのだが……」
「どうやって? 身元も名前も分からないのに」
僕は池田さんの方を振り向いた。
「池田さん。事故車を運転していた男の人の名前は分かりますか?」
「ちょっと待って下さい」
池田さんはパソコンを操作してから答えた。
「鷲部さんという方です。年齢は三十歳、独身、職業は会社員」
「女性との接点は、やはり分からないのですか?」
「ええ……遺族の方も、職場の方も、まったく心当たりがないと。ただ、家族の話では、出かけるその日は妙にウキウキしていて、いつもはろくに掃除していない車を、丁寧に掃除していたとか。聞いてみると、デートだと。相手が誰なのか、言ってなかったようです」
「SNSか何かで、知り合ったのではないのですか?」
「僕もそう思うのですが……それだと警察でないと、調べようがないですね」
これ以上は無理か。
となると、やはり幽霊がまた出るのを待つしかないな。
「あ! そういえば」
不意に樒は、ポケットから何かを取り出した。
「さっき私、スピード違反で捕まったでしょ。切符を切られている時に、足元にこれが落ちているのを見つけたのよ」
樒は、ポケットから一枚の葉書を取り出した。
かなり薄汚れているが……これは!?
「年賀状!?」
「そう。もしかすると被害者の車にあった物かもと思って拾ってきたのだけど」
樒は、葉書の表を池田さんに見せた。
「『わしべ』って、この字でいいのかしら?」
そうか!
幻影の中で彼女が車窓を開いた時、車内に突風が吹き荒れた。
あの時に舞い上がった葉書の何枚か、車外に飛ばされたんだな。
その中の一枚が、これなんだ。
「葉書に書いてあったURLは?」
「ミクシイのURLだったわ」
「ミクシイだったのか」
「私もアカウント持っているから、すぐに分かった」
早速、僕たちは池田さんのパソコンを借りる事にした。
ミクシイの画面が現れる。
鷲部さんのミクシイネームはアルタイルだった。
なるほど、鷲部だから鷲座のアルタイルから取ったのだな。
アルタイルさんのページは、日記もつぶやきもない。
ほとんどゲームだけのためにミクシイをやっていたみたいだ。
最終ログインは一週間前。
つまり、事故のあった日。
「これだけでは、手掛かりにならないな……」
僕がそう言った途端、樒が僕からマウスを奪い取った。
「こういう時は、マイミクに尋ねるのよ」
「マイミク?」
「ミクシイユーザー同士の友達の事」
樒が操作すると、マイミク一覧のページ開いた。
マイミクの数は十人。
一人ずつメッセージを送るのかと思うと少なくて助かる。
しかし、メッセージを送るにはアカウントが必要。
樒のアカウントでログインしようとしたのだが……
「プライバシーの侵害よ。自分のアカウントを作りなさい」
「面倒くさいなあ」
とりあえずアカウントを作ってみた。
ミクシイネームはアトラス。
「アトラス?」
樒は、馬鹿にしたような視線を僕に向ける。
「優樹に一番似合わない名前ね」
ほっとけ!
とにかく、アカウントができたところで、アルタイルさんのマイミク一人一人にメッセージを送ってみた。
程なくして、その中の一人から返事が来る。
ミクシイ名はグッキー。
男性のようだ。
グッキー「初めまして。アトラスさん。アルタイルさんについてお聞きしたいそうですが」
メッセージを返してみた。
アトラス「実は、アルタイルさんは、一週間前に事故でお亡くなりなったのです」
グッキー「なんと! 一週間もログインが途絶えていたのですが、そんな事が」
アトラス「アルタイルさんの車に同乗していた女性の身元が分からないのです。家族も、会社関係者も心当たりがない。それなら、ネットで知り合ったのではないかと思いまして、アルタイルさんのマイミク全員にメッセージを送ったのです。心当たりはありませんか?」
グッキー「あります。アルタイルさんと同じ時期から、ログインしていない女性が」
アトラス「その方は?」
グッキー「ベガさんといいます」
ベガさん? アルタイルさんのマイミクの中に確かにいた。
それにしても、アルタイルとベガって……七夕かよ!
とりあえず、ベガさんのページに行ってみた。
プロフィールを見たが、飼い猫らしき猫画像があるだけで、あまり詳しい事は書いていない。
まあ、若い女性なら当然の用心だな。
しかし……
僕の隣からPC画面を見ている樒の方を向いた。
「このグッキーという人、おかしくないか?」
「なんで?」
「他人のログイン状況なんて、そんなチェックするものなのかな?」
「ああ! それは変でもなんでもないわ」
「普通なの?」
「私、このグッキーという人知っているのよ。同じミクシイゲームをやっている人」
「そうなの?」
「ゲーム内にはギルドという組織があってね、グッキーさんはテラニアというギルドのギルドマスターをやっている人よ。ギルドマスターなら、ギルドメンバーのログイン状況は把握しているわ」
「という事は、アルタイルさんとベガさんは、そのギルドメンバーという事なの?」
「そうよ」
「樒もテラニアのメンバーなのか?」
「違うわ」
「ギルドメンバーでないなら、なんで、知っているんだ?」
「このゲームには、一日二回ギルド同士の対戦があるの。対戦相手はランダムに選ばれるのだけど、テラニアは私の所属しているギルドとよくぶつかるのよ。だから、対戦したギルドで強い人の名前は、だいたい覚えているわ」
「へえ」
「アルタイルさんとベガさんは、テラニアの主力メンバーだったからね。これではテラニアの戦力激減ね」
樒が、ソシャゲに嵌っているとは知らなかった。
もしかして、こいつがやたら金を稼ごうとするのは、ゲームに課金するためか?
それは後で考えるとして、グッキーさんとのチャットを再開した。
アトラス「ベガさんのページを見てきましたが、日記もつぶやきもないので、アルタイルさんと会う相談をしていたかどうか確認できません」
グッキー「そりゃあ、他人に見られるようなところには書き込みませんよ。二人は、ゲーム内掲示板や、ギルド専用コミュニティで相談していました。ログインが途切れる前に、二人でイベントに行くとか相談していました」
アトラス「それは、いわゆるデートですか?」
グッキー「まあ、そうなりますね」
という事は、幽霊=ベガさんと考えて間違えなさそうだな。
アトラス「どうやら、車に同乗していた女性は、ベガさんのようです」
グッキー「気に毒に」
アトラス「それで、女性が亡くなる寸前に言い残した事があるのですが」
幽霊から聞いたというは、言わない方がいいだろうな。
グッキー「なんでしょう?」
アトラス「『カルマを出して』と言い残していたのですが、意味分かりますか?」
グッキー「それは大変だ! 早く出してあげないと」
え? これだけで分かるの?
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