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嫌悪の魔神

死神の慈悲1

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「助けてくれー!!」

 少年はありったけの声を張り上げた。

 状況は絶対絶命。

 踏切で線路に足を挟まれ、一歩も動けない。

 本来なら、踏切の線路には詰め物が入っていて、この様な事故は起きるはずがない。
 
 だが、この踏切では、何者かによって詰め物が取り除かれていた。

 警報は鳴り響き、遮断機は降りている。

 電車の運転手が少年に気が付いても、ブレーキは間に合わないだろう。

 少年は周囲を見回した。

 近くにいる人間は、遮断機の向こうから虚ろな表情で彼を見つめている少女だけ。彼のクラスメートだ。

 この少女には、いろいろと悪い噂があった。

 母親が麻薬に手を出しているとか、父親が働かないで生活保護費でパチンコ三昧とか、少女も給食費をずっと滞納していた。

 しかし、この状況で少年を見殺しにできるほど、冷酷ではないはず。

 そう信じたい。

「有村!! 助けてくれ!!」

 だが、少女はぴくりとも動こうとしない。

「はい。お待たせ。迎えに来たぜ」

 その声は少年の背後からかかった。

 振り向くといつの間にかパンクロッカー風の青年がそこにいる。

「助けて!!」

 少年は青年にすがりついた。

「あれ?」

 いや、すがりつこうとした。

 だが、できない。

 少年の手は、虚しく青年の身体をすり抜けたのだ。

「まったく、最近のガキは言葉遣いがなってないな」

 青年は、嘲るように言う。

「こういう時は『助けてください。かっこいいお兄さま』だろ」

 少年は一時、自分の立場を忘れてボソっと呟く。

「かっこいいつもりなんだ」

 ニヤニヤしていた青年の笑みが凍りついた。

「帰っていいか?」
「ああ!! 帰らないで!!」
「心配するな。本当に帰ったりはしない」

 少年は一瞬安堵した。

「だが、助ける気もない」
「なんで!? そんな事言わないで助けて」
「仮に助けたくてもできねえんだよ」
「なんで?」
「さっき、おまえの手、俺の身体をすり抜けただろ。同じように俺の手もおまえの身体に触れない。だから、おまえを線路からひっぱり出すことはできない」
「どうして?」
「俺は死神だからさ?」
「はあ?」
「死神なんているわけないと思ってるな。では、おまえの手が俺をすり抜けたのはなんでだと思う?」
「本当に……死神なの?」
「だから、そうだと言っているだろ。言っておくが、俺がおまえを殺すわけじゃないからな。おまえがここで死ぬのは、自業自得だ」
「なんで?」

 死神は、踏切の外からこの様子を見ている少女を指さす。

「おまえ、あの女の子に悪さしようとして追い回していたな」
「いや……その……」
「そして、この踏切に駆け込んで線路の隙間に足が挟まった。どう見ても自業自得だろ」 
「……俺……もう、助からないの?」

 死神はスマホを取り出した。

「なんで死神がスマホ?」
「ああ? 死神がスマホ持っていちゃ悪いか? 霊界だって進歩してんだよ。この前人間界のドラマ見たら、紙のノートに死ぬ奴の名前書いていたけど、今時の死神が紙の閻魔帳なんか使うかよ。今はみんなこれだ」

 死神はスマホをかざした。

 スマホのディスプレイには、少年の名前とその横に九十五という数字がある。

「まあ、中にはガラケーに固執する死神もいるけどな」
「あの……」

 少年はスマホに表示されている数字を指さす。

「この九十五って数字は?」
「おまえの死ぬ確率だ」
「じゃあ、助かる確率が五%あるって事?」
「そうだけど、あんまり期待するなよ」

 死神は、遮断機の向こうにいる女の子を指さす。

「おまえが助かる可能性は、あの女の子にかかっている」
「え?」

 
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