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嫌悪の魔神

転校生への疑惑1

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 お稲荷様の祠を後にした僕らは、次の目撃者を捜しに移動した。

 しかし……

「あたし、そろそろ時間なので……」

 ミクちゃんがそう言った時には、周囲はかなり暗くなっていた。

「今日はもう解散しよう。明日も学校あるし……」
「そうね。ミクちゃん、私のバイクに乗っていく?」
「大丈夫です。お爺ちゃんが、車で迎えに来てくれる事になっているので」
「ちょっと待てよ! 俺の身体はどうなるんだよ?」

 寒太は不満そうだが、疲れを知らない幽霊と違って生身の人間は休養が必要。

「寒太。明日また捜すから」

 そう言ってみたが、寒太は納得しない。

「そんな呑気な」
「大丈夫。身体は逃げないから」
「いや、逃げているから捜しているんだろ!」

 あれ? そうだっけ? まあ、いいや。

 結局、そのままその日は解散という事になった。



「ねえ、社君」

 司馬さんに声をかけられたのは、翌日放課後の教室での事。

 ホームルームが終わって帰ろうとしている時に、樒から届いたメールを見ていると、背後から司馬さんに声をかけられたのだ。

 ちなみにメールの内容は……

『昨日、寒太の心霊写真撮ったから送るわね。今日の捜索は、寒太を連れて行かないでその写真を使おう』

 確かに、その方がいいな。寒太を連れて行くのは正直疲れる。 

 なんて事を考えていた時の事……。

「なんで、降真こうまさんの弟の写真を、社君が持っているの?」

 え?

 司馬さんがそう言って指さしていたのは、机の上にある僕のスマホ。

 画面に映っているのは、樒から送られてきた寒太の写真であって、転校生の降真亜羅とは何も関係ないはずだが……

「司馬さん。それはどういう事?」
「どうって……その男の子、降真さんの弟でしょ?」

 何を言っているのだ?

 寒太が降真さんの弟って、何を勘違い……いや、まさか!? 

「司馬さん。この子を、どこかで見たの?」
「ええ。私は、コンビニでアルバイトしているのだけどさ。昨日、お店に降真さんがその男の子を連れて入ってきたのよね」

 なんだって?

「なんでも、その男の子がお漏らししたそうで、代えのパンツを買いに来たそうなのよ」

 寒太は小学六年生。そうそうお漏らしするような歳ではない。

 しかし、悪霊に憑依された場合、悪霊は人の身体を上手くコントロールできなくて失禁する事がよくあるらしい。

 ということは、司馬さんの見た子は寒太の可能性が高い。

 それなら、それを連れていた降真亜羅は……

 周囲を見回した。

 いない! 教室内に、降真亜羅の姿はどこにもなかった。

「司馬さん。降真さん知らない?」
「降真さんなら、ホームルームが終わった途端に、教室から駆けだして行ったわよ」
「この男の子、本当に降真さんの弟だったの?」
「いやあ、状況から見て弟かなあ? と思っていただけで。ホームルームが終わったときにでも、聞こうかなと思っていたのだけど、話しかける間もなく教室から出て行っちゃったから」
「じゃあ、弟というのは司馬さんの想像なの?」
「うん。あくまでも私の想像。でも、あの状況だと普通は弟と思うじゃない」
「あの状況?」
「小学生とは言え、知らない男の子のしもの世話をするために、一緒にトイレに入ったりする?  花の女子高生が」

 そこまでやったんか。

「いや、実の弟だとしても、普通そんな事はしないでしょ。まあ、降真さんがよっぽど優しい女の子だとするなら別だけど」

 だとすると、やはりそうなのか?

 いや、そう考えた方がいろいろと辻褄が合う。

 降真亜羅が転校してきた時期。

 転校初日に、僕の顔を見て驚いていた事。

 そして、何よりも悪霊に憑依されている寒太の肉体を連れ回している。

 これだけの状況が揃っているなら、降真亜羅の正体は……

 嫌悪の魔神アラティなのか!?
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