霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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嫌悪の魔神

降真亜羅の事情

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 これは……どう判断すべきか?

 確かにリアクションはあったが、それは式神にではなくてそれが操作しているカメラに対して。

 式神は見えなくても、カメラは普通の人にも見えてしまう。

 降真亜羅は本当に式神が見えていなくて、カメラだけが見えたのだろうか? 

 しかし、本当は式神も見えているけど、それを隠すためにわざとカメラの事を騒ぎ立てた可能性もある。

 いや、それよりも、このままではカメラを仕掛けた僕が犯罪者にされてしまうぞ。

 その時、司馬さんが僕らの方を向いた。

 その目は(あなた達が仕掛けたの?)と聞いているようだ。

 僕は無言で頷く。

 それを確認すると司馬さんは、降真亜羅の方を向いた。

「ごめん。それお店の監視カメラ」
「え? だって、監視カメラを地面に置くかしら?」
「この前、万引き犯がね、四つん這いになって逃げて行ったの」
「四つん這い? なんで?」
「低い位置だと、顔が防犯カメラに映らないのよ。だから、死角を塞ぐために床にカメラを置いたの」

 とっさにこんな嘘をつけるとは……司馬さん、あなどりがたし……

「そ……そうなの?」
「でも、これだとスカートの中が映っちゃうわね。設置場所を考え直さないと」

 そう言ってから、司馬さんはバックヤードの方へ行く。

「ナベ君。ちょっと店番代わって」

 司馬さんに呼ばれて、男性店員がバックヤードから出てきた。

 よく見ると、渡辺君じゃないか。

 コンビニでバイトしているとは聞いていたけど、司馬さんと同じ店だったのか。

「彼も優樹のクラスメート?」
「そうだよ」
「イケメンね」

 ……!

「言っておくけど、渡辺君を狙っている女の子はいっぱいいるから……」
「あら? 私は別にイケメンと言ったけど、惚れたりはしてないわよ」
「そ……そうなの」
 
 なんだろう? このモヤモヤした気持ちは……ん?

 ミクちゃんが僕の袖を引っ張っている。

 振り向くと、ミクちゃんがニヤニヤと笑みを浮かべ、僕の耳元に口を寄せてささやいた。

「優樹君。ヤキモチ焼いているでしょ」

 ち……違う! これは決してヤキモチでは……

 ヤキモチなのかな?

 そうしている間に、司馬さんは降真亜羅をイートインへ連れてきた。 

 席は僕達の隣だが、観葉植物に阻まれて僕達の姿は見えない。

 しかし、会話は丸聞こえ。

「それで、司馬さん。私のやった事は誘拐になっちゃうの?」
「現時点では何とも言えないわ。だから、まず降真さんがどういう状況で、あの男の子と会って店に連れてきたのか。その後、男の子をどうしたのか。それを話してほしいの」
「分かったわ」
「それじゃあ、最初にあの男の子の名前は?」
「分からない」
「え?」
「記憶を失っているらしいのよ」
「そう。それで会ったきっかけは?」
「昨日、学校から帰る途中、あの子が私にぶつかってきたのよ」
「ぶつかった?」
「角を曲がったところで軽くぶつかったの。そしたら、倒れちゃって。そのまま起きあがらないから、心配になって。そしたらお腹が空いて動けなかっただけだったの」
「何も食べてなかったの?」
「そう。なんでも、お姉さんと町中ではぐれてしまって、一日中町を彷徨さまよっていたらしいわ。可哀相だから、お昼の残りのサンドイッチを上げたの」
 
 お姉さんと逸れた? そのお姉さんというのが、アラティなのでは?

 寒太はなんらかの事情でアラティと逸れてしまい、倒れかけたところを降真亜羅に救われたということだろうか?

「樒。どう思う?」

 隣に聞こえないように、小声で話しかけた。

「ううん、辻褄は合っているわね」
「だよね。作り話だとしても、それを覆す根拠はない」
「とにかく、彼女がアラティではなく善意の第三者だというのなら、事情を話してここに寒太を連れてきてもらっても何も問題はないわね。それですべてが解決よ」

 もし、事情を聞いて連れてくることを渋ったら、その時はやはり彼女がアラティという可能性が出てくる。

 臨席に声をかけようと思ったその時……

「ごめん、司馬さん。ちょっとお手洗い」
「どうぞ」

 そのまま、降真亜羅は席を立ってトイレへ向かった。

 仕方ないな。戻るまで待つか。
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