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事故物件2

反撃

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 僕から少し離れた場所で、魔入さんはおかしな踊りを踊るような動きをしていた。

「私の中から出て行って!」
「私の支配を受け入れろ!」

 何も知らない人がこの様子を見たら、魔入さんが一人芝居しているかのように見えるだろうけど、本人は悪霊から身体を取り戻そうと必死なのだな。

 しかし、今なら蔦のコントロールも弱まっているのでは……?

 あかん。手足を動かしてみようとしたが、相変わらずガッシリとホールドされている。

 ネズ子の方はどうだろ?

 蔦をかじっている! もう少しで抜け出せそうだ。

「ええい! もうおまえなどいらん!」

 突然、魔入さんの身体から、長い黒髪で顔を覆い隠している白いワンピース姿の女性が飛び出した。

 昼間に見た悪霊! ていうかこの姿、テレビ画面から這いだしてくる人のコスプレでは?

 悪霊が身体から離れると同時に、魔入さんの身体はクタッと倒れる。

 長く憑依されていたから、身体が弱っているのだろう。

 大丈夫かな?

「元々おまえに取り憑いたのは、タンハー様のスマホを取り返すためだ。目的を達成した以上、もうおまえに用はない」 

 悪霊は、僕の方へ目を向けた。

 怖い!

「うふふ。さあ坊や。お姉さんと良いことしましょ」

 待てよ。この人はショタコンだよな。それなら……

「待って! 僕は、こんな姿だけど、本当は高校生です」

 ショタコンなら、高校生と聞いてどん引きするかも……

「知っているわよ」

 え? 知っていたの? あ! そいえばさっき『見た目はともかく、この子は高校生でしょ』と言っていたな。

 魔入さんの記憶を探ったのか?

「お姉さんは、高校生も守備範囲よ。だから、安心して」

 安心できるかあ!

「待って! 待って! 高校生というのも嘘です! 本当は成人しています」
「何歳?」
「ええっと……よ……四十……」

 無理過ぎだった……

「中年なの?」

 あれ? 信じたのか?

「そ……そうです。中年です。幻滅したでしょ」

 このまま幻滅して、どっか行ってくれるかな?

「うふふふ。そういう、苦し紛れの嘘を付いてまで逃れようとするところが、ますます可愛いわ」

 あかん! 騙せない……あたりまえか……

 悪霊は、長い黒髪をバサッと払った。

 露わになった土気色の顔が、僕に迫ってくる。

 あれとキスするの? ほとんどゾンビじゃん。

 これじゃあ、魔入さんに憑依されたままの方がまだマシだよ!

「優樹君」

 耳元でネズ子の声が! 

 抜け出したのか?

「右腕に絡みついていた蔦を噛み切ったでちゅ。今なら、退魔銃が使えるでちゅ」

 そうか! 魔入さんの身体から離れてしまえば、退魔銃の効果がある。

「ありがとう。ネズ子さん」

 自由になった右腕が懐のホルスターに届くのと、悪霊の唇が僕の唇と触れるのとほぼ同時だった。

 精気を吸い取られ、意識が遠のきそうになる中、僕はトリガーを引く。

「ひいいいいい!」

 悲鳴を上げて僕から離れた悪霊のわき腹には、大きな穴が空いていた。

「いつの間に、退魔銃を……」

 第二弾を撃った。

 悪霊の髪が少し消える。

「ひい! よくも私の髪を!」

 あ! 怒らせちゃったかな?

「もう、許さない」

 そう言って悪霊は、床に倒れている魔入さんの方へ向かう。

 魔入さんの様子を見ると、ようやく意識を取り戻したところのようだ。

「六道魔入。この部屋に、テレビカメラがあるというのは嘘だったぞ」
「え? そうなの……」

 眠そうに目を擦りながら、魔入さんは答える。

「だから、今この部屋でこのショタっ子を襲っても誰にもばれない」
「え? ちょっ! 待っ! 私は社さんを襲うなんて考えては……はう!」

 悪霊は再び魔入さんの身体に入りこむ。

 これでまた退魔銃が効かなくなった。

「さあ、坊や。観念しなさい」
「観念するのは、お前の方でちゅ!」

 声の方に目を向けると、ドアのところに人化したネズ子が立っている。

「忌々しいネズミ女。お前ごときに何ができる?」
「あたしに何もできないとでも、思っているのでちゅか?」

 そう言ってネズ子は、ニヤっと不敵な笑みを浮かべた。
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