霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
186 / 270
事故物件2

さようなら。僕の恋。

しおりを挟む
 ここは、元々予定にない物件だったというのか?

「まあ、いい映像が撮れたのだから良かったわ」

 良くない!

 そのせいで僕は、蔦の化け物に襲われて、恥ずかしい映像を撮られて、悪霊に精気を吸われて死にかけたというのに……

「じゃあ、本来僕たちが入る物件は、どこだったのですか?」
「それが、この住宅街に入ってすぐのところだったのよね。ほら、私たちが住宅街に入ってすぐに幽霊が後から付いてきたでしょ」
「ええ」
「あの幽霊が、本来の取材対象だったらしいわ」

 確かにあれなら危険はないが……

「うわ!?」

 突然樒に抱き上げられた。

「なにすんだよ! 樒」
「何って、お姫様抱っこしているんだけど」
「恥ずかしいだろう!」
「あんた、しばらくは身体が動かないのでしょ。動くまでの間、私が抱っこしてあげるわよ」
「いいよ。そこまでしなくても」
「よくないわよ。九字で悪霊を追っ払ったけど、あれは一時的な処置だから。いつ戻ってくるか分からないし、早くここを離れないと危険よ」

 そう言ってから樒は、僕を抱き抱えたまま玄関へ向かって歩き出した。

 その横を魔入さんがすれ違う。

 樒は後を振り返って言った。

「魔入さん。この家は危険だからもう入らないで」
「だって、まだパワーストーンが……」
「しょうがないな。やっちゃって」

 樒は誰に言っているんだ?

「きゃあ! 何よ。これは?」

 何が起きたのだろう?  

 と思っていると、何かが僕と樒の横を通り過ぎた。

「ちょっと! 私は長い物は苦手だって言ったでしょ!」

 金色の竜が、その細長い身体を魔入さんの身体に巻き付けて飛んでいた。

 この竜、ミクちゃんの式神だったな。

「樒。ミクちゃんも来ていたの?」
「そう。式神が必要になるかもと思ってね。まあ、私の九字切りで片づいたけど。ミクちゃんには、すでにブースターを飲んで待機してもらっていたから、魔入さんを待避させるのに使わないともったいないじゃない」

 ブースターってかなり高いらしいからな。

「魔入さん」

 樒が呼びかけると、竜に巻き付かれた状態で魔入さんは振り向いた。

「今、私が優樹を抱っこしている様子は撮影していますか?」
「そりゃあ、ドローンが撮影しているけど……」
「じゃあテレビに出すときは、私の事は美少女霊能者の彼氏という設定にしておいてくれない」
「え?」

 魔入さんはしばし考え込む。

「単なる相棒じゃだめなの?」
「彼氏がいるという設定にしておいた方が、優樹にストーカーする奴が減るでしょ」
「ううん。どうかしら? でも、恋人という設定にしたいのなら、もっと恋人らしい事をしてもらわないと……」

 恋人らしい事?

「それもそうね。じゃあ優樹。今から、恋人らしい事しようか」
「ちょっと! 樒! 恋人らしい事って、何を?」
「前に一度やったでしょ。あんたのお母さんの車の中で……」
「まて! まて! まて! これってテレビに映るんだよ!」
「当たり前じゃない。テレビに映すためにやるんじゃない」
「みんなに見られちゃうよ!」
「いいじゃない、私も優樹も変装しているし」
「母さんにはばれているし、超研の先輩達にもばれているし……」

 なにより、氷室先生にばれている。

 先生にこんなシーン見られたら、僕の恋は……

「別にいいじゃない。先輩たちに見られたって」
「ああ! そうだ! 呪殺師ヒョーも番組を見ていて、僕だと気がついたんだ」
「え? そうなの?」
「そうだよ。さっきネズ子が来てそんな事言っていたんだ」
「そうか。ヒョーが見ていたのね」

 考え直してくれたか。

「それなら、尚更やらないと」

 なんでそうなる!

「ここで私と優樹の仲を見せつけて、ヒョーには優樹の事を諦めさせるのよ」
「いや、待って。そんな事をしたら樒が呪われ……わ!」

 樒が急速に顔を近づけてきた。

「わあ! 近い! 近い! 近い!」

 さようなら。僕の恋……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...